内緒だって言ったのに
スパゲッティはやっぱりミートソースに限る。でも服にソースが飛びやすいのが難点だ。
「ごちそうさまでしたー!」
「はい、お粗末さまでした」
「食器洗い手伝いましょうか?」
きらなちゃんは晩御飯のスパゲッティを食べ終わって、私のお母さんに言った。
「いいのよ。あなたたちは遊んでなさい」
「はーい」
「ありがとうございます」
お母さんは食器を全部まとめて台所に持っていった。
「僕お風呂入るー!」
天が居間を飛び出して着替えを取りに行った。
「ねえねえ、じゃあ天くんがお風呂上がるまで上でお話ししようよ」
「うん!」
今日は八月五日。ついに私は学校に行くことはなく、夏休みに入った。きらなちゃんは毎日朝から遊びに来てくれる。私は嬉しくて嬉しくて仕方がない。私たちはベッドの上に座って、お話をした。
「明日の天文部、楽しみだねー」
「ねえ、ほんとに私も行っていいのかなあ。私、学校休んでるのに」
「いいのいいの。たかしちゃんだって部員じゃん。部員はみんな参加していいことになってるのよ。私、たかしちゃんが書いてくれた合宿参加の紙出したもん。これで合宿行って帰れって言われたら、私だって帰ってやるわ!」
前、学校がまだ夏休みになってない時、きらなちゃんが合宿参加の用紙を持ってきてくれた。私とお母さんはそこにサインをして、きらなちゃんに先生に渡すようにお願いをした。だから、多分学校に行っていない私も合宿に参加しても大丈夫ってことになってる。でも、まだ明日行ってみないとわかんなかった。
「大丈夫よー、心配しすぎ。私はちゃんと提出したもん。大丈夫大丈夫。そんな心配よりもお風呂まで何する?」
久しぶりの学校で、それも緊張する。けれど、きらなちゃんは簡単に緊張を吹き飛ばしてくれるんだ。
「えーっと、お話しでもする?」
「そうだ、夜だから恋バナでもしましょうか」
「もう、夜だからって。さっきも私とただしくんのお話したばっかだよ」
きらなちゃんは私がただしくんと付き合ってからただしくんとの話ばっかり聞いてくるようになった。はずかしいけどきらなちゃんには隠し事ができなかった。
「たかしちゃんの恋バナは何回でも聞けるからいいのよ……。甘酸っぱいって言うのかなあ。で、最後に忠が来たのはいつだっけ」
「えっと、二週間くらい前の。日曜日」
「ってことは夏休み前かー。んで、ちゅーは? したの?」
「ああんもう! ばかばか! それはただしくんとの内緒なのー! ぬいぐるみぎゅーってしたりして遊んだんだから!」
「あははー、可愛いなあ。でもさ、いっぱいたかしちゃん家に遊びに来てたけど、たかしちゃんの家泊まるのは初めてだよ! 緊張するねー」
「そうだよー、恋バナなんてしてる場合じゃないよう。ちゃんとお着替えとか持ってきた?」
今日はきらなちゃんが初めてうちに泊まってくれる。明日は学校にお泊まりだから、きらなちゃんと二日間も一緒にいられる。こんなに嬉しいことはない。
「持ってきたよー。ちゃんと忘れずに持ってきた。明日の分もしっかりと」
「よかった。きらなちゃんって意外とと忘れ物とかするから下着とか忘れてきたんじゃないかって心配してた」
「あ! パンツ!」
「え、えええ? 忘れたの?」
どうしよう。私の貸してあげないとだ。でも私の下着履くなんてやだよね。どうしよう……。
「うそー! ちゃんと持ってきた。見る?」
「何だー、もう。びっくりさせないでよ。貸してあげないとって思っちゃった。それにみないよう。私変態さんじゃないもん」
「みないのかー。変態さんじゃないかー。でも? ちゅーは?」
「ばかあ、内緒なのー!」
「ふ、たかしちゃんが内緒にしても仕方がないのよ」
「な、なんで?」
「だって、学校で忠に聞いたからね!」
「えええーただしくんのばかあ。二人だけの内緒だって言ったのにー。もうちゅーしない! ただしくんのばかあ」
ばかばかあ。内緒だって言ったのに。でもただしくんのこと嫌いになれない。好きだから。ばかー。
「あははは、冗談よ。忠はそんなこと一切教えてくれないわ。でもなるほどねえ、二人だけの秘密なのねえ」
「うわあああん、きらなちゃんのばかあ。嘘ついたー! 裏切り者ー!」
私はきらなちゃんのことをぽかぽかと叩いた。きらなちゃんは平気そうに笑っている。




