ただ目を瞑って、じっと待った
「で、誰なの? きらなちゃん」
「う、流せると思ったのに」
お互い抱きしめたまま私たちは話をした。
「流せません!」
「そういやさ、たかしちゃんちゅーした?」
私を少し遠ざけて、私の目を見て興味津々そうに言った。
「…………」
私は何も答えられなかった。
「わ、したんだ!」
「な、内緒だもん! 内緒内緒ー!」
「わー、たかしちゃんえっちなんだー」
「えっちじゃないもん、内緒だもん!」
「恋人ってさ。キス。するよな」
「わう。恋人は、ちゅー、するね」
私はただしくんの膝に座って、ただしくんの両腕をぎゅーってしていた。背中に忠くんがひっついて、とっても暖かくて幸せな気持ちになる。
「中学生の恋人でも、キスってすんのかな」
「す、するかもしれない」
心臓が本当にはち切れるんじゃないかってくらいバクバク言う。そのせいか、頭が少しぼうっとする。誰も入ってこないよね。絶対入ってこないで。
私はただしくんの膝から立ち上がって、向かい合って正座をした。
「やっぱり、しないといけないかもしれない」
「しないといけないよな……。そうだよな」
ただしくんの顔が真っ赤だった。でも、かっこいい。
「わたし。ただしくん、かっこいいと思う」
「ばか、何言ってんだよ」
「だってそう思ったんだもん。ただしくんは? 私のこと、どう思う? やっぱりかわいくないよね。ごめんね」
「そ、そんなことねえよ。俺はすっげえかわいいと思ってるよ。まじで、一目惚れだったと思う」
嬉しい。ただしくんに言われるのがとても嬉しい。
私は目を瞑った。ただ目を瞑って、じっと待った。
何も見えない。何も聞こえない。肩に、ただしくんの手が触れた。びっくりして体がビクッとした。
「たかし、好きだ」
「ただしくん、好き」
私の唇に、ただしくんの唇が重なった。ゾワッとする。頭が真っ白になる。気持ちがいい。ずっとこうしていたい。そう思った。
「わ、私たち、ちゅーしちゃったね」
「そ、そそそ、そんなことよりきらなちゃんの好きな人教えてよう」
「わ、私の好きな人なんてどうでもいいじゃん。そんなことよりちゅーのこと教えてよ!」
「だめー! だめなの! それに、私だって後押ししたいもん。またこちょこちょする?」
「わーこちょこちょはだめー! あの、えっとね」
きらなちゃんは再び私を抱きしめた。これじゃあきらなちゃんの顔が見えない。
「しゅ、蹴人です」
きらなちゃんの耳がとても熱くなるのを感じる。一体どんな顔をしてるんだろう。とっても見たかったけど、きらなちゃんが強く抱きしめてたから見ることはできなかった。
「でも、やっぱりなあ。きらなちゃん阿瀬君にだけはちょっと違ったもん」
「え? ほ、本当? 私、普通にしてるだけなんだけど」
「ほんとだよ。私、恋愛とかわかんないけど、きらなちゃんは阿瀬くんのことが好きなんだろうなあって思ったよ」
「う、うそお。そんなにバレバレ?」
「うん、そんなにバレバレ!」
「うう、蹴人にバレてたらどうしよう」
きらなちゃんの私を抱きしめる力が強くなる。
「大丈夫! バレてないと思う!」
「そ、そっかあ、よかったあ」
「じゃあ次は私が恋の応援と後押しをする番だ!」
「え、えええ。いいよー、私は私のタイミングがあるからさ」
「ううん、きらなちゃん、私にあれだけスパルタにしたんだもん、私だってスパルタにいくよ!」
「やーん、たかしちゃんが変わっちゃったー」
「あっはっは、任せたまえー!」
「助けてー!」
恋っていうものが何なのかは未だに私は分からない。でも、ただしくんが私の思考を読み取ってくれた。だから、私はそのただしくんのことを信じることにする。
私はただしくんが好き。
私はきらなちゃんが好き。
この違いが、きっといつかわかる日が来るんだと思うととてもドキドキする。




