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たかしちゃん  作者: 溝端翔
第二部 たかしちゃんと竹達くん
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うん、たかしって、呼んでほしい

「おてて、つないでいい?」

「お、おう」


 左右の手で、ただしくんの手を握った。ただしくんの顔は見えないけど、多分、困った顔をしていると思う。急に私が、私みたいな女の子が膝の上に座って、困惑しないわけがない。私だって、突然男の子の上に座れって言われたら困惑する。でも、私は今、困惑していない。とても幸せな気分でいる。心臓がバクバク言って張り裂けそうだ。こんなことをしているのに、どこか冷静なところもある。不思議な感覚だ。


「な、なあ、たかし。な、なにやってんだ?」

「私がただしくんのことが異性として好きかどうかの確認」

「これでわかんのか?」


 やっぱり、私じゃ分からなかった。好きな気持ちは溢れてくる、でも、これが恋なのかまだわかんない。あ、そうだ。思考。読み取って貰えばいいんだ。ただしくんは、思考が読み取れるから。


「ただしくん、私の思考、いつもみたいに読み取って」

「し、思考? な、なんだよそれ」

「頭に手を乗せて、いっつも思考読み取るじゃん。ほら、こうやって」


 私はただしくんの手を頭の上に乗せた。ただしくんは、思考を吸い取るように、手を横に動かして、頭を撫でた。心がまたきゅうっとなる。


「なあたかし、たかしはさ、俺のこと好きなのか?」

「だから、それを思考から読み取ってほしいの」

「もう読み取ったよ。で、好きなのか?」

「好きだよ。とっても好き」

「やっぱりな。そうだとおもったよ」

「そうなの?」

「だって、読み取ったからな。たかしは俺のこと好きなんだってさ」

「それは、男の子として? ただしくんと恋人になりたいってこと?」

「そういうことだな。俺はそう読み取った」

「そっか。そっかあ。そうなんだ」


 私はただしくんにもたれかかった。ただしくんの体温がとても温かくて、幸せだった。

 私は、ただしくんが好きだったんだ。ほんの少ししか話したことがなかったけれど、でも、それでも、ただしくんに恋してたんだ。背が高くて、思考を読み取って、バスケが上手で、いじめられている時に助けてくれる。そんな男の子のことが、好きだったんだ。


 なんだか、緊張が解けてきた。今なら言いたいことが言えそうだ。やりたいことができそうだ。


「ただしくん。この前は、助けてくれてありがとう」

「いや、俺、何にもできなかった。ただ部活サボるのが怖くて、たかし助けるのが怖くて、何にもできなかった」

「ううん、私はそれで、本当に助かったの。あのボールで、私は本当に助けられた。でも、だからただしくんを好きになったんじゃないよ。もっと前から、多分、初めて会った時から、好きだったんだと思う。だって、あの時から気持ちが変わんないから」

「俺さ、もう逃げないわ。なにがあってもたかしを守るから。絶対、芽有たちに、指一本触れさせない」

「ありがとう。ただしくんが守ってくれるって思ったら、とっても心強いや」

「あー……、あのさ。俺たちって、付き合ってるでいいのか?」

「んー、わかんない。ただしくんが決めて」

「じゃあ、付き合ってるがいい。俺、本当にたかしが好きだから」

「うん、じゃあ、付き合ってる。中学生なのに、いいのかな?」

「いいんじゃね?」

「私、学校にも行ってないのに、いいのかな?」

「いいだろ別に。学校なんて行かなくたって、部活の休みの日には会えるんだから」

「じゃあじゃあ、私の名前、変なのにこんな幸せなことっていいのかな?」

「名前、可愛いじゃん、たかしちゃんって呼ぼうか?」

「ううん、たかしがいい。そのままがいい」


 うん、たかしって、呼んでほしい。


「なあ、抱きしめていいか?」

「……うん」

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