うん、たかしって、呼んでほしい
「おてて、つないでいい?」
「お、おう」
左右の手で、ただしくんの手を握った。ただしくんの顔は見えないけど、多分、困った顔をしていると思う。急に私が、私みたいな女の子が膝の上に座って、困惑しないわけがない。私だって、突然男の子の上に座れって言われたら困惑する。でも、私は今、困惑していない。とても幸せな気分でいる。心臓がバクバク言って張り裂けそうだ。こんなことをしているのに、どこか冷静なところもある。不思議な感覚だ。
「な、なあ、たかし。な、なにやってんだ?」
「私がただしくんのことが異性として好きかどうかの確認」
「これでわかんのか?」
やっぱり、私じゃ分からなかった。好きな気持ちは溢れてくる、でも、これが恋なのかまだわかんない。あ、そうだ。思考。読み取って貰えばいいんだ。ただしくんは、思考が読み取れるから。
「ただしくん、私の思考、いつもみたいに読み取って」
「し、思考? な、なんだよそれ」
「頭に手を乗せて、いっつも思考読み取るじゃん。ほら、こうやって」
私はただしくんの手を頭の上に乗せた。ただしくんは、思考を吸い取るように、手を横に動かして、頭を撫でた。心がまたきゅうっとなる。
「なあたかし、たかしはさ、俺のこと好きなのか?」
「だから、それを思考から読み取ってほしいの」
「もう読み取ったよ。で、好きなのか?」
「好きだよ。とっても好き」
「やっぱりな。そうだとおもったよ」
「そうなの?」
「だって、読み取ったからな。たかしは俺のこと好きなんだってさ」
「それは、男の子として? ただしくんと恋人になりたいってこと?」
「そういうことだな。俺はそう読み取った」
「そっか。そっかあ。そうなんだ」
私はただしくんにもたれかかった。ただしくんの体温がとても温かくて、幸せだった。
私は、ただしくんが好きだったんだ。ほんの少ししか話したことがなかったけれど、でも、それでも、ただしくんに恋してたんだ。背が高くて、思考を読み取って、バスケが上手で、いじめられている時に助けてくれる。そんな男の子のことが、好きだったんだ。
なんだか、緊張が解けてきた。今なら言いたいことが言えそうだ。やりたいことができそうだ。
「ただしくん。この前は、助けてくれてありがとう」
「いや、俺、何にもできなかった。ただ部活サボるのが怖くて、たかし助けるのが怖くて、何にもできなかった」
「ううん、私はそれで、本当に助かったの。あのボールで、私は本当に助けられた。でも、だからただしくんを好きになったんじゃないよ。もっと前から、多分、初めて会った時から、好きだったんだと思う。だって、あの時から気持ちが変わんないから」
「俺さ、もう逃げないわ。なにがあってもたかしを守るから。絶対、芽有たちに、指一本触れさせない」
「ありがとう。ただしくんが守ってくれるって思ったら、とっても心強いや」
「あー……、あのさ。俺たちって、付き合ってるでいいのか?」
「んー、わかんない。ただしくんが決めて」
「じゃあ、付き合ってるがいい。俺、本当にたかしが好きだから」
「うん、じゃあ、付き合ってる。中学生なのに、いいのかな?」
「いいんじゃね?」
「私、学校にも行ってないのに、いいのかな?」
「いいだろ別に。学校なんて行かなくたって、部活の休みの日には会えるんだから」
「じゃあじゃあ、私の名前、変なのにこんな幸せなことっていいのかな?」
「名前、可愛いじゃん、たかしちゃんって呼ぼうか?」
「ううん、たかしがいい。そのままがいい」
うん、たかしって、呼んでほしい。
「なあ、抱きしめていいか?」
「……うん」




