私はただしくんのことが好きなのかな?
って、ばか。何聞いてるの私。
違う違う、これは友達としてってことであって、それ以上の意味はなくって……、やっちゃった。とんでもないこと聞いちゃったかもしれない。ただしくんは男の子の友達なんだ。きらなちゃんじゃないからこういうことは多分、普通、聞いたりしないんだ。これじゃあ本当に恋人みたいになってるよう。ただしくんって呼べるようになって気持ちがおっきくなってたかもしれない、取り消したい。
「や、やっぱ今の取り消し!」
「ばか、おま、好きじゃねえよ」
え、好きじゃないの?
いま、好きじゃないって言った?
「ただしくん、私のこと好きじゃ、ないの? 嫌いなの?」
「いや、違くて、その、ほら、なんだ。ばか、なに急に聞いてんだよ。俺の知ってるたかしは控えめで恥ずかしがり屋で引っ込み思案だぞ、そんなこと聞くようなやつじゃ……」
私は涙が止まらなかった。そっか。好きじゃないんだ。嫌いなんだ。ただしくんは私が作るぬいぐるみが好きなだけなんだ。
「ううう」
「ああもう、泣くなって、違うんだって。……そりゃ好きだよ。たかしのこと好きだよ。な? だから泣くなって」
よかった。なあんだ。私のこと好きなんだ。よかった。嫌いじゃなかった。本当によかった。嬉しい。嬉しくてより涙が出た。
「あああん」
「だあああ! なんで泣くんだよ。ほんとに好きだって! 可愛いと思ってるし、転校して来た時からずっと気になってたし、前遊んだ時にマジで好きになった。ほんとに、マジで好きなんだってば。だから泣くなって」
可愛いって言われた。
転校してきた時から気になってたって言われた。
マジで好きだって言われた。
なぜだろう。今まで言われた誰よりも嬉しくて嬉しくて、きらなちゃんに言われた時よりも嬉しくて、たまらなかった。
「うう、ほ、本当?」
私は涙を拭ってただしくんに聞いた。
「本当だって。たかしがぬいぐるみが好きって聞いて、仲良くなるチャンスだって思ったよ」
「ぬいぐるみが好きだから私のことが好きなんじゃなくて?」
「じゃなくて! ぬいぐるみが好きって知ったのはたかしのことを好きになってからだよ」
「そっか、そうなんだ。あのね、私、私ね、ただしくんのこと好きだよ」
「ばっ!」
ただしくんの顔はもう真っ赤だった。可愛いって思った。
「でもね? これが、友達として好きなのか、異性として好きなのか。私にはわかんないの。私、多分、今まで男の子を好きだって思ったことがなかったの」
「そ、そう、なのか?」
「ただしくんがお家に来てくれるのはすごく嬉しいし緊張する。でも、阿瀬くんとか縫合くんがきても、同じだけ緊張すると思う。でも、来てくれて嬉しいのは、ただしくんがくる方が嬉しい」
私はただしくんのことが好きなのかな?
今の私、すごく積極的だと思う。もうここまで来たら引き返せない。そう思ってる。それに、ただしくんになら、全然話せる。不思議と言葉が出てくる。
「私、ただしくんって呼ぶのがすごく恥ずかしかったの。それはただしくんのことを思うと心がきゅうってなるから。私、ただしくんのことが好きなのかな? どうなのかな?」
「し、知らねえよ。な、なにこれ、俺いま告ったよね? 振られるか振られないかの瀬戸際にいる?」
「ねえ、お膝の上、座っていい?」
「え、膝? あぐらの上ってこと?」
「うん」
もう止まれない。進むしかない。恥ずかしすぎて死にそうだけど、でも、私のことは、私にしか分からない。ただしくんが好きなのか、私は、いま、確かめたい。今じゃないと、もう一生わからないって思う。
お母さんに言われたからじゃない。きらなちゃんに言われたからじゃない。天に取られたくないからなじゃない。ただ私が、ただしくんのことを好きなのか知りたい。
私はただしくんに背中を向けて、ただしくんの膝の上に座った。
心がきゅうっとする。温かくて、心地よくて、張り裂けそうで、痛くて、でも、気持ちがいい。




