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たかしちゃん  作者: 溝端翔
第二部 たかしちゃんと竹達くん
128/280

俺たちの中じゃもう常識になってる

「いっぱい食べて、いっぱい寝ればきっとなれるんじゃないかなあ。お父さんは背が高い?」

「うん、お父さんもただしくんくらい背が高いよ!」

「じゃあ大丈夫、おっきくなるよ。そのためにいっぱい食べよう」

「はーい!」


 天は自分の定位置に座って牛丼を食べ始めた。私たちも座って食べ始めた。


「あれ? た、竹達くん食べてなかったの?」

「なんか俺だけ食べるのは申し訳ないなあって思って待ってた」

「そうなんだ。食べよっか」

「うん」

「いただきます」


 ただしくんは優しい、と思う。私の弟の天に対しても、嫌がらずに構ってくれた。ご飯を食べるのも待っててくれた。そういえば、私を助けてくれたお礼、まだしてなかったな。


「美味しいっす。めちゃくちゃうまいっす」


 竹達くんはおかわりをしていた。おかわりをして二杯目を食べ終わっているのに、私はまだ一杯目を食べているところだった。早く百回噛む癖を治したい。でも、百回噛まないとなんだか変な気がしていけない。


「ごちそうさまでした。美味しかったです」

「お粗末さまでした」


 ただしくんが食べ終わってしまった。早く食べないと。


「ゆっくりでいいよ」


 竹達くんが急ぐ私を見て言ってくれた。だめだ、心の中でもまだ竹達くんって呼んじゃう。きらなちゃんにも応援されたんだもん。今日の目標はただしくんって呼ぶことだ。私は茶碗の中の牛丼をかき込んだ。


「ほんとに一口で百回噛んでるんだな。綺羅名に聞いたときは嘘かと思ったけど」

「た、竹達くん、知ってたの?」

「俺たちの中じゃもう常識になってる。たかしは百回噛むってな。それに一口が小さい」

「うう、何その常識、恥ずかしいよう」

「いいじゃん別に、健康そうだし。俺なんてほとんど噛まないよ」


 ほとんど噛まない人がもう一人いた。きらなちゃんもただしくんも鉄の胃袋なんだろうか。


「ねえねえただしくん、ちょっとこっちきてー」


 天が竹達くんを呼んだ。


「なになに?」

「ねえ、ここ座ってー。あぐら! あぐらね!」

「いいけど、よしょっと。うおっ」

「えへへー、なんかお父さんみたい。似てるー」


 天がいきなりただしくんの膝の上に座った。


 ずるい。


 じゃなくて、何してんの!


 勝手に!


 私のお友達なのに!


 私、今ずるいって思っちゃった。うう、なんか恥ずかしい。竹達くん……じゃなかった、ただしくんの膝の上、居心地良さそうだなあ。本当にお父さんみたい。でも、男友達の膝の上なんか座れないし。天め。私のただしくんなのに……、いや、何言ってんの私のじゃない私のじゃない。


 ああもう、とにかく天が!


「天! 何やってんの! ただしくんが嫌がってるでしょ!」

「えー。嫌?」

「いや、いいよ」


 むう、ただしくんめ、天をたぶらかして。いいもん、早くご飯食べてぬいぐるみ見てもらうんだから。


「ねえねえ、ただしくん野球やってたんでしょ? キャッチボールとかできる?」

「お、やるかー? キャッチボール。できるできる。つっても今日は雨だからなー、また今度部活が休みの日だな」

「次はいつ休みー? あ、でも、僕土日は野球があるんだった」

「お? 少年野球習ってるのか。いいじゃん。楽しい?」

「楽しいよ! 友達がやってたから入ったんだけど、もうチームメイトみんな友達になった!」

「そっかそっかー、頑張れよー。俺も平日の部活休みの日は放課後遊びに来るからキャッチボールしような」


 ただしくんが天の頭を撫でた。思考を吸い取ってる気配はしない。むっ。何で私の時ばっかり。


「ごちそうさまでした!」


 ただしくんの食器も一緒に流しに持っていって、天の定位置に座ってるただしくんの手を引っ張った。

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