肩が触れそうで緊張する
「架は私のお父さんだよ」
「たかしのお父さんと俺、似てんのか?」
うーん。そう言われてみればなんとなく似てる気がする。似てるって思ったらどんどん似てる気がする。
「ちょっと、似てる。かも?」
「そうなのか。おばあちゃん、ありがとうございます。ていうかひとんち来といて言うのもアレだけどめっちゃお腹すいた。今日部活めっちゃきつかったんだよなあ」
「お疲れ様。あ、竹達くん、いらっしゃい」
「あれ? 忠やめたの? 電話じゃ忠呼びだったじゃん」
お母さんはご飯の準備をしている。多分私たちの会話は聞こえてない。
「えっと、だって。あの……」
「結構嬉しかったんだけどなあー、竹達に戻っちゃったのかあ。なんかさみしーなー」
竹達くんは少しおちゃらけながら言った。
「呼んでいいの?」
「呼んでいいよ? 綺羅名もここも忠だしな」
「じゃあ、ちょっとずつ、頑張る」
「よし、それならオッケー。で、どこ座ったらいい?」
「えっと……」
今日は天の野球が雨で中止だから天はうちにいるんだっけ。天は最近私の横じゃなくて、机の横でご飯を食べてる。だから、空いている場所は私の隣しかない……。
「こ、こっここ。わ、私の隣でもいい?」
「どこでもいいよ。大丈夫」
「じゃあ、ここ座って」
私が先に座って、隣に竹達くんが座った。肩が触れそうで緊張する。きらなちゃんが隣に座ってくれてる時はこんなこと考えたことなかったのに。やっぱり男の子だからか緊張する。
「はい、じゃあ今日のお昼ご飯は牛丼でーす。おかわりもあるから遠慮なく言ってね」
お母さんが牛丼を持ってきてくれた。
「はい!」
ただ……竹達くんがいい声で返事をした。
「あ、たかしちゃん、天君呼んできてくれる?」
「はーい。竹達くんは食べてていいからね?」
「おう」
私は二階に上がって天の部屋の前に立った。
「天ー、お昼ご飯だよー。今日は牛丼だってさー」
「……牛丼!」
牛丼と聞いて、天が勢いよく戸をあけた。
「はい、行くよ」
「牛丼、牛丼、やったったー」
天は牛丼が好きなのかテンションが高かった。さっきまで野球がなくなってしょんぼりしていたのに、忙しいんだなって思った。
「牛どーん! あれ? 誰?」
居間の扉を開けた天は、竹達くんを見て首を傾げていた。
「誰?」
「……」
私はなんて説明したらいいかわからなかった。
「……たかしちゃんの友達よ」
ほら、自分で説明しなさいって顔でお母さんが見てくる。もう、お母さんがしてくれてもいいのにって思いながら、仕方なく私が説明することにした。
「えーっとね、竹達忠くんっていうの。お姉ちゃんのお友達。バスケットボールが上手なのよ。今日は私が作ったぬいぐるみを見にきてくれたんだよ?」
「おー? たかしの弟? 俺忠、よろしくな」
「へー、そうなんだ。お姉ちゃん男の友達居たんだ。ねえねえ、ただしくんは野球はやらないの?」
私より先に平気でただしくんって呼んだ。なんだか悔しいしむっとする。私のお友達なのに。
「野球かー。小学校の時は野球やってたよ。中学になって背が高かったからバスケ部に入ったんだ」
そうだったんだ。
「へー、そうなんだ。ちょっと立ってみてよ!」
「こら、天、ご飯中でしょ」
「まあいいじゃん、ちょっとだけ」
竹達くんが言った。
「よっこらしょっと」
竹達くんが立ち上がった。天が背比べをする。まだ私より背の低い天はちっちゃくて、ちょっと可愛いって思った。それにしても、た、ただしくんは背が高いなあ。天に負けないように、心の中だけでもただしくんって呼ぼうって思った。
こっそり、心の中だけ。それでもすごく恥ずかしい。
「スッゲー! 背高ーい! 僕もそれくらいなれるかなあ」
天は手を上に上げてぴょんぴょん飛び跳ねた。机の上の食器がガチャガチャいって、お母さんに怒られた。




