今日のお昼ご飯は牛丼です
「たかしちゃん。絶対成功させるんだよ? これは恋の戦いだからね?」
昨日、きらなちゃんがそう言って帰って行った。
作戦なんて何もない。だから、成功なんて存在しない。そもそも私が竹達くんのことを好きだって決まったわけじゃない。私は恋なんて無縁で生きてきたから、そう言う感情が本当にわからなかった。でも、竹達くんはかっこいいし、優しい、それに友達として好きだ。それはわかる。もちろん、阿瀬君や縫合くんのことも好きなんだ。みんな同じなような気がするし、そうじゃないような気もする。竹達くんのことを考えると、少しぽわっとして、そんで、むってする。これが特別なのかどうかは、私にはわからない。わからないけれど、今日は持っている服で一番可愛いと思っている服を着た。
あと数分したら竹達くんがうちに来る。
あれから何度もきらなちゃんにうちに来るようお願いをしたけれど、全然ダメだった。用事があるって言って聞いてくれなかった。きらなちゃんは笑ってた。絶対用事なんてないんだ。絶対からかって遊んでる。むう。今だって家でソワソワしているに違いない。
「うにゃあっ!」
ぷるるると電話がなった。心臓が飛び出るかと思った。電話はお母さんが出た。どうやら悪戯電話だったみたいだった。インターホンが鳴るのを待っている時に悪戯電話なんてやめてほしい。私の心臓が壊れちゃう。
『ピーンポーン』
「うにゃっ」
今度はインターホンがなった。竹達くんが来たんだ。びっくりして声が出た。
「で、出て。お母さん」
「ええ? たかしちゃんのお友達でしょ? ……まったくう」
そう言ってお母さんが玄関のところまで行った、私は居間から少しだけ顔を出して見守ることにした。
「あらあ、結構降ってるわねえ。雨の中きてくれてありがとうね。あ、カッパ、そこ置いておいて、後でかけとくから。ほら、たかしちゃん、竹達くん来たわよ」
「…………」
「お、なんだ、いるじゃん。おっす、来たぞー」
私は警戒する猫みたいに竹達くんを睨んだままじーっとしていた。
竹達くんが玄関に上がって近づいてくる。背が高い、見上げるくらいだ。
「俺は短い髪の方が似合ってると思うぞ」
そう言って頭にポンと手を乗せてきた。また思考を吸い取るつもりだ。
今日のお昼ご飯は牛丼です。
「ん?」
変な思考を読み取らせようとして失敗したらしい。竹達くんは不思議そうな顔をしていた。思考を読み取れるわけじゃないんだろうか。よくわからない。
「ったく、芽有たちもやりすぎだよな。無理やり髪切るなんてさ。ほんとごめんな、助けられなくて」
私は大きく首を横に振った。
「なんだ、今日は喋らない日なのか?」
今度は縦に大きく振った。
「あ、おばあちゃんこんにちはっす」
「こんにちは。竹達くんは大きいねえ。架さんによく似ているよ」
「た、たかし、架って誰?」
私は首を横に振った。
「本当に喋んないんだな。せっかくぬいぐるみ持ってきたのになー」
「ほんと?」
「よしっ、しゃべった! ぬいぐるみは後で見せてやるから。とりあえず架さんって誰よ?」




