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たかしちゃん  作者: 溝端翔
第二部 たかしちゃんと竹達くん
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きらなちゃんとハイタッチした

「え、えええー! そんな、きらなちゃん来てくんないの?」


 きらなちゃんは絶対来てくれると思ってた。


「すっごい行きたいんだけど、用事があるんだよなあ」


 嘘だ。絶対嘘だ、笑ってるもん、用事なんてないんだ。


「嘘でしょ? 来てくれるでしょ?」


 私はきらなちゃんの手を取ってお願いをした。


「ダメなんだよなあ。予定があるから。だからたかしちゃん。忠と二人で楽しんで」

「やああ、だって、そんな、きらなちゃんもいてくれるって思ったから電話したのに! 二人っきりなんて恥ずかしいよう。きらなちゃん来てくれるでしょ? ね? ね?」


 きらなちゃん、おねがい。


「ダメなんだなあこれが、本当に予定が入ってるんだよなあ」

「うあーん、きらなちゃんのばかあ。どうしたらいいの、私もう緊張で心臓が口から飛び出そうだよう」

「飲み込めば大丈夫よ。そういえば、たかしちゃん気づいてないのかもしれないけど、忠のことずっと忠くんって呼んでたよ」

「えっ? 嘘?」

「ほんとよ。私嘘はつかないもん!」


 ううう、さっき嘘ついたくせに、絶対用事なんてないもん。きらなちゃんのことだから、二人っきりにさせようとか思ってるんだ。でも、ただしくんって言ってたっけ……うう、言ってた気がする。ただしくんって言わないとって思って、そのままずっと言ってたんだ。恥ずかしい。


「いいじゃん、今後も忠くんって呼べば。友達なんだからさ。それに付き合ったら忠くんって呼ぶわけじゃん?」

「付き合わないもん!」


 きらなちゃんそればっかり!


「あはは、たかしちゃんはかわいいなあ。でも全然忠くんでいいと思うけどなあ」

「だって、恥ずかしいもん」

「でももう呼んじゃったんだから今更じゃない? 今更竹達くんに戻るのもそれはそれで恥ずかしくない?」


 うう、それはそれで恥ずかしい。なんで呼び方変えるんだって思われそう。


「ま、でもそれはたかしちゃんの好きに呼べばいいと思うわ。私のことは何があってもきらなちゃんって呼んでよね」

「うん、きらなちゃんのことはきらなちゃんって呼ぶ!」


 とりあえず、竹達くんのことは忘れよう。土曜日まで忘れよう。そう言えば、私、きらなちゃんに乗せられてご飯も一緒に食べる約束しちゃったんだった。お母さんにとびきりおいしいものつくってもらわないと。


「じゃ、そろそろ帰ろうかなあ」


 きらなちゃんは時計を確認して立ち上がった。


「もう帰っちゃうの?」

「だってもうすぐ八時だよ。流石に帰らないとお母さんに怒られちゃうもん」

「そっかあ、お泊まりしていけばいいのに」

「明日学校だからねー」

「そっかあ、仕方ないね」

「大丈夫、また明日も来るからさ。待っててね」

「うん」

「土曜日は?」

「用事ー」

「んもーう! きらなちゃんのばか!」

「あっははー。それじゃあお邪魔しましたー」

「ああ、待って待って綺羅名ちゃん」


 帰ろうとするきらなちゃんをお母さんが呼び止めた。


「もう遅いから送って行ってあげるわ」

「いや、そんな大丈夫ですよ」

「まだ中学生なんだから、不安よ。私が責任を持って届けます」

「……じゃあ、お願いします」

「私も行く!」


 三人で外に出て、車に乗り込んだ。お母さんはもちろん運転席、私はいつものお母さんの後ろ。きらなちゃんは私の隣。私はきらなちゃんと手を繋いで車に乗った。きらなちゃんのお家にはあっという間に着いた。五分もかからないくらいだった。

 きらなちゃんが車を降りるときらなちゃんのお母さんが家から出てきた。きらなちゃんのお母さんは金髪のショートカットでとっても綺麗だった。お母さんはそれをみて車を降りた。お母さんときらなちゃんのお母さんがならぶと、凸凹って感じだった。きらなちゃんのお母さんは百七十位ある気がする。きらなちゃんもそれくらいになっちゃうのかなあ。今はほとんど変わらないけど、私はこれから多分身長は伸びないと思う。お母さんが小さいから。

 私は窓を開けてきらなちゃんと話すことにした。座席の左に寄って、窓を開けた。


「一日があっという間だねえ」

「うん、きらなちゃんと遊んでると楽しい。まだ学校にはいけないけど」


 私は少し頭を下げてしょんぼりした。そんな私をきらなちゃんは撫でてくれた。


「いいのいいの、学校のことは任せなさい。勉強だって私も教えてあげられるしね」

「ありがとうきらなちゃん」

「いいってことよ。私のノートくらいならいつでも見せてあげるわ」

「でも、きらなちゃんが来たときはお勉強したくないなあ、もっと遊んでいたい」

「確かに、私もせっかくたかしちゃんがいるのに勉強なんてしたくないわね」

「ねー、そうだよね」


 車の中から手を出して、きらなちゃんとハイタッチした。


「やっぱり遊べる時は遊ぼう! それがいいよ!」

「うん! あと、土曜日は用事があるから忠と仲良くするのよ?」

「あう、なんで用事なんかあるのさあ。なんの用事があるってのさあ」

「仕方ないでしょ。用事は用事よ。あ、そうそう、忠と遊ぶ日にちに変更があったら教えてね、こっちの予定もずらさないといけないんだから」

「ほらー! やっぱり用事なんてないんじゃん」

「まあまあ、いいじゃない。好きな人と二人きりで一緒に過ごす時間は貴重なんだから。ね?」


 好きな人って、まだそうって決まったわけじゃないんだよ。私にはそういう気持ちがまだわかんないんだよ、きらなちゃん。

 バタンとお母さんが車に乗り込んできた。お話は終わったようだった。


「じゃあね、たかしちゃん! また明日!」

「う、うん! きらなちゃんまた明日!」


 あっという間のお別れだった。きらなちゃんのお母さんと、私のお母さんはなんのお話をしてたんだろう。怒られないようなことだといいな。窓から入ってくる風は暖かくて涼しかった。


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