すっごい恥ずかしい
受話器の向こうから声が聞こえた。誰か出たんだ。何か言わないと……。
「もしもし? あれ? 悪戯電話かしら……」
「ああああの! 高橋って言います!」
「あら、高橋さん? どうかなさいました?」
ただしくんって言う、ただしくんって言う、ただしくんって言う……!
「えっと、た、ただしくん居ますか?」
言えた。よかった。きらなちゃん言えたよ。
きらなちゃんは飛び跳ねてグッドを作っている。
「忠? ちょっと待ってね、忠の友達なのね。今呼んでくるからね」
「はい。お願いします」
多分、今私の顔は真っ赤だ。すごく熱い、頑張った、すっごく頑張った。誰か私を褒めて。
受話器の方から会話が聞こえ漏れてくる。
「高橋? 誰それ、俺友達に高橋とか居ないんだけど」
「でも高橋って言ってたわよ。忠くん居ますかって。女の子だったけど」
「女? 余計わからん」
「とりあえず出なさいよ。待たせてるんだから」
「わかったよ」
きらなちゃんの言う通り、私のことはたかしで覚えてるんだ、高橋が誰だかわかってない。きらなちゃんすごい、練習のおかげで少し楽に話せる気がする。
「もしもし、高橋さん? 忠ですけど」
「あ、私です、たかしです」
思い切って自己紹介をするしかない。すっごい恥ずかしい。
「……あー! 高橋ってたかしのことか! じゃあ最初からたかしって言っとけよな、誰かわからんかったわ。たかしって苗字高橋なのな、覚えとくわ。で、どうしたの?」
「えっと、しゃーくんのぬいぐるみ、できたら見せるってただしくんと約束してたから。できたから、見せたいなって思って」
「おおー! あれ出来たのか! みたいみたい!」
ただしくんは初めて聞いたみたいにびっくりしてくれた。ふふ、もう知ってたくせにって思った。
「ただしくん、遊べる日とかある?」
どんどん体温が上がっていくのがわかる。男の子と遊ぶ約束をしようとしている。恥ずかしすぎる。今までの私からは考えない行動をとっている。きらなちゃん、きらなちゃん来て。
私はきらなちゃんを呼んだ。
きらなちゃんはそそくさと隣まで来てくれた。私はきらなちゃんのおててを握った。きらなちゃんはおててを握り返してくれた。
「そうだなー、今週の土曜日が部活午前上がりだから、三十日の土曜日のお昼からなら遊べるな。たかしはどうだ?」
「だ、大丈夫! 土曜日のお昼から。うん。大丈夫」
「お昼誘っちゃいなよ」
聞き耳を立てていたきらなちゃんが小声でお節介してきた。お、お昼。お母さんの顔を見るとうんうんと頷いていた。
「ただしくん、お昼ご飯、私の家で食べる?」
「いいのか?」
「うん、お母さんもいいって」
「じゃあご馳走になろうかなー。俺もなんかぬいぐるみ持ってくわ」
「わぁ、やったあ」
「じゃ、土曜日、部活終わったら行くから、よろしくー」
ガチャリ。と言う音と共に、電話が切れた。私はそっと受話器を置いた。
「なに? もう切れたの? たかしちゃんが電話してるってのにそっけないわねえ、もっと積もる話とかないわけ? でも! たかしちゃん、よく頑張ったねー!」
きらなちゃんが頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。私は頑張ったんだ、もっと褒められてもいいと思う。
「そっかー、土曜日かー」
「もちろん、きらなちゃんも来るよね?」
そういえば、と思って私は聞いた。きらなちゃんは毎日来てくれてるから、勝手に来てくれるものだと思っていた。
「私ね、その日用事があるんだわ」




