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たかしちゃん  作者: 溝端翔
第二部 たかしちゃんと竹達くん
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すっごい恥ずかしい

 受話器の向こうから声が聞こえた。誰か出たんだ。何か言わないと……。


「もしもし? あれ? 悪戯電話かしら……」

「ああああの! 高橋って言います!」

「あら、高橋さん? どうかなさいました?」


 ただしくんって言う、ただしくんって言う、ただしくんって言う……!


「えっと、た、ただしくん居ますか?」


 言えた。よかった。きらなちゃん言えたよ。

 きらなちゃんは飛び跳ねてグッドを作っている。


「忠? ちょっと待ってね、忠の友達なのね。今呼んでくるからね」

「はい。お願いします」


 多分、今私の顔は真っ赤だ。すごく熱い、頑張った、すっごく頑張った。誰か私を褒めて。


 受話器の方から会話が聞こえ漏れてくる。


「高橋? 誰それ、俺友達に高橋とか居ないんだけど」

「でも高橋って言ってたわよ。忠くん居ますかって。女の子だったけど」

「女? 余計わからん」

「とりあえず出なさいよ。待たせてるんだから」

「わかったよ」


 きらなちゃんの言う通り、私のことはたかしで覚えてるんだ、高橋が誰だかわかってない。きらなちゃんすごい、練習のおかげで少し楽に話せる気がする。


「もしもし、高橋さん? 忠ですけど」

「あ、私です、たかしです」


 思い切って自己紹介をするしかない。すっごい恥ずかしい。


「……あー! 高橋ってたかしのことか! じゃあ最初からたかしって言っとけよな、誰かわからんかったわ。たかしって苗字高橋なのな、覚えとくわ。で、どうしたの?」

「えっと、しゃーくんのぬいぐるみ、できたら見せるってただしくんと約束してたから。できたから、見せたいなって思って」

「おおー! あれ出来たのか! みたいみたい!」


 ただしくんは初めて聞いたみたいにびっくりしてくれた。ふふ、もう知ってたくせにって思った。


「ただしくん、遊べる日とかある?」


 どんどん体温が上がっていくのがわかる。男の子と遊ぶ約束をしようとしている。恥ずかしすぎる。今までの私からは考えない行動をとっている。きらなちゃん、きらなちゃん来て。


 私はきらなちゃんを呼んだ。


 きらなちゃんはそそくさと隣まで来てくれた。私はきらなちゃんのおててを握った。きらなちゃんはおててを握り返してくれた。


「そうだなー、今週の土曜日が部活午前上がりだから、三十日の土曜日のお昼からなら遊べるな。たかしはどうだ?」

「だ、大丈夫! 土曜日のお昼から。うん。大丈夫」

「お昼誘っちゃいなよ」


 聞き耳を立てていたきらなちゃんが小声でお節介してきた。お、お昼。お母さんの顔を見るとうんうんと頷いていた。


「ただしくん、お昼ご飯、私の家で食べる?」

「いいのか?」

「うん、お母さんもいいって」

「じゃあご馳走になろうかなー。俺もなんかぬいぐるみ持ってくわ」

「わぁ、やったあ」

「じゃ、土曜日、部活終わったら行くから、よろしくー」


 ガチャリ。と言う音と共に、電話が切れた。私はそっと受話器を置いた。


「なに? もう切れたの? たかしちゃんが電話してるってのにそっけないわねえ、もっと積もる話とかないわけ? でも! たかしちゃん、よく頑張ったねー!」


 きらなちゃんが頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。私は頑張ったんだ、もっと褒められてもいいと思う。


「そっかー、土曜日かー」

「もちろん、きらなちゃんも来るよね?」


 そういえば、と思って私は聞いた。きらなちゃんは毎日来てくれてるから、勝手に来てくれるものだと思っていた。


「私ね、その日用事があるんだわ」

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