きらなちゃん、誰って何言ってるの
ほっぺたに慌てて両手を当てる。
ほっぺたがすごく熱くなっている。なんで、なんでこんなに熱くなってるんだろう。名前を呼ぶだけなのに、なんで。
「まあいいわ、でも言えたね! ってことはたかしちゃんが忠のこと好きってのは私の勘違いなのかなあ」
「そ、そうだよ。勘違いだよ!」
言えたもん。絶対好きとかじゃないよね。うん。
「そっかあ、とりあえずやっと一歩進んだね。じゃあ、電話かけてきて、練習の続きしよ」
私は受話器を取って耳に当てる仕草をした。
「ぷるるるるるる。ぷるるるるるる」
「ガチャ、もしもし。竹達です。どちらさまですか?」
「えと、高橋です。た、ただしくん居ますか?」
「忠ですか? ちょっと待ってくださいね。おーい忠ー! 高橋さんから電話よー! ……なに? 高橋? 誰? さあ、高橋って言ってたわ。忠くんいるかって聞かれたから。……はい、もしもし忠です」
「あ、もしもし? た、ただしくん?」
「誰? 高橋?」
きらなちゃん、誰って何言ってるの。
「ほら、ちゃんと自分が誰だか言いなさい」
「ええ? えっと、たかしです。高橋たかし」
「あーたかしかー! ってな具合で」
そこまで芝居をして、きらなちゃんはグッドを作った。
「おっけー! 完璧じゃない? あとは電話するだけだよ、もっかいやっとく?」
「う、ううん、大丈夫。でも、高橋で竹達くんに伝わらないの? 誰? って言われるの?」
「多分伝わらないわ、いっつもたかしで呼んでるからね。苗字なんて覚える気ないわ、あいつなら」
「そ、そうなのかな」
確かに初めて会った時から隣のクラスなのに竹達くんはたかしって呼んでたっけ。
「よし、じゃあ、この流れでいっちゃお。さ、いくよ」
きらなちゃんは私の手を引いて、軋む階段を率先して降りていく、私は手を引かれて後ろについていく。心臓が飛び出しそうだ。
きらなちゃんが居間の戸を開けて入って、私はその後に入る、そして、電話の前で立ち止まった。
「さ、これがメモよ。電話かけなさい?」
「わ、私がかけるの?」
「そりゃそうでしょ! 私がかけてどうすんのさ」
「だって、恥ずかしいから……」
「何言ってんのさ、もうここまできたらかけるしかないのよ。諦めなさい……」
きらなちゃんはポスんと私の肩に手を乗せた。
ううう、緊張する、電話かけるの苦手だなあ……。
「あ! わかった。ちょっと電話かして」
うん?
代わりにお電話してくれるのかな?
きらなちゃんは受話器をとって、竹達くんの番号をポチポチと押して、私に受話器を渡してきた。
「えっ、きらなちゃん?」
「じゃ、頑張って!」
きらなちゃんは私に受話器を渡して、そのまま居間の入り口の影に隠れた。
「え、え、きらなちゃん」
「頑張って!」
お母さんの方を見ると、ニヤニヤと笑っている。むっとする。けど、むっとなんてしてる場合じゃない、きらなちゃんが勝手に電話をかけて私に押し付けた。そりゃあ私から電話するなんて恥ずかしくて無理だったかもしれないけど、きらなちゃんがスパルタすぎる。私が持っている受話器の耳を当てるとことからは、ぷるるると呼び出し音が鳴っている。
どうしたらいいの?
耳に当てればいいの?
えっと、なんだっけ、何言うんだっけ。きらなちゃーん、助けてよう。
きらなちゃんは戸の陰に隠れてグッドを作っている。
グッドじゃないよう。
「もしもし」




