きらなちゃんが私を隣に呼んだ
「あ、たかしちゃんのおばあちゃんこんにちは」
「はい、こんにちは」
私はきらなちゃんにししと笑いかけた。きらなちゃんも同じようにして笑ってくれた。なんだかきらなちゃんがうちのおばあちゃんに話しかけるのが嬉しかった。
「たかしちゃんのお母さん、電話貸してください」
「はいどうぞ」
お母さんは座ってテレビを見ていた。もうすぐご飯の用意をするんだろうか。今日のご飯はなんだろう。
きらなちゃんは受話器を耳に当てて、番号を入力して上を見上げる。なんで電話がかかるのを待つときは上を向いて待つんだろう。私も確かそうする。
「あ、もしもし、お母さん? あのね、今日もたかしちゃんのところに遊びにきてるんだけど、今日帰るの七時半くらいになりそう。うん、うん、あ、聞いてない、聞いてみる」
受話器を肩に当ててきらなちゃんはお母さんに話しかけた。
「あの、今日七時半ぐらいまで遊んで帰ってもいいですか?」
「うん、いいよ。あ、じゃあご飯も食べていく? せっかくだから」
「えっ、いいんですか? あ、ちょっと待ってください……。あの、お母さん、たかしちゃんのお母さんがね、ご飯食べて行かないかって言ってくれてるから、ご飯食べて帰っていい? うん、大丈夫、迷惑かけないから。うん、うん、はーい。じゃあね、え、あずきって誰? あ、たかしちゃんのお母さんのこと? かわるの? うん、わかった、じゃーね。たかしちゃんのお母さん、私のお母さんがちょっと電話したいって言ってます」
「はーい」
お母さんは立ち上がって電話のあるところまでとととっと歩いて受話器をきらなちゃんから受け取った。
「星奈さん、こんばんは。うん、うん、いいのよ。ご飯くらいいくらでも。いつも綺羅名ちゃんにはお世話になってるからね。うん、うん、あはは」
楽しそうにお母さんはきらなちゃんのお母さんとお話を始めた。
「さ、じゃあ私たちはお部屋戻ろっか。どうせ長話するんでしょー。お母さん、晩御飯作る邪魔しないといいけど」
「ふふふ、晩御飯九時とかになったりして」
「そしたら九時まで遊べるね!」
「本当だ!」
私たちは私の部屋に戻ってきた。きらなちゃんは私のベッドの上に座る。私のベッドはきらなちゃんのお気に入りの場所らしい。最初は床に座布団を敷いて座ってたけど、ベッドの上いいよって言ったら、そこからはベッドの上が定位置になった。
「たかしちゃん、ちょっと」
きらなちゃんが私を隣に呼んだ。
「なになに?」
私は喜んできらなちゃんの隣にひっついて座った。
「さっき電話して思い出したんだけど……まだ忠にしゃーくん見せてないでしょ」
うっ、竹達君に電話するのが恥ずかしくてまだ電話もしていない。きらなちゃんにバレてる。
「だって、恥ずかしくって」
「せっかく私がさっさと電話番号聞いてあげたのに。もう、まったく。忠はもうしゃーくん完成してるの知ってるよ?」
「え? そうなの?」
「うん、私が言ったもん。抱っこしたって自慢してやったわ」
「ふふふ、そうなんだ。じゃあ早く電話しないとなあ」
私は少し遠い目になりながら言った。
「あー! たかしちゃん電話しない気だ。だめよー、好きなんでしょ? さっさとしないと別の女の子に取られちゃうよ? あいつ意外とかっこいいし、バスケもそれなりだし、それでなくてもたかしちゃんは学校行ってないってハンデ背負ってるんだから」
「むう、だから好きじゃないって! あ、いや、好きじゃないって言うのはほら、違くて……。友達としては好きだけど、だって、竹達君、思考読み取ってくるし……。そりゃあ助けてくれたのは嬉しいけど、そうじゃなくって……」
言葉が詰まって頭がいっぱいになる。多分好きじゃない。恋愛感情とかじゃない。だってわかんないもん。
「じゃあ、忠のことどれくらい考えてる?」
うーん。
「電話しないとなって、毎日……」
「それもう恋じゃん!」
「違うもん! 電話したらそんなに毎日考えなくなるもん」
私は慌てて否定した。
「たかしちゃんって毎日裁縫するの?」
「うーん、ほとんど毎日かなあ」
「その時忠のことは?」
うっ、考えてる。竹達君に見てもらいたいなって思ったりする。
「な、内緒」
「あはー! 可愛い!」
きらなちゃんが私に抱きついた。
「んもう、違うんだってばー。それは竹達君がぬいぐるみが好きだって聞いたから、見せたいなあって思ってるだけだもん」
そう、見せたいなあって思ってるだけ。
うん、絶対そう。
「まあいいってことよ。たかしちゃんを守るのが私の役目だけど、恋愛を後押しするのも私の役目だわ。よし、今日電話しましょ。私がいたら電話できるでしょ?」
「えっ、今日? ちょっと待って……。こ、心の準備が……」
「そんなもんはね。いつまで経ってもできないのよ。こういうのは勢いよ。勢いで言うのよ、好きだって」
「だから! そんなんじゃないって!」
「あはは。まあとにかく! 今日ご飯食べ終わったら電話しましょ。それくらいの時間の方が多分いいと思うわ」
うう、きらなちゃんは思い立ったら即行動だ。何度も巻き込まれているから知っている。逃げ切れるわけがないんだ。
ふうう。深呼吸をした。
ご飯を食べたら竹達君に電話。
ご飯を食べたら竹達君に電話……。




