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たかしちゃん  作者: 溝端翔
第二部 たかしちゃんと竹達くん
115/211

私はまだ学校には行っていない

 居間でゴロゴロすると、それだけで時間がどんどんと過ぎていく。


 今日は六月二十六日。平日の火曜日。私はまだ学校には行っていない。


 もう四時になる。学校も終わりの時間だ。


 私はぬいぐるみを作った時に余った材料で、小さなサメのアップリケを作っていた。

 どこに使うでもないけど、アップリケを作るのも楽しい。ぬいぐるみとはまた違った楽しみがある。たくさん作ったアップリケは、まだ誰にも見せたことがない。なんだかアップリケは見せるのが恥ずかしい気がする。


 サメの背びれのところを縫っていると、インターホンが鳴って誰かが来た。


 ううん、誰かじゃない、きらなちゃんだ。


 私は急いで裁縫道具を仕舞って、ガラガラと玄関の引き戸を開けた。


「こーんにーちはー!」


 きらなちゃんは毎日学校が終わったら家に一度帰って、制服からお洋服に着替えてからうちに遊びに来てくれる。

 でも、今日は火曜日で天文学部の部活動の日なのに、サボって私の家に来たみたいだった。


「きらなちゃんこんにちは。天文部は? 部活動行っていいよって言ってるのに」


 口ではそう言っても、サボってでもうちに来てくれることは、私にとってとても嬉しいことだった。それだけ私のことを考えてくれてるって思える。


「えー、だってたかしちゃんいないとつまんないしー。たかしちゃんちに遊びにきた方が楽しいもん。たかし部だよたかし部」

「ふふ、なに? たかし部って」


 きらなちゃんが勝手に変な部活を作り出した。


「そりゃあ何って、たかしちゃんと遊ぶ部活だよ。それ以外は何もしなーい」

「えー、それじゃあ火金はたかし部休みにしよっかなあ」


 本当はそんなこと全然思ってないけれど、ちょっとだけきらなちゃんに意地悪だ。


「そんな、そんなご無体な! 遊びに来させてよ!」


 きらなちゃんは両手を上げて「ははー」とお辞儀をした。


「ふふふ、冗談だよー。私もきらなちゃんと遊びたい。きらな部に入る!」

「おお、いいね、それ。お互い遊び放題だ!」

「えへへへ。まあとりあえず上がって。こんなとこで喋っててもあれだし」


 ひとしきり楽しい会話をした後で、きらなちゃんをお家にあげた。この玄関で話す時間もとても楽しい。お部屋とはまた違った楽しさがあった。


「あら綺羅名ちゃん、今日もいらっしゃいね」

「はい、たかしちゃんのお母さん、いつもありがとうございます」

「いえいえ」

「お邪魔しまーす」


 きらなちゃんと階段を登って自分の部屋に向かう。やっぱり階段はギシギシと言う。本当にいつかそこ抜けちゃうんじゃないかと思う。


「ふう、この部屋も昨日ぶりねー」


 そういってきらなちゃんは私のベッドに寝転がって枕を顔に埋める。


「すぅーーー。はぁーーー。たかしちゃんのにおーい」

「もう、ばかばか。きらなちゃんやめて! 変態さんなの?」

「ガッハッハ、今日は私はたかしちゃんを食べに来たのだー」


 ベットから立ち上がって両手をわきわきとさせながら私に歩み寄ってくる。


 食べられる!


「いやあー、きらなちゃんのへんたーい」


 私は体を守る体制をとって叫んだ。叫んだと言っても下までは聞こえないくらいの声の大きさで。


「よしよしっと」


 きらなちゃんは私の頭を撫でてくれた。そしてまたベッドに戻っていった。


「たかしちゃんが私以外にもこれだけ話せたらいいんだけどねえ」

「そ、それは無理だよう。きらなちゃんだからお話しできるんだもん」

「最近は冗談まで言うようになっちゃって、ほんと、気が抜けないわ」

「だって、それは、きらなちゃんが許してくれるから」


 本当にきらなちゃんとはお話がしやすい。お母さんやお父さんと話す感覚でお話ができる。れいかちゃんともそれくらいお話しはできるけど、やっぱりきらなちゃんは特別だった。


「そういやさ、私ほぼ毎日遊びに来てるけど、天君……だっけ、まだあったことないや」


 きらなちゃんは顎に手を当てて首を傾げた。


「天はね、帰ってきたらすぐ遊びにいっちゃうし、いつも七時とかに帰ってくるからなかなか会えないね。会えてもあんまり会わせたくないけど……」

「そっか、帰ってくるの七時かー。そうだ! 私今日七時までいよっかな」


 良いことを思いついたとばかりにきらなちゃんは手を叩いて目をきらきらとさせていた。


「ほんと? やったー! いつもより長くお話しできる!」

「あーでもお母さんに連絡させて、電話貸してくれる?」

「うん、いいよ」


 私たちは電話をするために、一階に降りて居間に入った。

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