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たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんと友達
114/211

もう大丈夫

「こんだけあれば十分かな」

「こっちはオッケー、こんだけあればいいと思う」


 きらなちゃんとれいかちゃんが公園のグラウンドの端と端に水風船を作って山積みにした。水風船は金子さんでたくさん買った。


「後は来るのを待つだけだね」

「来るかなあ」

「来るよ。そのために昨日わざわざたかしちゃん学校まで来たんだから」


 私は昨日、日向さん達をこの公園に誘うために学校に登校した。久しぶりの学校で、とても怖かったけれどきらなちゃんがずっと守ってくれたし、思ったよりも怖くなかった。何よりいじめられることはなかった。


「休日に呼び出しって何?」


 日向さん達四人がぞろぞろと連なって公園に入ってきた。


「えっと……」

「たかしちゃん、いけ」


 小声できらなちゃんが背中を押してくれた。


「え、えい」


 パシャリ。


 私の投げた水風船は日向さんの肩に当たって弾けた。もちろん日向さんは服が濡れてしまった。


「っはあ? 何してんのお前」

「し、仕返しです」



 パシャリ。


 今度は日向さんの顔に、きらなちゃんの投げた水風船が命中した。


「あんたらねえ! やりすぎなのよ! これは私たちの復讐よ! ちなみにあんた達の弾はそっちに置いてあるから好きなだけ使うといいわ」

「ふざけん……」


 パシャリ。


 れいかちゃんが喋っている途中の日向さんにぶつけた。


「はあ? 御城じゃん。何してんのこんなとこで」

「えっと、仕返し?」

「メアリちゃん、あっちにいっぱい水風船あったよ」

「これ投げて反撃しようよ。やられっぱなしとかうざすぎでしょ」

「ああもう、うっぜー」


 私たちの復讐劇が始まった。


 とはいえそれはただの水風船遊びで、パシャパシャと次から次へと水風船に当たって服が濡れていく。一人少ない私たちはどんどん濡れるし、私の投げた水風船は最初に日向さんに当ててからというもの誰一人にも当たらないし、復讐になっているのかわからなかったけれど、なんだかすごく楽しかった。でも、その楽しい時間はあっという間だった。水風船は投げれば割れる。そして、用意していた水風船は全部なくなってしまった。


「ちょ、水風船無くなったんだけど」

「たかしの方も無くなったっぽいよ」


 私たちの方に水風船がなくなったことを確認して、ずんずんと四人がまとまって近づいてきた。


「で? 何? 私らだけじゃなくてお前らまでびしょびしょになって、何? 何がしたいの?」

「何って、終わりだよ。もう水風船ないから終わり。終了ー」


 きらなちゃんは両手を広げた。


「意外とあっという間だったねえ。もっと水風船買っとけばよかったかなあ」


 れいかちゃんが笑った。


「何笑ってんだよ」


 日向さんは手を振り上げてれいかちゃんを叩こうとした。私は咄嗟に叫んで止めた。


「やめてください!」

「ああ?」

「もうやめてください。もうやめてください」


 怖いけど、声は出る。きらなちゃんとれいかちゃんがいることが私には心強かった。


「もう私たちをいじめるのはやめてください。私たちが日向さん達に何をしたって言うんですか。最初に怒ったことなら謝ります。ごめんなさい。私たちは話しかけられたらちゃんと返事をします。おしゃべりだって出来ます。それに日向さん達の嫌なことだってしません。だからもうやめてください。私たちをいじめるのはもうやめてください」

「……」


 公園の中が静寂に包まれた。誰も何も言わない。きらなちゃんも、れいかちゃんも、日向さん達も誰も何も言わなかった。


「帰ってください。もう私たちに関わらないでください」


 誰も何も言わない。


 私だけが、思いを言葉にしている。そうだ。もう私たちには関わってほしくない。いじめなんてされたくない。そんなことをする人たちとは。


 私は。


 私たちは。


「私たちは、あなた達とは友達にはなれません!」

「……もういいや、帰ろ。きもいわこいつ」

「待ってください! 撮った写真を消してください」

「…………」


 しばらく私を睨みつけてから、日向さんはカメラを出して写真を消してくれた。


「これでいいんだろ。なんだよこいつら」

「メアリちゃん」

「うぜえうぜえ。きもいきもい。勝手にすれば。こっちこそ関わらないでほしいんだわ。こっちから願い下げだっつの」

「ちょっと待ってよ」

「メアリちゃん!」


 日向さんは公園を出て行った。梁さんがこっちに向かってあっかんべーをした。


 日向さん達に水風船を何個も当てたのに、何もされなかった。日向さんが何かするのを私が止めた。今更になって足の力が抜けてぺたんと水風船の中に入っていた水で濡れたグラウンドに座り込んだ。


「やったよ! 倒したよ!」

「あはは、これで倒したっていうのかな」


 きらなちゃんとれいかちゃんが大きな声で笑った。私も釣られて笑った。


「たかしちゃん。たかしちゃああああん」


 さっきまで笑っていたのにきらなちゃんが泣きながら私を抱きしめた。れいかちゃんもぎゅっと私を抱きしめた。


「きらなちゃん、れいかちゃん」


 もう大丈夫。これからのことは全然わからない。また日向さん達にいじめられるかもしれないけれど。でももう大丈夫だ。今までのことはもう、大丈夫なんだ。


「二人とも、ありがとう」


 私は二人を抱きしめ返した。

これで第一部が終了です。

第二部は6月20日から投稿を始めます。

ここまで読んでくださりありがとうございました。

よろしければ今後のたかしちゃんもよろしくお願いします。

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