御城さんに友達ができたんだって報告がしたいの
「ふふふ、楽しい。学校行きたいなあ。もっと楽しいんだろうなあ」
「学校くる? 絶対守るから。心配しなくていいよ!」
「うん、学校行きたい。でも、まだ怖い。日向さんたちに会うのが怖い」
「そっか。じゃあ仕方ないか」
「ごめんね」
「ううん、謝んなくていいよ! だってこうして遊べるんだもん。学校なんて関係ないよ!」
「ありがと……。ねえ、きらなちゃん。お話が変わるんだけど、私、御城さんに会いに行こうと思ってるの」
「麗夏に?」
やっぱりきらなちゃんは御城さんの話をすると顔が暗くなる。きらなちゃんにとっては苦い思い出なんだ。とても、苦しい思い出なんだ。私にとって、日向さんたちが苦しい思い出みたいなように。
「私は学校にはいってないけど、御城さんに友達ができたんだって報告がしたいの。御城さんのおかげでお友達ができたんだよって。私が最初に学校に頑張ってこれたのは御城さんに励ましてもらったからなの。だからすごく御城さんに感謝してるんだ。それでね、きらなちゃんにもついてきてほしいの」
「私に?」
「うん。きらなちゃんも一緒に。だって、きらなちゃんはこんなに素敵な人だし、紹介したい。それに今からだってわかってもらえると思うの。私、きらなちゃんが頑張ろうとしてたことを知ってる。御城さんもきっと知ってくれるはずだよ。だって御城さん、すごく暖かい人だった。余計なお世話かもしれないけれど、きらなちゃんのために、私、一緒に会ってほしいと思ったの」
私はきらなちゃんのためにできることがしたい。そう思っている。
「で、でも。すごい嫌われてたら? 顔なんて見たくないって思われてたら?」
「大丈夫だよ! 絶対そんなこと思ってないよ。だってきらなちゃんはすごいいい人だもん! 行こ!」
私は立ち上がってきらなちゃんの手を取った。
「えっ? 今から」
「うん! 今から」
昨日、ううん、もっと前から私はずっと考えていた。私自身が御城さんに会いたいっていうのもあったけれど、それよりもきらなちゃんと仲直りをして欲しかった。二人は別に喧嘩別れをしたわけじゃないけれど、喧嘩別れしたみたいになってるし、二人とも多分すれ違ってるんだと思った。
私がこうやって思うようになったきっかけはおばあちゃんだった。
ふっと私はおばあちゃんに聞いた。多分、いつか聞かないといけないと思っていたからだと思う。
「おばあちゃん、病気の具合はどう?」
ずっと怖くて聞けなかったけど、あの日はなぜか怖くなくて。自然と声が出た。
「病気? おばあちゃん風邪引いてないよ?」
本当にとぼけた顔で言うおばあちゃんに私は笑った。そこに嘘なんて一つもなかった。
そっか、私の勘違いだったんだ。
ずっとそうだと思っていたけれど、おばあちゃんは重い病気とかじゃなくて、本当にただ転んだだけだったんだ。あの時も、ただ転んで足を骨折しただけなのにみんなで来たから恥ずかしくって、それを隠すために笑ってたんだ。嘘つく時は作った笑顔になるおばあちゃんのおとぼけ顔が面白くて、その日はずっとおばあちゃんを見るたびに可笑しかった。
多分だけど、引っ越したのはおばあちゃんが前よりも転びやすくなってしまったからだ。一人暮らしで転んでそのまま誰にも助けられなかったら大変だ。だから多分、お母さんは引っ越そうって思ったんだ。
本当のことは聞いてみないとわからないんだって思った。ずっと私はおばあちゃんの心配していたけれど、怖くてどんな病気なのか聞けなかったから、ずっと何も知らないまま心配していたけれど、本当は大したことはなかったんだ。
きらなちゃんと御城さんもきっと何も知らないままでいるから大変なんだ。本当のことを知ったら、きっと仲直りできると私は思うんだ。
「お母さん、あそこの病院に連れてって」
「病院? どこか具合悪いの?」
お母さんはまだ電話をしていた。なんだか盛り上がってる様子だった。
「じゃなくって、病院の丘の上の公園行きたいの。あそこでみれる綺麗な夕焼けが見たいの」
「……。星奈さん、なんだか連れてって欲しいところがあるみたいなので、今日はこの辺で。じゃあまた明日、ご飯しましょうね」
お母さんが星奈さんと呼んだのは多分きらなちゃんのお母さんだ。ずいぶん仲良くなったみたいだ。
「明日ご飯行くの?」
「うん、星奈さん……きらなちゃんのお母さんとね。明日行こうって話になったの」
そうなんだ。なんかずるい。私の知らないところできらなちゃんと遊んでるみたいだと思った。