そっか、私が電話をかけないといけないんだ
「うん、ほおじろしゃーくん。うまくできたんだあ。ちょっと失敗したとこもあるけど」
「すっごいねえ、これは忠も喜ぶわ」
「そうかな。そうだといいなあ」
「やっぱ電話番号聞いてこようか? もしかしたら明日バスケ部休みかも知んないし」
「だ、大丈夫だよ。だって、そんな、悪いし」
「なんでー? 電話番号聞くだけじゃん。多分お母さん家いるしいいよ。聞いてくる。電話どこ?」
きらなちゃんは思い立ったら即行動をする人だ。本当にすごいと思う。私は根負けをした。きらなちゃんはたぶん、もう私が何を言っても電話をすると思う。
ふふふ、なんだか本当にすごいなあ。
「こっち」
私はきらなちゃんの手を引いて、居間にある電話の元へ連れて行った。
「あら、どうしたの? カレーもっと食べる?」
お母さんが突然居間に入ってきた私たちに聞いた。さっき食べたのにまた食べるわけない。
「そんなわけないでしょ! 電話使うの」
「電話借りまーす」
きらなちゃんが手を上げていった。
「はいどうぞ」
「えーっと……」
きらなちゃんが番号を押して、電話をかける。
「…………」
きらなちゃんは上を向いてきらなちゃんのお母さんが電話を取るのを待った。
「あ、もしもしお母さん! 忠の電話番号教えて!」
きらなちゃんは電話を始めるや否やいきなり要件を言った。
ふふふ、なんだかきらなちゃんらしいと思った。
「だーかーらー、忠の電話番号が知りたいんだって、わかる? た! だ! し! そうそう、竹達のね。教えてくれる? 電話帳に載ってるからさ。うん、うん、今どこって、たかしちゃんのとこよ。うん、はい。あーちょっと待って、メモメモ。たかしちゃん、メモ帳ある?」
「うぇ、あ、えっと」
突然私に話を振られて変な声が出た。箪笥の中からメモ帳とボールペンを取り出してきらなちゃんに渡した。
「あんがと、うん、うん、はい、ありがと。じゃーね。えっ? たかしちゃんのお母さん? いるよ。うん、聞いてみる」
きらなちゃんは受話器を離して私のお母さんに声をかけた。
「あの、私のお母さんがたかしちゃんのお母さんと電話したいみたいで。このまま電話してもらってもいいですか?」
「私? いいよいいよ。はーい、もしもし、たかしの母です」
お母さんはきらなちゃんのお母さんと電話を始めた。私たちは私の部屋に戻った。
「ほらたかしちゃん、忠の電話番号ゲットしたよ」
「あ、ありがと」
「忠に電話するのはたかしちゃんの役目だからね」
「うん、頑張る」
そっか、私が電話をかけないといけないんだ。
「私はたかしちゃんの恋を応援するけど、できるのはここまでだわね……」
「こ、恋じゃないよ。ぬいぐるみ出来たら見せるって約束してたから見せるだけだもん」
「ふふふ、そういうのから恋が始まっていくんだなあ」
むう、違うって言ってるのに。
「きらなちゃんはどうなのさ。好きな人とかいないの?」
「私は内緒―」
「あっ! ずるい!」
きらなちゃんは誰が好きなんだろう。きらなちゃんのことが好きな人は知ってる。阿瀬君だ。友達ノートにも書いてあったし、私も話してて、なんとなくきらなちゃんのことが好きなんだなあって思った記憶がある。
「阿瀬君は?」
何か仕返しができないかと思って聞いてみた。
「ばっ、そんなわけないでしょ」
きらなちゃんの顔は真っ赤で、否定しているけれど私は阿瀬くんが好きだって言っているようにしか見えなかった。
「ふふふ、きらなちゃん顔真っ赤」
「ううー、なんで蹴人の名前が出てくるのさー」
「だって、阿瀬君と仲良いし。好きなのかなあって、ふふふ、あたり?」
「内緒ったら内緒!」
「ずるーい、私も恋応援したい。私のは恋じゃないけど」
「たかしちゃんのだって恋だよ!」
「違うよ! お友達だもん」
「誰だって最初は友達からだよ!」
「むううう」
「ぐぬぬぬ」
二人で睨み合って。二人で笑った。




