百回噛まないとお腹痛くなっちゃうんだよ?
机の上にはカレーと、芋の煮っ転がしがあった。
「おばあちゃん! 作ってくれたの?」
「うんうん。いっぱい食べなね」
「たかしちゃんのおばあちゃんこんにちは」
「はいはい、こんにちは」
おばあちゃんはとてもニコニコしていた。病気だってことがうそみたいだ。足はもうほとんど治っているのか杖なしでも最近は歩いているようだった。
「はい、じゃあ食べましょうか」
「いただきまーす」
きらなちゃんは私の場所に二人でキュってなって座った。甘口のカレーは少し辛くてとても美味しかった。きらなちゃんは辛いのが苦手なのか「からーい」って何度も言いながら食べていた。
「きらなちゃん家のカレーってもっと甘いの?」
「もっと甘いよ、お母さんも辛いのダメだからすごく甘い。それでも辛いけどね」
「ごめんねえ、辛いの苦手だって知らなかったから……」
お母さんがきらなちゃんに謝った。すごく申し訳なさそうで、ちょっと面白かった。
「いえ、大丈夫です。美味しいから食べられます」
きらなちゃんは言った通り、カレー一皿をぺろりと食べた。
「ごちそうさまでしたー。お芋の煮っ転がしもすっごく美味しかったです!」
「お粗末さまでした」
「美味しかったでしょ? 毎日食べたいでしょ?」
「うん、すごい美味しかった!」
「よかったー」
きらなちゃんが煮っ転がしを美味しいって言ってくれてとても嬉しかった。
私はというと、きらなちゃんが食べ終わっても、私はまだ食べていた。
「きらなちゃんは食べるのが早いなあ」
「たかしちゃんが遅いんだよ?」
確かに、私以外もうみんな食べ終わっている。なんで私こんなに食べるの遅いんだろう。
「きらなちゃん、ちゃんと百回噛んでる?」
「え? 百回? 噛んでないよ」
「ええーお腹痛くなっちゃうよ?」
「ええー! そうなの? でも痛くなったことないよ」
「そうなんだ。痛くならないんだ」
きらなちゃんは鉄の胃袋なんだろうか。
「たかしちゃんは百回噛んでるの?」
「うん、噛んでるよ」
「全部? どの一口も?」
「うん? そうだよ。百回噛まないとお腹痛くなっちゃうんだよ?」
お母さんがなんか肩を震わせている。なんだ。なんだ今の状況は、何かおかしい気がする。
「お母さん? 嘘教えた?」
お母さんを睨みつけて聞いてみた。
「うん。よく噛んだ方がいいから……」
「もう! ずっと信じてたのに! なんで嘘つくのさ!」
「だって、たかしちゃん素直だから。お腹痛くなるのとか嫌いだから」
お母さんは笑いを堪えきれなくなって笑い始めた。
「もう! 癖ついちゃったよ! だから食べるの遅いんじゃん! 早く教えてよ」
「でも全部百回噛むってすごいなあ」
「きらなちゃん、すごいなあじゃないんだよ。私は騙されてたんだよ」
「でもおかげでお腹痛くなってないからいいじゃん」
「おかげでご飯食べるのが遅いんだよ!」
あははときらなちゃんとお母さんの笑い声に居間が包まれた。楽しい、楽しいけどちょっと嫌。
むう、もう体が勝手に百回噛んじゃうよ……。
「ごちそうさまでした」
「すごいね、本当に最後まで百回噛んでた」
「きらなちゃん数えてたの? うう、なんか恥ずかしい」
「いいじゃん、健康的だよ、私なんてほとんど噛まないもん」
それはそれでやっぱり鉄の胃袋なのかもしれないと思った。
私たちはご飯を食べて私の部屋に戻ってきた。
なんのお話をしよう。まだお昼だからきらなちゃんといっぱいいっぱいお話ができる。とっても嬉しいけど、いざとなったら何をお話ししていいかわかんなかった。
「これ、新しいぬいぐるみ? しゃーくんだよね」
きらなちゃんが私の作ったぬいぐるみを抱きしめながら言った。




