きらなちゃんは学校が終わってからうちに遊びにきてくれた
「うちの子がお世話になりました。本当にごめんなさい」
きらなちゃんのお母さんは背が高くて綺麗な人だった。
「ほら、あなたもちゃんと謝って」
「ごめんなさい」
きらなちゃんときらなちゃんのお母さんが玄関先で頭を下げた。
「いえいえ、うちの子がいつもお世話になっていますから。気にしないでください」
この機会にとお母さんときらなちゃんのお母さんの二人は連絡先を交換していた。
「ほら綺羅名、帰るわよ」
「はーい。たかしちゃん、またね。また電話するね」
「うん。きらなちゃんありがとう。またね」
「車で来たの? 家近いのに?」
「いいのよ。歩いてきたら時間がかかるでしょう」
きらなちゃんは車に乗って帰って行った。
それからまた一週間くらいが経って六月十六日の土曜日。昨日も一昨日も、きらなちゃんは学校が終わってからうちに遊びにきてくれた。ほとんど毎日きらなちゃんと遊んで、ここちゃんたちのお話も聞いて楽しい日々が続いている。
今日も朝からきらなちゃんが遊びにきてくれている。私は床の座布団に座って、きらなちゃんはわたしのベッドの上に胡座をかいて座っている。
「昨日の学校もめんどくさかったけど、もうすぐ夏休みだー。勉強しなくて済むぞー」
「そっか、学校はいつからお休み?」
「何日だっけ? 七月二十七日? だっけ? どうだっけたかしちゃん?」
「知らないよう。でもまだ後一ヶ月以上はあるね」
「うあー! 嫌だー! 勉強したくなーい!」
ずっと家にいる私にとっては関係なかった夏休みだけど、今の私には少し関係があった。夏休みの間は毎日のようにきらなちゃんとずっと朝から一緒に遊べるんだ。そう思うとすごくドキドキした。
「ねえ、きらなちゃん。竹達くんのお電話番号って知ってる?」
「えっ、なに? やっぱ好きなの?」
きらなちゃんがベッドから降りて私の両肩を持った。目がキラキラしている。
「ち、違うよう。やっぱって何さ。じゃなくって、しゃーくんのぬいぐるみができたから見せてあげたいなあって思ったの。私男の子好きとかわかんないもん。あと、助けてくれたお礼もしたいし……」
「ははあん。なるほどねえ、忠かあ。まあ悪いやつではないわね。ぬいぐるみ好きだし話も合うかもしれないし。たかしちゃんを任せるだけの度胸はそこまでないけど……」
「だから違うってば。確かに、竹達くんはかっこいいと思うけど。でも、なんか変なんだよ。私の思考読んでくるし、宇宙人だよきっと」
「あはは、宇宙人て。まあいいわ、電話番号知ってるから明日メモしてくるわ。それとも電話貸してくれたらうちに電話してお母さんに聞くことできるけど、どうする?」
「明日でいい」
「そんなちっこくなって言わなくっても、ほんと可愛いなあたかしちゃんは」
「可愛くなーい!」
「それよりさあ、髪切るなんてほんとひどいことするね、あいつら」
「うん、長い髪、ちょっと自慢だった」
きらなちゃんにもおしっこを飲まされたことは言っていない。多分このことは一生誰にも言わないと思う。
「でも、髪短いたかしちゃんも可愛いよ。そういや忠は長いより短い方が好きだったから、たかしちゃんに惚れ直すかもね」
「うう、惚れたりしないよ。私、可愛くないし、変だし」
「何が?」
「名前……とか」
「あはは、そんなの関係ないない。それに可愛いし。変じゃないよ」
「こ、ここちゃんは? 学校でどう?」
私は話を切り替え得るようにここちゃんの話題を振った。
「ここはねえ、相変わらずパンツ丸出しで走り回ってるわね」
「ま、丸出しかあ。すごいなあここちゃん」
「すごくないわよ、せめて見せパンでも履いてりゃいいのに純白の子供パンツよ。全く。そうだ、たかしちゃんはどんなパンツ履いてる?」
「えっと、私はね……」
スカートを捲りかけて手が止まった。ダメダメ。恥ずかしすぎる。
「もうきらなちゃん! 変態!」
「あはは。二人っきりだしいいかなあと思って。いま惜しかったよね?」
「もう! 絶対ダメー!」
「二人とも、カレー食べるー?」
お母さんが下から呼んできた。
「カレーだって、食べよっかきらなちゃん」
「やったあ、たかしちゃんの家でご飯初めてだ」
二人で階段を降りて居間に入った。




