泣きながら笑うきらなちゃんを私は抱きしめた
今は月曜日のお昼間で学校の時間だ。こんな平日の昼間にきらなちゃんが私の家に来るわけがない。
そう思って一度目を瞑ってから玄関を見るとそこにはやっぱりきらなちゃんが立っていた。
「えっ、きらなちゃん。なんで」
靴を履いて外に出る。きらなちゃんは泣いていた。どこかで転んだのか膝から血を流している。
「たかしちゃん、髪型……」
「えへへ、日向さんたちに切られちゃった」
きらなちゃんに嘘つきたくなくて、私は包み隠さずきらなちゃんに伝えた。
きらなちゃんは歩み寄ってきて私の服を掴んだ。
「ううっ……。たかしちゃん……。私、たかしちゃんのこと、守れなかった……」
きらなちゃんは私の服を掴んで泣いている。
きらなちゃんは今、私のために泣いている。
私のことで泣いている。
まだ、何が起こっているのか、頭で理解できない。泣いているきらなちゃんが目の前にいる。それしか理解できない。
「蹴人とか、忠に聞いたの。私がインフルエンザで休んでる間に、たかしちゃんがいじめられてたんだって。芽有たちにいじめられてたんだって。だから私、二人に言ったの。どうして、二人とも知ってたんなら、なんでいじめを止めなかったんだって。じゃあ二人はね、たかしちゃんは女の子だし、恥ずかしかったって。忠はできる限りのことはしたんだって。蹴人も、一も、ここも、みんなたかしちゃんを助けられなかったって、勇気が出なかったって悔やんでた。そっか、みんな頑張ってたんだって思った。だから、これは私のせいなんだって思った。私がインフルエンザになんかに罹るから、だから誰もたかしちゃんを助ける人がいなくなって。だからたかしちゃんがいじめられて……、学校にも来れなくなって……。私、たかしちゃんのこと守るって約束したのに……ごめんね、ごめんね」
肩を震わしながら、足を震わせながら、きらなちゃんは謝った。何度も何度も私に謝った。
「たかしちゃん、ごめんね。助けてあげられなくって。もう学校になんか来たくないよね。私の顔なんか見たくないよね。でも、どうしても謝りたくて。さっき蹴人たちに話を聞いて、そのまま来ちゃった」
泣きながら笑うきらなちゃんを私は抱きしめた。
「きらなちゃん。私、きらなちゃんが好きだよ。きらなちゃんも、ここちゃんも阿瀬君も竹達くんも縫合くんも、私を助けてくれなかったなんて思ってない。私が断ってしまったから。竹達くんがね、助けようとしてくれたのに、大丈夫って言っちゃったの。だから、私のせいなんだ。きらなちゃんのせいじゃないよ。今、今は学校は怖くて行きたくないと思ってるけど、これだってきらなちゃんのせいだなんて思ってない。悪いのは日向さんたちだもん。むしろ、私がきらなちゃんが帰ってくるまで待ってられなかったの。本当にごめんね。ずっと謝りたかった。きらなちゃんが帰ってきて、私がいなくてびっくりしたよね、私が全然こなくてびっくりしたよね。ごめんね。私は今、きらなちゃんがおうちに来てくれてとっても嬉しいよ。ありがとう。もうきらなちゃんとは会えないかもしれないと思ってたから」
「たかしちゃん。ごめんね」
「ううん、いいの。謝らないで。私こそごめんなさい。きらなちゃんがインフルエンザ治して帰ってくるまで持ち堪えられなかった。阿瀬君と約束したのに、いじめに負けないって。きらなちゃんのためにいじめに負けないって思ってたのに。私、負けちゃったや」
「そんなことないよ。私が、私が。うあああん」
「きらなちゃん……、きらなちゃ……うああん」
私も泣いた。きらなちゃんと二人抱きしめあって、玄関先でわんわん泣いた。
「ど、どうしたの」
泣きじゃくる私たちの声を聞いて、お母さんが驚いたように家の奥から出てきた。しばらく考えるような仕草をしてから私と、そんできらなちゃんをお家へ招き入れた。
「おじゃばしばす」
「ふふふ、あはは」
「っぷ、ははは」
鼻水ずるずるのきらなちゃんの声が面白くて笑ったら、そんな私を見てきらなちゃんも笑ってくれた。
やっぱりきらなちゃんと一緒にいることは楽しくて、明日も一緒にいれたらいいのにと思った。




