今日、私は学校に行くことをやめた
「おはよ……」
「ん、おはよ。たかしちゃん」
「お母さんあのね」
私はお母さんに日向さんたちにいじめられたことを話すことにした。話したら悲しむんじゃないかと思ったけれど、お母さんには一緒に悲しんで欲しかった。
多分、このいじめはお母さんには解決できないと思う。でも、いいの、もう学校には行かないから、日向さんたちに会うこともない。きらなちゃんやここちゃんと会えないのは辛い。きらなちゃんとはこんな形でお別れすることになるのは辛すぎるけど、きらなちゃんも許してくれると思う。
「初めは私が自己紹介で失敗したの。でも、みんな話しかけてくれて、嬉しかったんだけど、中に私の名前を馬鹿にする人がいて。それを聞いて、私、怒鳴っちゃったの。名前を馬鹿にしないでって。多分それが、日向さんたちには腹が立ったんだと思う。それがきっかけで、いじめられるようになっちゃった」
「どんなことされたの? 言いたくなかったら、言わなくてもいいからね?」
「うん、上履きとか机に画鋲ばらまかれたりとか、セーラー服がなくなったりとか、筆記用具壊されたりとか、机の中に土を詰められたりとか」
「机の中に?」
「うん、机の中に、土がいっぱい詰められてて、今も泥だらけだよ。水で洗えないから」
「ひどい事するんだね」
「でも、机の上に花瓶と手紙が置いてあった方が辛かった。私が死んだって手紙には書いてあって、死んでくれてありがとう。みたいなことが書いてあったの。その時、私って死んだ方がいいんだって思ったの」
「そんなことない! 死んじゃダメ。絶対に。私たちはたかしちゃんが生きてくれていれば、後はなんだっていいんだからね」
「うん、大丈夫。絶対死んだりしないよ。だって、お母さんたちが悲しむから」
「たかしちゃんは優しいね」
「そんなことないよ。私がお母さんの立場だったら、絶対死んでほしくないから。ただそれだけだよ」
「ううん、それが、優しいって言うんだよ」
「そうなのかなあ」
「うん、そうなの」
「でね。きらなちゃんと友達になって、それからはいじめがなくなったの。きらなちゃんにはすごく感謝してるし、大好きだし、本当はもっと遊びたかった。けど、学校行かないんじゃ遊べないけど」
「なんで?」
「なんでって、だって、学校行かないなら遊んじゃダメでしょ? それに電話番号も知らないから約束だってできないし」
「家知ってるんでしょ? 遊びに行けばいいじゃない」
「だって、学校休んでるんだよ? それなのに、遊びに行っていいの? ずる休みなのに、遊びに行っていいの?」
「いいんじゃないの? お母さんは別にたかしちゃんがどこかに遊びに行っても怒らないわよ?」
「そうなの? お父さんは? 怒らない?」
「怒らないわよ。だって、遊びたいでしょ。遊びたいなら遊んでいいのよ。学校に行ってるからとか行ってないからとか関係ないわ。遊びは自由なのよ」
「そっか、またきらなちゃんと会えるのか」
もう会えないと思っていたからすごく嬉しかった。きらなちゃんがインフルエンザを治したら、家に行ってみよう。学校に行かないことも謝らないとな。
「泥だらけだったのは? あれは田んぼに落ちたとかじゃないんでしょ?」
「うん、ほ、本当は体育館の裏で、水たまりに落とされたの。お腹蹴られてね、見て? ……あ、やっぱなんもない」
お母さんにお腹の痣を見せるのをやめた。おしっこを飲まされたことも言うのはやめよう。多分、お母さんには衝撃が強すぎる。優しいお母さんだけど、私がそんな事をされてたと知ったら、もしかしたら日向さんたちの家に行ってしまうかもしれない。そんなことはして欲しくないし、ショックも受けて欲しくない。
「髪の毛は、切られたの。ほんとうは自分で切ってない。でも、これくらいかな」
私は、これ以上のことは、何も言わなかった。
「辛かったね、たかしちゃん」
お母さんはまた抱きしめてくれた。今までの事の全てから救われた気がした。幸せな時間が戻ってきた気がした。
平日の十三時なのにも関わらず私はパジャマを着たままだった。お母さんとのお話が終わってからは、居間でテレビを聴きながら、縫い物をした。
しゃーくんのぬいぐるみを今度こそ可愛く作るんだと意気込んで取り組んでいる。
竹達くんに見せるにはどうしたらいいだろう。私は竹達くんの家を知らない。きらなちゃんは電話番号を知ってるかな。でも、電話って、なんだか緊張するな。
今日、私は学校に行くことをやめた。




