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たかしちゃん  作者: 溝端翔
たかしちゃんと日向芽有
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友達なんて、いない方が辛くないのかもしれない

「断髪式、なんか思ったより盛り上がんなかったなあ。もういいや、帰ろ帰ろ」


 日向さんたちも、男の子たちもトイレから出て帰っていった。胸をあらわにした下着姿の私だけがトイレに取り残された。髪を切られた……、長く伸ばしていた私の自慢の髪が、日向さんに切られてしまった。ブラの位置を戻して、床に投げ捨てられていたセーラー服を着て、スカートを履いた。私はしばらくトイレの中で放心状態だった。


 首元がすごく涼しい。いつもの帰り道が、全然違うものなような気がする。毛先を触ってみるとバラバラで、おかしな髪型になっていた。誰かに見られたら笑われてしまうような髪型になっていた。


 どうしよう、お母さんになんて言おう。そもそもこれ、お母さん整えられるかな。私では無理だ。お母さんに頼むしかない。まさか、髪の毛を切られるなんて、考えても見なかった。


 ただいまも言わず家に入ってすぐに脱衣所に向かい、制服を脱いで下着姿になった。持って帰ってきていた切られた髪をお風呂場にばら撒いて、裁ち鋏を持ってお風呂場の椅子に座った。


 深呼吸をして、お母さんを呼んだ。


「お母さん、ちょっと整えてくれない?」


 もう直球で行くしかなかった。


「ど、どうしたの! たかしちゃん?」


 お風呂場に入ってきたお母さんは、朝は腰まであった私の髪の毛が、今では肩までになっているのに相当びっくりしていた。私もそんなもの見せられると、相当びっくりすると思う。我ながら無茶を言うんだなって思った。


「あのね、気分転換したくて。きらなちゃんみたいに短くしようと思って自分で切ってみたんだけど、うまく行かなくって」

「本当? 本当に自分でやったの?」

「うん、当たり前じゃん。他に誰がやるのさ。切った髪も落ちてるでしょ?」

「そうよね……、わ、わかったわ。整えてあげるからちょっと待ってなさい」


 お風呂場で、ポンチョみたいなのをかぶってお母さんに髪を切ってもらった。同じ切られるなのに、日向さんに髪を切られるのと、お母さんに君を切られるのとは全然違った。お母さんは特別うまくもないけれど、下手くそでもない。みるも無惨だった私の髪の毛は、みるみるうちにきれいに整って行った。


「リボン、直ったら付けれるかなあ」

「うん、この長さならお嬢様結びできるから大丈夫。付けられるよ」

「よかった」

「このままお風呂入っちゃいなさいな。もう、びっくりしちゃった。何も自分でやらなくてもいいのに。次からはお母さんにちゃんと相談するのよ? それに美容室とか行った方が綺麗になるんだから」

「うん、ごめんなさい。次からはちゃんと相談するね。きらなちゃん見てたら私も短くしたくなっちゃってさ」


 お風呂に入ると髪を洗うのがとても楽だった。今まで長かった分、本当に楽になった。ショートカットもいいなとちょっと思った。けれど、それは自分の意志でやろうって決めた時だけだ。勝手に切られた時じゃない。でも、坊主にされなくてよかった。本当によかった。


「お母さん、お風呂上がったよ」


 いつも通り。いつも通り。を装って家で過ごした。


「あったかかった? やっぱり短い髪のたかしちゃん見慣れないから変な感じ」

「うん。きもちいかった。もうこれからずっとこうなんだから慣れてよね」


 うん、今日も何事もないんだ、大丈夫、きらなちゃんが帰ってくるまでの辛抱だから。


 はぁ……まだ水曜日か。


「たかしちゃん、今日は学校はどうだった?」


 お母さんに聞かれてドキッとした。だめだだめだ。平常心を保たないと、嘘がバレちゃうう。


「うん、あのね、きらなちゃんと体育で競走したんだけどね。きらなちゃんすっごく早くて、すごかったの。わたしもあんなに運動神経良かったらなぁ」


嘘をつくと、心にできた大きな穴にどんどん落ちていく感覚がした。もう学校へ行きたくないと思ってしまう。あと二日なのに、もう日向さんたちに会いたくない。辛いことから逃げたい。


 友達なんて、いない方が辛くないのかもしれない。


 もしもきらなちゃんがいなかったら、こんなにいじめられることもなかったのかもしれない。


 だめ、そんなこと考えちゃだめ。


「たかしちゃんはお母さんに似て運動音痴だもんね」

「むっ。私も天みたいにスポーツとかしたかったなぁ」


 お母さんとの会話も楽しくない。どこか上の空になってしまう。話を聞いているし、返事はしているけど、ずっと明日の学校のこと。主に日向さんたちの事を考えている。


「じゃあ私、宿題してくるね」

「うん、ご飯できたら呼ぶね」

「うん。ありがとう」

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