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第七話 勇敢な元魔将軍と愛娘(こども)たち

 あたしはその時もかつての夢を見た――。

 あの日、魔王があたしと母様の前に現れて、力尽くで忠誠を強要しようとした時――、母様は一切の迷いなく魔王の命令を拒否した。恐れ慄き――、ただ泣いて震えるだけのあたしのその眼の前で……。

 魔王は――、私をみて……、母様をみて……、即座に判断を下した。矛先を、母様の技術を受け継いだあたしに向けたのである。

 あたしはただ恐れ――、震えるだけで、拒否することも何も出来なかった。だから……。

 その時、母様はあたしをどんな目で見てただろうか? 拒否できず泣き続けるあたしへの失望? それともあたしへ怒り? いや……、それは――。



◆◇◆



 その時、見知らぬベッドで目覚めたあたしは、死んだはずのあたしが生きている事実を理解した。

 目覚めたあたしに向かって、優しい声音の子どもの声がかけられる。


ローザ「大丈夫ですか?」

ドゥフトボルケ「あたし……、生きて? なんで?」

ローザ「……すみません。本格的な治療は始めてで、万全とまではいかなかったですが、なんとか動くことは可能なはずですよ?」


 そう言って微笑むその娘は、歳の頃は十代になったばかりにも見える、――そんな子どもだった。

 その隣には、少し警戒した表情の二人の幼い娘たちがいた。


ドゥフトボルケ「あんたが治療? 魔族であるあたしの? ――なんで?」

ローザ「ああ……、それは。私は駆け出しだけど治療士ですから」


 そんな事は理由になっていない――、あたしはそう思って困惑の表情を浮かべる。それに反応するように、その娘は慌てた様子で言葉を続けた。


ローザ「えっと……、私の母が旅の治療師でして――、まあ、傷ついたり病気になったりした人は、魔族、人間、関係なく治療するような人で……」

ドゥフトボルケ「だから……、あたしを助けた……と?」


 頷くその娘があまりにお人好し過ぎて――、いたたまれなくなったあたしは、ため息を付いて言った。


ドゥフトボルケ「それは……、多分間違ったことをしたね」

ローザ「え?」

ドゥフトボルケ「今……、この街を襲っている呪霊将軍――。それこそあたしなんだよ?」

ローザ「……」


 黙ってその娘はあたしを見る。不思議なことに驚いた様子を見せなかった。

 そんな時、ローザの代わりに、隣にいる幼い娘たちが言った。


エリン「魔族だから……、襲ってきた連中の仲間だとは思ったけど――」

マイナ「魔将軍だったのね……。まあ、でも――、けが人だったんだから関係ないよね。そもそも私達は、その街の連中に見捨てられてるし」

ドゥフトボルケ「見捨てられた?」

エリン「……。まあ私達は親ナシだし――、家もないし――」

マイナ「ここも……、スラムの空き家を勝手に使ってるしね」

ドゥフトボルケ「……」


 二人の話によると、旅の治療士であった母親が、この街で治療行為をしていた時、治療していた伝染病そのものにかかって亡くなったのだという。

 母親は――、それまで治療をしていた功績があったにも関わらず、街の領主に強引に引っ立てられその先で亡くなった……と。


エリン「……こんな街、出ていきたいけど――。私達に旅なんて無理だし、お金もないし――」

マイナ「は……、この街の連中は、母様にひどいことをした罰があたったんだわ――」

ローザ「二人共……、そんなコト言っちゃダメ――」

ドゥフトボルケ「……」


 それは、あまりにもあんまりな話だ――、この幼い娘たちの浴びている冷たい風を理解して、あたしは何も言えなくなってしまった。


ドゥフトボルケ「貴方は――」

ローザ「私の名前はローザです。この二人は妹で、双児のエリンとマイナです」

ドゥフトボルケ「そう……、あの、治療しくれて――ありがとう。本当に――ありがとう」

ローザ「……ふふ。どう致しまして」


 あたしを見つめるその優しい笑顔が、あたしの心に何か温かいものをもたらした。

 ――と、その時……。


???「う~~ん……。えっと――」

ドゥフトボルケ「――?!」

???「なんか……、入り辛いな――」


 いつの間にか部屋の扉が薄く開いていて、その向こうに何者かの目が見えた。

 驚くあたし達をみて、薄く開いた扉が開き――、その向こうから苦笑いを浮かべた勇者が現れた。


勇者「えっと……」

ローザ「!!」


 とっさにローザがあたしを庇って勇者の前に立つ。そうしてから彼に向かって言った。


ローザ「この人は私の患者です! 手を出すつもりなら――」

勇者「あ……、その」

ローザ「彼女の犯した罪は……、私が必ず彼女に償わせます。だから……、今は下がってください――、お願いします」


 そう言って真剣な表情をするローザに、勇者は困った顔をしてため息を付いた。


勇者「あ~~、いや、わかった……、わかったから」

ローザ「え?」

勇者「なんか……、妙なことになったな呪霊将軍」

ドゥフトボルケ「う……」


 そう言って苦笑いを向ける勇者に、あたしはただ言い淀んで黙り込んだのである。



◆◇◆



勇者「なるほど……、それでアンタは魔王に従うしかなかった……と?」

ドゥフトボルケ「……」


 あたしが語るあたしの過去――、そして魔王に従う理由を聞いて勇者は一息ため息を付く。

 黙って俯くあたしに、心底困った表情で勇者は言った。


勇者「アンタの事情はわかった――。でも、だからってこれまでアンタが手にかけてきた人たちの……、その罪が許されるわけじゃない」

ドゥフトボルケ「……それは」

勇者「……なあ、ドゥフトボルケ……だったな? もう魔王の配下をやめろ」

ドゥフトボルケ「――! それは……」

勇者「アンタだってわかってるんだろ? このままだとアンタ、魔王にいじめ殺されるぞ?」


 そんな事は薄々理解はしていた。魔王はあたしを体の良い捨て駒程度にしかみていないのだ。でもその言葉には逆らえなかった。

 何より逆らって殺されて、死ぬのが怖かったのだ。でも――、多分それは、このまま魔王の配下でいても同じであり……。


ドゥフトボルケ「あたしは……どうすれば――」

ローザ「……ドゥフトボルケさん。大丈夫ですよ……」

ドゥフトボルケ「ローザ……」

ローザ「きっと今からでもやり直せます――。だって勇者様がきっと助けてくださりますから」


 あたしはその言葉を聞いて勇者を見る。勇者は笑いながら頷いた。


ドゥフトボルケ「あたしは――」


 ……と、その時、不意にあたしの視界に妙な影が疾走るのが見えた。それは明確な意志があるかのように勇者へと近づいて……。


ドゥフトボルケ「勇者!!」

ローザ「?!」

勇者「む?!」


 ドス!


 その影から伸びた長剣が、その勇者の脇腹を貫いたのである。



◆◇◆



 あたしは悲鳴を上げてその部屋から逃走する。その影に確かに見覚えがあったからだ。


???「どこに逃げるつもりだ?」

ドゥフトボルケ「ひ!!」


 あたしを追いかける影が実体化して――、漆黒の鎧の剣士へと変化する。そして――、その剣士そのものから、かの魔王の声が響いてきた。


ドゥフトボルケ「影騎将軍?! それに――」

魔王「まあ……、お前が裏切るであろうことは当然理解していたとも」

ドゥフトボルケ「ああ!! そんな……、あたしは裏切るなんて――」

魔王「は……、先程、勇者に絆されて……、何かを言おうとしていただろう?」

ドゥフトボルケ「違う!! あたしは!!」


 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!!


 あたしは恐怖で身を震わせ、涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら逃げ惑う。それを影の騎士はゆっくりと追いかけてくる。


ドゥフトボルケ「……あたしは、裏切ったりなんて!!」

ローザ「ドゥフトボルケさん!!」

ドゥフトボルケ「――!!」


 いつのまにかローザが影の騎士の脇を抜けて、こちらへと走ってきていた。そして、そのまま振り返って、影の騎士とあたしの間に両手を広げて立ちはだかった。


ドゥフトボルケ「ローザ?! なんで?」

ローザ「ドゥフトボルケさん! もうあんな奴のもとに返っちゃダメ!!」

ドゥフトボルケ「……」

ローザ「わかってるでしょ?! アイツは――、そもそも貴方の命を保証したりしない!」


 ローザの言葉があたしの心に突き刺さる。そう――、魔王は――。


魔王「……ほう、勇敢な娘だな……、実に愚かだ――」

ドゥフトボルケ「ぐ……」


 ローザの全身が震えている、影の騎士の血に濡れた長剣の刃をみて――、目に涙をためている。

 ――でも、決してあたしのことを庇おうとする、その行為を辞めることはなかった。


ローザ「う……うう」

ドゥフトボルケ「ローザ」

魔王「おい……、ドゥフトボルケ――。お前、裏切るつもりがない? そう言いたいのか?」

ドゥフトボルケ「……」

魔王「じゃあ……、戻ってきてもいいぞ?」

ドゥフトボルケ「……え?」


 その魔王の言葉に、あたしは一瞬ほおける。


魔王「安心しろ……、戻ってきさえすれば、()()()()()()()()()やる」

ローザ「!!」

ドゥフトボルケ「……あ」


 その魔王の言葉に、あたしは顔を明るくする。そんなあたしを見てローザは――。


ローザ「……」


 ああ――、その瞬間、あたしは思い出す。かつての母様が私に向けた表情を――、その目を。

 その時、母様はあたしをどんな目で見てただろうか? 拒否できず泣き続けるあたしへの失望? それともあたしへの怒り? いや……、それは――。


ドゥフトボルケ「……」


 ――そんなものであるはずがない。それは――、ただ辛い運命に飲まれつつあるあたしへの……、その未来を想って泣く悲しみ。

 そして――、そんなあたしを守ることが出来ない自分への、――無力な自分への怒り。


 魔王は、ローザを見つめて立ち尽くすあたしに向かって言う。


魔王「……ドゥフトボルケ。その娘を殺せ――」

ドゥフトボルケ「……え」

魔王「死にたくないんだろ? 生きていたいんだろう? 我が配下に戻りたいんだろう? ならばその証を見せろ――」

ローザ「……」


 ――ああ、あたしは――。


 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!!


 あたしは――、ローザ。


 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!!


 体が震える……、涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっている……、今にも叫びだして――、その場から逃げたくなる。


 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!!

 

 影の剣士が一歩ローザへと近づく。あたしもまた――、静かにローザへと手を伸ばした。


 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!! 死にたくない!!


 ――()()()()()()!! でも――。


 そのままローザに手を伸ばしたあたしは……、その肩を抱いて、影の騎士からローザを遠ざけた。


ドゥフトボルケ「……ざ」

魔王「?」

ドゥフトボルケ「ふざけるな!! ふざけるな!! ふざけるな!! ふざけるな!! ふざけるな!! ……アンタにはもうついて行けない!!」

魔王「……ほう」


 あたしは震えながら――、泣きながら――、怯えながら――、それでもローザの前に立って、彼女を守るために影に騎士を睨んだ。

 あまりに無様――、あまりに滑稽――、おそらくはそう見えるであろうことは承知で――、それでも――あたしは。


ドゥフトボルケ「あたしはもうアンタには従わない!!」

魔王「そうか……、はあ、なら死ね――」

ドゥフトボルケ「木偶!!」


 影の騎士が恐ろしいスピードであたしに迫る。それはあたしでは避けることが出来ない速度であり。

 だからこそあたしは素早くあたしの【木偶】を呼びだして――、それを影の騎士との間に差し込んだ。


 グシャ!


 木偶が一撃で砕け散る。でもそれがあたしたちが逃げる隙を作った。


ドゥフトボルケ「木偶!!」


 でも――、影の騎士の動きはあまりに早い。すぐに追いつくであろうことは明白。だからすぐさまあたしは次の木偶を呼び出した。


ローザ「ドゥフトボルケさん!」

ドゥフトボルケ「大丈夫!!」


 木偶ではあの影の騎士に全く敵わない――、それははっきりと理解が出来る。だからこそ――、木偶を隙を作るための盾として扱う。


ドゥフトボルケ「――あたしは!!」


 決めた以上、もう負けるわけにはいかない――。あたしがローザを守る。その想いだけが今のあたしを動かしていた。

 しかし、影の騎士の動きはそのあたしの予想を更に上まった。盾としての木偶を呼び出す前に、あたしへとその刃がひらめいたのである。


ドゥフトボルケ「く!!」


 ガキン!


 ――と、その時、影の騎士の刃を受け止める者がいた。


ローザ「勇者様!!」

勇者「はあ……、はあ……、く……」


 それはたしかに勇者であった。横っ腹にある大きな刀傷があまりに痛々しいが、そこから血は流れていない。


魔王「ほう……、どうやら断界魔法で無理やり傷を縫合したようだな」

勇者「く……う」

魔王「かははははは! 断界魔法は治癒魔法ではないぞ?」

勇者「んな事承知だっての……クソが」


 勇者は青い顔で荒い息を吐きながら――、あたしの方を向いて笑った。


勇者「は! お前――、最高の啖呵だったぞ」

ドゥフトボルケ「――!」

勇者「ならば――、俺は、無様に倒れてるわけにはいかねえ。――意地でもアンタを助ける!」


 次の瞬間、影の騎士の長剣が数度閃く――、その全てを自らの長剣で捌き切ってゆく勇者。


勇者「くそ痛え!! だが戦える!!」

影騎将軍「――!」


 影の騎士の刃を打ち払った勇者が、それによって生まれた隙に渾身の一撃を放つ。

 次の瞬間、影の騎士の腕が長剣ごと宙を舞った。


ローザ「すごい!」

ドゥフトボルケ「やった! アイツ腕を失った!!」

魔王「ち――」


 その状況に魔王が舌打ちする。はっきりわかるほど影の騎士の動きが鈍くなり、それを見て勇者は勝利を確信したようだった。

 最後のトドメを刺すべく勇者は影の騎士の懐へと入り――、その手の長剣を一閃した。


影騎将軍「が――」


 影の騎士が胴体を断たれて真っ二つになる。ローザとあたしは自分たちが助かったのだと確信した。


魔王「くひひひひひ!!」


 ――それがあたしたちの隙になった。

 その瞬間、魔王があたしたちに向けて嘲笑を浴びせかける。それを受けて勇者はハッと表情を強張らせて、背後にいるあたしの方に振り向いた。


ドゥフトボルケ「……」

ローザ「ドゥフトボルケ……さん?」

ドゥフトボルケ「か……」


 そのままあたしは倒れる。お腹が灼熱にも思える熱さを宿していた。


勇者「……!!」


 あたしは背後から影の騎士の腕――、地面に落ちていた、長剣を握ったソレによって腹を貫かれていた。それは――、確かに致命傷だった。


ドゥフトボルケ「けは――」


 あたしは血の泡を吐く。それを見てローザが叫んだ。


ローザ「いやあああああああああああ!!」

勇者「ドゥフトボルケ!!」


 その時のあたしは何故か恐怖を感じてはいなかった。それよりもただただ魔王のしたことが滑稽で笑いがでた。


ドゥフトボルケ(は……、バカだね魔王。そんな隙をつく手段があるなら――、優先的に勇者を狙うべきだったろうに。怒りに目がくらんで、糞の役にもたたないあたしなんかを殺すために使ってしまった……)


 思いっきり勇者に追い詰められて、つい最近ボロ負けしたあたしは痛いほど理解している。

 おそらくもう勇者の隙を突くことは不可能だろう。――だから、魔王はあたしを狙った時点で負けなのだ。


ローザ「いや!! ダメ! 死なないで母様ぁ!!」

ドゥフトボルケ「――!」


 そのローザの叫びは、おそらく――、かつてを思い出してつい言ってしまったのだろう。――あたしはやっと理解した。


ドゥフトボルケ(そうか……、どうりであたしを治療する事に必死だったわけだ。あたしはローザの母親に似ていたのか……。ああ――、勘弁してほしいね。あたしは恥ずかしながら、この歳になっても恋人を作ったことのない……乙女だよ? アンタみたいな子どもは居ないし――。だから――)


 ――だから、どうか泣かないで、ロー、ザ……。



◆◇◆



勇者「くそ!! 何が勇者だ!! ――俺は……、人々の希望だとか言われておきながら!! クソ!!」

魔王「ぎゃははははははははははは!! どうだ勇者ぁ!! その手で救うべき者が――、その手からこぼれ落ちた気分は!! ぎゃははははははははは!!」

勇者「ああああああ!!」


 勇者はただその手の長剣を地面に突き刺し慟哭する。影の騎士が、別れたすべての部位が集まって再び一体になる。

 勇者はそれを見て――、歯を食いしばりながら剣を構える。そして――。


ローザ「母様――!! お願い!! 私に力を貸して!!」


 ローザは自分が扱える唯一の治癒魔法を、死にゆくドゥフトボルケへと使用する。しかし――、その傷から流れる血は止まらず、その身も次第に冷たくなってゆく。


魔王「ぎゃははははは!! 無駄だ!! ゴミカスがゴミカスらしく死んだのだ!! 同類のお前らがどう足掻こうが無駄だぁ!! ぎゃはははははは!!」


 ローザは魔王の嘲笑を耳にいれること無く、必死にただ治癒魔法を行使する。でも――。


ローザ(母様――、お願い――、私は――、あああああ――)


 ローザの目から涙がこぼれる。助けようとした命が失われてゆく。ローザの心に大きな無力感がのしかかって来る。


ローザ(無理なの? 私では――、母様ぁ!!)


 ――そう心のなかで叫んだ瞬間、ローザの心の中から何かが湧き出るはっきりとした感覚があった。


 ――【星神システム】――強制干渉開始。


勇者「?!」


 その気配を勇者だけがはっきりと自覚した。


 ――現行クラス【治療士】――、データ改変――、【至上固有特性(エルダースキル)】構成を開始。

 ――【星神加護強制昇級オーバークラスチェンジ】。

 ――データ改変プロセスの全工程終了を確認。


 ――【特異加護(ユニーククラス)蘇生者(リアニメイター)】覚醒。


ローザ「――!」

 

 その瞬間、ローザの感覚にはっきりと理解が起こる。


ローザ「わかる――、彼女のどの組織が壊れてて、どの神経が切れていて、どの臓器を癒やさなければならないのか――」


 ――【至上固有特性(エルダースキル):死壊神眼】。


勇者「まさか――、ここに来て。【特異加護】の覚醒?!」

魔王「?!」


 ローザはハッキリと理解する。どのように治癒魔法を使用すれば――、どの部位に治癒魔法を使用すれば――、()()()()()()()()()()()()()()


ローザ(私が使える治癒魔法は弱い――、でも――、この力があれば――、この弱い治癒魔法であっても、少なくとも……)


 ――ドゥフトボルケさんの死を無しに出来る!!


 その瞬間魔王が叫ぶ。


魔王「影騎将軍!! そのガキを殺せええええええええええええ!!」

影騎将軍「――!」

勇者「は!!」


 影の騎士が疾走り――、しかしそれを勇者が押し留める。魔王の怒りの絶叫が響き――、それを勇者は笑顔で受け止めた。


魔王「早く殺せええええ!!」

勇者「は!! どうした魔王?! 血管切れそうじゃないか?! まあ――、仕方がないよな? お前の思惑――」

魔王「ぐ!!」

勇者「全部まとめてひっくり返されたんだもんな?! 笑ってやるぞ馬鹿め! ざまあみろ! はははははははは!!」

魔王「ゆうしゃあああああああああ!!」


 魔王の怨嗟の叫びが響く。勇者はそれを聞きながら、影の騎士へ長剣を構え――、そして、呼吸を整えた。


 ――【至上固有特性(エルダースキル):神域剣技】。


勇者「はあああああああ!!」


 次の瞬間、影の騎士を無数の閃光が襲う。そのまま影の騎士は細かく刻まれて――、そして、塵にすら匹敵するほどまで刻まれた。


勇者「がは――!!」


 その瞬間、勇者の腹の傷が開いて血が溢れ、口から激しく吐血する――、が……。


勇者「おい魔王――、どうせテメエのことだ。この影騎将軍とやらは――、ここからでも再生可能とか言うんだろ?」

魔王「ぐ……」

勇者「は……図星だな? まあ――、こうなったら俺も意地だ……、テメエが彼女らの始末を諦めるまで、何度でも刻んでやる――」


 そう言って笑う勇者に――、魔王は何も言えなくなる。そして――。


魔王「影騎将軍……、撤退しろ」


 ただそれだけを呟いた。

 影の騎士はそのまま消えてなくなり――、それ以降、その場には二度と現れることはなかった。



◆◇◆



 勇者の誘いから数日後――、ドゥフトボルケと、ローザを初めとする三人の愛娘たちは、引っ越し荷物を持って魔王城の前までやってきていた。


エリン「ここが魔王城?」

マイナ「凄いおっきいねローザ姉」


 そう言って笑う二人をローザは笑顔で見つめる。そして、背後にいて黙ったままの義理母に向かって言った。


ローザ「ほら――、母様しっかり!! 今日からここが母様の戦場なんだから」

ドゥフトボルケ「ローザ、それは大げさだろ? ただ魔界再生事業の手伝いをするだけで――」

ローザ「母様……、それだけじゃないでしょ?」

ドゥフトボルケ「う……」


 ローザは満面の笑みで愛する義理母に言う。


ローザ「大丈夫……、母様――。私達が応援してるんだよ?」

ドゥフトボルケ「はあ……、まあ確かにそれは――」


 ――今のあたしならば、多分、魔王にだって負けないかもね。


 こうして魔王城は――、新しい仲間を迎えたのである。



◆◇◆



●ドゥフトボルケ:

解説:

 愛する義理娘を守るためなら、震えながらも抵抗する事ができる普通に勇敢な女性。

 事件の後に、命を狙われる可能性の高いローザを守るために、共に生きることを決意して、そして最後まで守り抜いた。

 彼女らの周りには、同じように魔王へ反旗を翻した者が集まり、そしてそれが魔王を追い詰める原動力にもなったという。

 いつの間にかローザ達は、彼女を母様と呼ぶようになったが。それに少しだけ困惑しながらも、愛する愛娘として今も守り続けている。


●ローザ・ブラウニング/年齢:14歳/性別:女挿絵(By みてみん)

クラス:蘇生者Lv36

能力値:高い知識魔法系、運動能力は若干低め。

スキル:死壊神眼、治癒魔法、精神魔法、魔術的自動人形製作・操作、制御魔法、魔化魔法、等

解説:

 ドゥフトボルケを母と慕う義理娘。

 数年間でかなり実力をあげており、治癒魔法の扱いに関しては勇者に近しい者の中でトップの実力を持つ。

 さらに、護身に役立てるべく義理母から、様々な魔法や木偶の製作・操作技術なども教えてもらって、その歳には似合わないほど多彩な天才少女である。

 今は何より義理母の幸せを願っている。


●エリン・ブラウニング&マイナ・ブラウニング:

解説:

 ローザの二人の妹。ドゥフトボルケを母と慕う義理娘。

 エリンは治癒魔法を、マイナは魔術的自動人形関連技術を習得して、姉や義理母の助手を務めている。

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