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序 魔王? いいえ勇者です!

魔物「――魔王様! 今日は畑で取れた芋を持ってきただ! たべてくんろ!」

???「おう! ありがとうな! でも――、俺は魔王じゃないぞ?」

魔物「ははは! なにをいってるだ? 魔王城にいてここら一帯を統治してるだから、魔王様だべ?」

???「ははは――、まあそう見えるのは仕方がないが」


 俺はそう言って苦笑いしつつ、その魔物が手にするカゴいっぱいの芋を抱えて魔王城へと戻っていった。


魔物「ははは! またなにか畑で取れたらもってくるだよ!」


 そう言って笑う魔物に手をふって――、そして俺は小さくため息を付いたのだ。


 俺がここに移り住んで既に半年――、周囲に住む魔物たちは俺のことを本気で新しい【魔王】であると思っているらしい。

 本当はその真逆――、先代魔王を討伐した【勇者】であるというのに。


勇者「でも――まあ、以前みたいに無駄に怯えられるよりはマシか」


 ここに来てすぐの頃は、魔物たちは【新たな魔王】に怯えて話すら出来ない有り様だった。

 かつてここを支配していた【魔王】は、人類圏、ひいては人類そのものへの憎悪を背景に、その強大な力で人類圏を侵略――、同族である魔界の魔族や魔物をも死と暴力で支配していたのである。その行いの数々はあまりにえげつないものばかりであり、そんな魔王を魔族や魔物が恐れるのは仕方がなく、俺という存在が先代魔王とはやり方が違う者だと広まるまでは、まともな会話すら不可能だったのだ。


 それに――、俺や人類、そして反旗を翻した魔界の住人たちに追い詰められた魔王が、全ての状況を覆すべく自らこの世界の神である【星神】へとその身を変えるべく、大魔法を行使して魔界の魔力を勝手に制御しようとした。その無茶すぎる行為によって、魔界の魔力の安定性は崩壊し、魔界の様々な地域で魔源異常と、それによる災害が起こり続けているのである。

 それによって多くの魔族や魔物の生活圏が脅かされており、そしてそれは人類圏にとっても無視できる状況ではなく、魔王を討伐した後の俺はそれを再生する事業に自ら望んで志願したのである。


勇者(まあ――、王国で、変な政治的陰謀に巻き込まれたくないってこともあったが――)


 魔界再生――、それは大変な事業ではあるが、かつてのように殺伐とした殺し合いばかりの状況とは全く違う。

 そもそもがそういった殺伐とした話がキライな俺にとっては、以前より気楽に暮らしていけているぐらいだ。


勇者「ふふふ……、四人も可愛い嫁がいるしな!」


 俺はそう言っていやらしい笑いを浮かべる。

 その時の俺の頭の中には、【いつもの】嫁四人の艶めかしい半裸姿が浮かんでいた。


嫁姫姉「……勇者様――、こっちに来て」


 純白の下着を身につけた美しい姫君が俺に手招きする。その清純そうな容貌と裏腹に大きな胸が、俺の目と性欲を刺激して――、いかん、涎が……。

 無論、ここに来てから何度もそんな姿は見ているし、その先もたっぷり味わってはいるのだが……、戦いの日々が終わってからというもの、俺はエロ方面へと思考がシフトしたらしく、【それ】以外の娯楽が乏しい現状も相まって、仕事の合間に暇になるといつもイチャイチャしていた。


 ――そして……。


嫁姫妹「……ふん、勇者、姉様ばかり見てんな」


 大人びた黒い下着を身に着けた美しい妹姫もまた、俺に憂いを帯びた視線を向ける。

 彼女は姉ほど胸は大きくはないが――、それでも姉と勝るとも劣らない、あまりにも美しい肢体で俺の心を支配している。

 ちょっとツンツンしているのもまた素晴らしい。そんな彼女が俺の腕の中で――、く、不味い――妄想が……。


 そんな感じで、魔王城の廊下のど真ん中で、あまりにもキモすぎる妄想を繰り広げる【バカ】に、――不意に女性の声がかけられる。


???「勇者様――、何、廊下の真ん中で不気味な笑みを浮かべてらっしゃるので?」


 ちょっと引き気味の苦笑いを浮かべる、ショートボブの黒髪メイドさんがそこには立っていた。

 その隣には、赤い髪、赤い瞳、――蝙蝠のような羽根を持った魔族の少女が、いたずらっ子のするような笑いを浮かべてそのメイドさんに言葉を返した。


???「ぬふふ……、どうせ此奴のことじゃ、儂らや姫共の、――ドエロい姿でも妄想しておったのじゃろう?」

勇者「おわ?!」


 俺は声をかけられた瞬間、驚きのあまり手にしたかごを取り落とした。それが廊下に落ちる前に、目の前のメイドさんが素早くキャッチする。


勇者「エリシス――、それにレイ? 驚かすなよ――二人共……」

エリシス「……廊下の真ん中で、ヨダレ垂らしながら、やらしい妄想をしている勇者様のほうがどうかと思いますが?」


 そう言ってかごを俺に渡してくるメイドさん――エリシスは、この魔王城の家事を一手に取り仕切る世話係である。

 ただ――、先の嫁姫姉妹と同じく、元魔王討伐メンバーで俺の【嫁】という肩書が付属しているが。


レイ「まあいいんじゃないのか? 今のところエロいことしか娯楽がない状態じゃからの~~」


 そう言って俺の周りを飛び回る魔族娘――、【嫁】でもあるレイは、他三人より少し幼い外見に老人っぽい口調をして、楽しそうにケラケラ笑っている。

 その様子を、微笑を浮かべながら眺めつつエリシスは小さくため息を付いた。


エリシス「はあ――、かつての凛々しい勇者様はどこへやら……、すっかりドスケベハーレム男にクラスチェンジですね」

勇者「う……、それは」

エリシス「まあ――、あんな悲惨すぎる頃に戻りたいなどとは、わたくしは欠片も思いませんが……。だから、こんな勇者様も……いいのかも知れません」


 そう言って笑顔を向けるエリシスに、――俺は笑って頷いた。


勇者(――と、まあ……、今のところは悠々自適に生活してはいるが――、戦いではどうしようもない()()使()()が、俺には残ってるんだよな……)


 二人の笑顔を受け止めつつ俺は少し考える。

 その使()()は今すぐどうこう出来るものでもないし、現状()()()()()()こそ進めるべき仕事なので、今はまだなるべく考えないようにしている。

 俺はその二人を連れて、魔王城の廊下を歩いて、その奥へと進んでいった。

 すると魔王城の廊下の、その先からさらに二人の少女が歩いてきた。


アンネ「勇者様……それは、お芋ですか?」


 優しい笑顔を俺に向けるアンネミリアに、俺は頷いて手にしたかごを渡した。

 その妹であるクーネリアが笑顔で俺の腕に抱きついてくる。


クーネ「また魔物にもらったの? まだ勇者のことを魔王と勘違いしてるんだ?」


 苦笑いする俺に四人はそれぞれ笑顔を向けてくる。――そんな姿を見ながら俺は心のなかで思う。


勇者(魔王を倒し――、世界を守り――、そして世界と同じように守り抜いたこの娘達を……、その未来を――、俺はこれからも守らないと……な)


 そうして――、魔王城に隠遁した俺の、少しだけゆるくも――、波乱に満ちているであろう生活がここに始まるのである。

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