表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/39

黒蟻女王、十賢者を名乗る魔導師を一蹴する

「その混乱に乗じて魔王様の御息女を探すんなら好きにしていい。邪魔はしない」

「そうか、ありがたい。だが魔導王国は強力な術者を何人も従えている。一筋縄ではいかないぞ。手を貸そう」

「いんや。悪いが戦力は間に合ってる。そこで大人しく姫様を待ってろって」

「折角の厚意だが俺の性に合わない。もし危機的状況になるようなら助けよう」

「好きにしていいって言った。けれどもし妾達の妨害をするようなら容赦なく排除するからな」

「肝に銘じよう」


 妾はイヴォンヌを引き連れて小屋から出る。彼女はまだ不満そうだが妾の方針に異議を唱えるつもりはないらしい。さて、別にこのままでもいいんだが、妾としては先日知り合ったばかりのフェリクスより三年間一蓮托生だった相方が大事なんだな。


「イヴォンヌ。もしそなたが魔王姫を先に見つけたなら好きにしていい」

「……! いいの? 折角ロザリーが助けた雷撃勇者と敵対することになるわよぉ」

「そうなったらそうなったで彼の運がなかっただけだろ。妾は正直どうでもいい」

「そう、ならはりきっちゃおうかしらね」


 巣に戻った妾達はキャリアアントとターマイトキャリアに乗って地中を移動する。魔人形態は持続する高速移動が出来ないから厄介だよなぁ。巣穴の中を羽ばたいて移動するのも疲れるし。


 城塞都市が天撃で壊滅しても地中深くに掘った巣穴まで被害は及んでいない。なので城塞都市を貫通して先にある街や村のある方角へ巣穴を伸ばす作業も順調に進んでいる。今日中には完遂する見込みだ。


「開通したら真夜中に攻めればいいの?」

「いや、別に戦力差は明白だからすぐに攻め込んでいい」

「巣穴はどこまで伸ばせばいいかしら?」

「攻めようとしてる村のすぐ近くに森がある。ここまで伸ばそう。そこから先は別の攻め口を考えてる」


 巣穴は土を運ぶ多くのワーカーとすれ違い、ソルジャー達が妾達と同じ先へと集結する。一直線だった巣穴が途中で三叉に分かれているので妾は中央を選択。イヴォンヌも何故か妾に付いてくる。まあ、別行動しなきゃいけない重要な局面でもないか。


 途中で妾達は渋滞に巻き込まれて立ち往生する。後はこの先でワーカーが巣穴を地上に貫通させるの待ちか。暇だったのでキャリアアントの上で寝そべって携帯肉団子を食っていたら、にわかに騒がしくなってきた。


「それで、別の攻め口って何なの?」

「いくら妾らでも巣の場所から順次戦力を送り込むのは無理がある。魔導王国に深く攻め入るにしても前線拠点が必要と思うんだ」

「……ああ、それで若い子らを選定させてたのね」

「ま、フェリクスの来訪はいい機会だったってわけさ」


 妾とイヴォンヌが地上に出た頃には街はソルジャーアントとターマイトソルジャーが暴れまわっていた。自警団や冒険者らしき男集が既にバラバラになってワーカーに運ばれる様子を見る限り、抵抗は微々たるものだったようだ。


 蹂躙される街を散策していたら、何やらソルジャー達がたむろしている箇所と遭遇する。何事かと視線を向けた先は……教会だろうか? どうやらソルジャー達は境界を囲うように張られた結界に阻まれて中に入れないようだ。


「っ……! 新手ですか……!」


 結界内側では中年よりやや若めの男魔導師が両手を突き出して一生懸命結界を維持していた。ソルジャー達が大アゴを突き立てたり脚を振るった衝撃にも耐える頑丈な防御力は中々のものだ。


 このまま放置してもいずれは力尽きてソルジャー共の餌食になりそうなものだが、目についてしまうと気になって仕方がないな。仕方がない、労働はあまり美徳とは思えないんだが、障害は払うとしよう。


「ポイゾナブロウ!」


 妾が放った猛毒の息吹が容赦なく結界を腐食させて穴を開けた。そこからソルジャー達がなだれ込んで容赦なく男魔導師に大アゴを突き立てる……前に、男魔導師が地面に杖を走らせた。


「させません! ファイヤーウォール!」

「げっ!?」


 地面から立ち上る炎の壁。いかに鋼鉄より耐熱性のあるソルジャーでも手が出せないほどの大出力。どうやらあの男魔導師は中々の腕を持っているようだ。厄介だなぁ、アレを突破できるほど強力な個体は用意してないぞ。


 うんざりしていたら傍にいたイヴォンヌが飛び出した。彼女は炎の壁の手前まで進むとそこで立ち止まり、地面を強く踏みつける。途端、炎の壁の向こうから瞬間的に悲鳴が聞こえ、阻んでいた炎が止む。


「アースバースト。壁で阻んだって無駄よ」


 何のことはない。男魔導師の足元地面を地属性魔法で爆裂させたのだ。男魔導師は衝撃で体中を変なふうに曲げながら飛ばされた空中で踊り狂ったようにめちゃくちゃに動き、最後には原型すら留めずに地面へ激突した。


 守り手のいなくなった教会に妾の子らがなだれ込む。中から聞こえる悲鳴と絶叫を聞きながら妾は腕利きの男魔導師の死骸を観察する。纏うローブも魔術的な効果が付与されているし単なる一般魔導師ではないのは明らかだが……。


「んー。これで身分が分かるかな?」


 男魔導師が首にかけていたアミュレットが一番特別そうなので頂いておく。


 後ほどフェリクスに見せたところこれは魔導王国の誇る魔導師の頂点である十賢者とかいう御大層な名称の称号を授かった連中の証らしい。なるほど、どうりで強力な魔法を行使してきたわけだ。


 この先魔導王国を攻めるならこの十賢者とやらを相手しなきゃなんないのか。

 面倒だなぁ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ