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黒蟻女王、雷撃勇者からとんでもないことを聞く

 ■(第三者視点)■


「もう一つの議題、雷撃勇者のフェリクスがこの国に侵入している件についてです」


 アリの駆除についてまとまったところで魔導王国元老院の議題は次に移る。


 魔王軍の脅威に本格的に晒されていない魔導王国にとっても魔王軍と勇者一行については無関係ではない。本土が攻め込まれていない分支援部隊の派遣や援助物資の運搬などで魔王軍討伐に協力は惜しまなかったからだ。


 第二王女も支援部隊を率いて勇者一行と会ったことがある。当然雷撃勇者と呼ばれたフェリクスについても。紳士的な好青年、といった印象だったのを第二王女は今もなお覚えている。


 勇者一行が魔王討伐を果たし、後に人類の敵として新たに認定されたのは魔導王国の関知するものではないが、かと言って逆らうつもりもなかった。理由を探るつもりもない。人類連合を構成する国家として勇者一行を討伐するまでだ。


「フェリクスの足取りを追っていた足跡を見つけたと最後に報告したのが二週間前だろう。その後の連絡は?」

「それが……どうやら――」


 そこで元老院議員一同はフェリクスの行方が丁度アリに攻め落とされた城塞都市を最後に途絶えていることを初めて聞いた。そして彼を追う部隊がその先の魔の森で行方不明になっていることも。


 時系列で並べるならフェリクスが魔の森に姿を消し、討伐部隊が彼を追って魔の森に向かい、それからアリが城塞都市に攻め込んできたことになる。因果関係が無いとは到底思えなかった。


「もしや雷撃勇者が魔物のスタンピードを誘発させて……」

「馬鹿な! 雷撃勇者ほどの武人がそのような真似をするか! 単なる偶然だ!」

「しかし雷撃勇者がアリ共と同調するなら厄介この上ないぞ」


 結局のところ分かっている事実だけでは憶測が憶測を呼ぶだけでまとまる筈がなかった。第二勇者の目的や動向よりその対処をどうするかを話し合うようにと第二王女が促さなければならなかった。


「殿下、他の国々への報告はいかが致しましょう?」

「無用です。我が国は内政干渉は受けません。そして我が国での問題は我が国単独で対処します。この方針に変更はありません」


 第二王女の考えに元老院も賛同し、引き続き魔導王国に潜伏する勇者一行の一人については魔導王国のみで対処することで決定する。


 魔導王国首都より徒歩二日ほどの距離に位置する場所に摩天楼と見間違うほど巨大な砲台を中心とした施設がある。その面積は一地方都市並に広く、全てが戦略兵器のための術式の構成に使われている。


 元老院の議決と国王の承認により戦略兵器の封印が解かれた。周辺の都市から膨大な魔力が供給され、蓄積されていく。施設の建造物に描かれた魔法陣が余すことなく光り輝き、砲塔が目標を定めて傾いていく。


「発射準備、完了しました」

「では始めなさい」


 元老院議長の第二王女の号令とともに戦略兵器が発動、巨大な光の柱が天に向けて立ち上った。それは天空を覆った雲を突き抜けて青空をもたらす。遠くの村の住人はその幻想的な光景を見て綺麗だと呟いた。


 こうして魔導王国と魔王軍第三軍団の全面戦争の火蓋が切られた。その結果魔導王国に何がもたらされるか、この時は誰も想像していなかった。


 □□□


「遠くの方で何かあったようだが、把握しているか?」

「さてね。自分の目で確かめたらいいじゃんか」


 介抱していたフェリクスは驚異的な回復力を見せて、予測より半分以上短い期間で動き回れるぐらいになった。なので早々に出て行ってもらうことにして、今はまさに出発の準備中だ。


 く、この。魔人形態になっても指が物を掴める構造をしてないから果物の皮を剥くのも大変だな。妾だったら皮ごとむしゃぶるんだけど、フェリクスに食わせるためにナイフを指に括り付けて手首を動かしながら何とかしてる有り様だ。


「ほい。遠慮せず食え」

「かたじけない」

「んで、そろそろこの森に足を向けてきた理由を聞きたいんだけど。まさか自殺願望じゃないよな?」


 逃亡生活するにせよこんな辺鄙な土地、しかも魔の森に逃げ込むなんて無謀だ。魔導王国から魔の森を抜けても方角的にどこへも行けないし。魔導王国で探し物があるんならますますこっちに用は無い筈なんだよなぁ。


 切った果物を皿に乗せて袖机の上に置く。フェリクスはそれを摘んで口の中に放り入れた。よく咀嚼し、飲み込み、指に付いた果汁を舐める。それからベッドに腰を落ち着かせて妾を見据えてきた。


「ロザリーには言うまでもないが、魔物は大別して二種類に分けられるだろう。魔王軍配下か、野生か」

「不本意なぐらい大雑把だけど、まあそうだな」

「魔王軍は各列強国攻略のために軍団を派遣していた。この大陸の魔導王国やエルフの大森林も例外ではなかったはずだが、最後まで戦火に晒されなかったな」

「お、そうだな」

「この大陸で魔王軍が潜んでいるならここが一番可能性が高いと睨んだ。俺はどうにかして魔王軍と接触したい」

「魔導王国での探し物探しと魔王軍残党がどう関係するんだよ?」

「その探し物と魔王軍が大いに関係すると言ったら?」


 うっげ。フェリクスの魂胆が見えてきたぞ。

 そしてとんでもない厄介事を持ち込んでくれたなとの恨みとコイツを助けた後悔に苛まれた。ま、今更ってやつだがな。


「魔王の娘の一人が魔導王国で囚われの身になっている。彼女を救いたい」


 あー。今からでも聞かなかったことに出来ないかなぁ?

 無理だよなぁ。

 妾は頭を抱えて唸るしかなかった。

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