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黒蟻女王、城塞都市を蹂躙する

 ■(第三者視点)■


 魔の森に隣接する城塞都市は阿鼻叫喚となった。街のいたるところから突如ナイトメアターマイト種が出現し、人々を食い散らかし始めたからだ。真夜中の襲撃なのもあって魔導王国側はろくな対処が出来ずに被害が増すばかりだった。


「申し上げます! 街中でアリの魔物が多数現れました!」

「何ぃ!?」


 深夜になっても執務にあたっていた城塞都市を統括する辺境伯が部下からの報告を聞いて立ち上がった。拍子にテーブルの上に置かれていたインクがこぼれ、したためていた手紙を黒く染めていく。


 ここ数年ほど前から魔の森の奥深くに巨大なアリが巣を作っているのは周知の事実。下手に足を踏みれたり手を出さなければ向こうから襲ってこないのは判明している。むしろ野生の魔物の間引きに役立っていたのが現状だった。


 そんな共存すら可能だろうと一部の学者が唱えていた種族が何故突然牙を向いてきたか、辺境伯には見当も付かなかった。変わったことと言えば勇者一行の一人が落ち延びてきたという本当かも分からない情報のみだ。


「直ちに討伐部隊を編成して駆除に向かわせろ!」

「そ、それが、この城内にも多数出現しており手が出せません!」

「馬鹿な! どうやって入り込んだ!? 城壁と結界で遮っていたではないか!」


 辺境伯が混乱する間も城塞都市の人々は次々とシロアリの餌食になっていく。命を落とさなかった者もたちまちに巣穴へと引きずり込まれた。シロアリに老若男女など関係無い。ただ目の前の餌に食いつくばかりだった。


 そんなシロアリの中でターマイトソルジャー達が城壁へと向かっていく。そして固く閉ざされた門を破壊し、鎖を食いちぎって桟橋を下ろす。堀の外に広がる魔の森から姿を見せたのはアリの群れ。月の光に照らされて黒い身体が輝いた。


 そんな有り様を城壁の上で警備する兵士たちは震えながら見つめるばかりだった。彼らは次々と都市部へ侵入するアリの軍勢を悪夢だと現実逃避した。眼下に広がる都市に火の手が上がっていくのも寝ぼけているせいだと思い込もうとした。


 しかし、そんな兵士達にも終わりの時がやってきた。城壁の内側から壁づたいにアリが這い上がり、城壁の上にやってきたからだ。兵士達は悲鳴を上げながら武器を振り回すも、鋼より硬い皮膚に覆われたソルジャーアントには通用しない。


「た、助けてくれぇぇ!」

「い、嫌だぁぁ!」


 こうして悪夢の宴は続く。アリの軍勢が全ての人間を食するまで。


 □□□


「なんか、思った以上に上手くいったなぁ」

「だから言ったでしょうに。早くやってしまいしょうって」


 妾とイヴォンヌは凱旋気分で堂々と城塞都市城壁の門をくぐった。既にソルジャーアントが掃討作戦に移っていて、今はワーカーアントが獲物と餌を運び出しているところだ。なんかまだ息してる奴いるぞ。こっちに助けを求められても無駄だぞ。


 ちなみにイヴォンヌ、どうせならシロアリ達と一緒に城塞都市中央の城の内側に侵入すればって提案したんだけれど、嫌がられた。妾と一緒に攻め落としたここを散策したかったんだと。


「おかしいなぁ。魔導王国の魔導師って言ったら炎は鉄も溶かすし風は大木を引き裂くってぐらい強力な魔法を使ってくる、って聞いたけれど?」

「魔王様が亡くなって久しい今となってはそんな優れた魔導師を辺境で遊ばせるなんて無駄だ、とでも考えたのかしら」

「馬鹿だなぁ。国境を警固にすることが防衛の基本なのに。おかげで今年は冬を越せるぐらいの食材が貯まるからいいけどさぁ」


 ちなみにこの城塞都市からは誰一人として生かして帰す気は無い。慈悲なんてのは人間が勝手に作った概念なので妾からしたら知ったこっちゃない。なので少年少女が今まさにワーカーアントに運び出されるのも何とも思わないな。


 ところどころで激しい音が聞こえてくるのは魔導師が魔法を行使したからか。さすがにここまで派手に暴れまわると多少は抵抗されている模様。でも報告を聞く限りでは全く問題なく攻略出来てるみたいだな。


「それより問題なのは外部に連絡されてないか、だけど、イヴォンヌの方は何か対処した?」

「少なくとも人が一匹たりとも逃がさないようきちんと囲っているわ。あとは魔法か何かで連絡されていないかだけど、うちのターマイトウィザードが妨害用の超音波を発し続けてるわ」

「ならあとは伝書鳩の類を飛ばされないよう注視し続ければいいか」

「……ちょっと待ちなさい。何よあれ?」


 悠々と城塞都市中心部まで歩いていたら、城を構成する塔の高い位置から大きな扉が開いた。鉄だか木だかの塊に見えるソレは、何か妾の目には床から浮かんでるように見えるんだが?


「アレは……飛空艇じゃんか。巨大な魔石を動力源に空を飛ぶ船らしい」


 魔石、それは神秘の力の宿りし不思議な石。鉱山から発掘される場合もあるし、魔物の体内で生成される場合もある。不純物がないほど、そして大きいほど蓄えられる力が多くなる。


 飛空艇、魔石の力を抽出して航行魔法として発動する機構が組み込まれた船。これによって風や海流に乗る帆船より速度が出るようになり、空中を飛ぶことすら可能とした夢の乗り物だ。

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さっそくアリの魔物を征伐しに出かける!後に続け! なんて威勢の持ち主は居なかったか…殺される…皆殺される…
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