黒蟻女王、演説する
「妾は魔王軍第三軍団長を務める者だ。皆からはロザリーと呼ばれておる」
まずは自己紹介。とりあえず元老院議員共は感情に身を任せず妾の演説を見守る葉身のようだ。なら遠慮なく好きなように喋らせてもらおう。
「アニエス議長から説明があったとおり、妾が求めるのは魔導王国が魔王軍に帰属すること一点のみ。魔導王国の人間共を妾らの餌にしようとも考えておらんし、他の国家に攻め入る際の尖兵にしようとも思っておらん。これまで通りの生活を送ってもらって良い。何なら妾らデモンアントの巣を駆除しても構わんぞ。無論防衛はさせてもらうがな」
「ただし、此度の戦争の発端となった勇者一行の追放については撤回してもらう。これが認められぬなら戦争は継続。そなた等全員を餌にしてでも引き下がるつもりはない。勇者一行は正々堂々魔王様を討ち果たした紛うことなき英雄。奴らの栄光と名誉を汚すことはこの妾が許さん」
「それと、いたずらに戦線を激化させたティファニー王太女の戦争責任は追求させてもらう。なに、国家元首の首一つで自分達の安寧が保証されるんだ。嫌とは言わせんからな。このままアニエス議長に権力が集中したままにするかはそなた等魔導王国の問題なので妾達は感知せん」
「何故、と言いたそうな顔だな。そなた等が見た通り妾らは人間共が分類する虫系モンスターに過ぎん。考え方がそもそも違うんだよ。妾らは種の繁栄こそが全てで、魔王軍への帰属が最も理にかなっていたからに過ぎん。もし魔導王国を妾らの人間牧場にしたとしよう。新たな人類の脅威と見なされて世界の敵扱いされるのは目に見えておるわ」
「故に、名目上の支配を受け入れるか否か。決断はそなた等に委ねようぞ」
言いたいことは言ってやった。満足気に発言台から降りる。元老院議員もさすがに国民の代表だけあって賢いようで、妾が与えた妥協点を真剣に考えている。最も、妾はこれ以上譲歩するつもりなんざ無い。呑んだほうが懸命だぞぉ。
妾とティファニーが結んだ条約を認めるかの議決が取られた。懸命にも賛成多数により可決され、魔導王国は正式に魔王軍の勢力下に入った。これにより魔導王国との戦争は集結したのだ。
「まさかと思うけど、元老院議員の連中まで洗脳してないだろうな?」
「するわけありませんわ。洗脳してしまえば思考力や判断力が鈍ってしまうもの。細かな政は任せてしまった方が手間がかからないでしょう?」
「それもそうだな。ところで、この大陸って魔導王国以外にも小国家が点在してるだろ。連中が魔導王国の決定に反発したりはしないのか?」
「するんじゃないかしら。既に魔導王国を見限って人類連合への帰属を求めている国もあるようだし」
「マジかぁ。ま、掃討作戦は子らに任せるか」
一旦休憩に入った議場を抜けた妾らはマリエット雑談を交わす。この後は通常の討議に入るので妾ら魔王軍とは無関係。つまり出番終了なのでやっと帰って良くなったわけだ。なら留まる理由なんざ無いね、遠慮なく帰らせてもらおう。
魔王様から与えられた妾の任務はこの大陸の支配だ。主に魔導王国とエルフの大森林が厄介だったが、他にも中小国家が数多くある。とは言え人間共の中小国家なんざ妾やイヴォンヌが出向くまでもない。適当に若い女王を送り込んで餌場にしてしまえば時間はかかるが攻略は楽勝だ。
厄介なのは魔の森に隣接するエルフ共の大森林だが……今のところ互いに不干渉を貫いてる。さすがに妾らが魔の森に侵出してきた際には小競り合いがあったが、妾らが積極策を取らなかったのもあって睨み合いが続いている状況だ。魔王様亡き今あの耳長共の森に攻め込む理由は無い。さて、どうしたものか。
「で、姫さんはこれからどうなさるんで?」
「明らかに敬意の籠もってない言い様には目を瞑ってあげますわ。折角魔導王国を乗っ取ったんですもの。私とフェリクス様が過ごしやすい国にしてみせますわよ」
「正体現してもアニエス第二王女として振る舞うんだな。意外だ」
「公務する分にはその方が都合がいいんですもの。魔王女より第二王女の方が統治に向いているとは思わない?」
違いない。魔導王国国民が全員偽物の王女様に騙されてるって点に目をつぶればなぁ。ま、その辺りは妾には関係無いので干渉はしないけどな。
「第三軍団長ロザリー。率直な意見を聞かせて頂戴」
「……はい、なんでしょうか?」
さあて、帰って寝るか! とか気を抜いていたら後ろからマリエットに声をかけられた。まだ何かあんのかよ、と半ばうんざり気味に振り返ったのはいいんだが、マリエットは随分と真剣な面持ちで妾を見据えていた。
「これでフェリクス様は剣を持たずに済むと思う?」
ああ、成程。
マリエットの行動原理は全て愛した男のためにだったな。
なら、その本音には本気で答えるとしようか。それが誠実さってもんだ。
「無理だな」




