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第二王女、真相に愕然する

「マインドコントロール」


 精神操作、いわゆる洗脳。恋に落ちて暴走したティファニーを大人しくさせるには上書きするしかなかった。まあ理解出来なくもないんだが、しかし実の姉にも容赦がないなぁとは思う。人間ってこう極端に割り切る時あるから理解出来ないよな。


 ティファニーから力が抜ける。アニエスが立つよう促すと彼女の言うがままに動き出した。ちょうどその時衛兵が駆けつけてきたので、アニエスはティファニーは引っ捕らえるよう命じる。


「罪人を連れていきなさい」

「はっ!」

「それから来客を改めて丁重にもてなすように」

「畏まりました」


 衛兵たちに脇を抱えられて連れて行かれるティファニーは心どこにもあらずといった様子。アレだけ情熱的に愛を語って苛烈に戦っていた直前の姿は見る影もない。これもマインドコントロールとやらの影響だとしたら末恐ろしいものだ。


 いやー疲れた。罠とか策があると身構えてはいたんだがここまで激しい戦闘にはなってほしくなかったものだ。とは言えこれで魔導王国の誇る十賢者とやらは全滅……だったっけ? もう妾達に敵う者などいないなうん、多分。


「いやー素晴らしい! さすがは議長閣下、見事なお手前でしたぞ!」


 複雑な表情で姉が連行されていくのを見届けたアニエスに向けて何やら胡散臭い声が送られた。露骨に嫌そうな顔をしながらもアニエスはそちらへと顔を向ける。つられてそっちの方に視線を移し……軽く後悔する。


 腹が出っ張った中年ハゲオヤジが紳士を気取ってヒゲを撫で回す姿はクロアリの妾でさえ生理的嫌悪感を覚えた。魔人形態になる際には絶対に参考にしたくない部類の胡散臭さが受け付けない。アリだって人をえり好みするのだ。


 彼の後ろにはなんと勇者フェリクスがいるじゃないか。剣の柄に手を当てていつでも抜剣出来るように準備している。大方全てを聞き出そうとして付いてこいとか言われたんだろう。そのせいで若干苛立っているようにも見えた。


「十賢者ドミニク。一体どういうことですか?」

「一体何事、と言われましても。何を仰られているのか見当も付きませぬ」

「あの魔王女マリエットの偽物のことです!」

「ああ、雷撃勇者に討ち取られたあの方のことですな」

「あの紛い物は貴方の作品だそうですね。何が目的ですか? そしてアレほどの魔法を行使出来たとなると素体から厳選しなければいけません。まさか魔導王国の誇る優秀な魔導師の誰かを犠牲にしたのですか?」

「ふむ。ところで議長閣下。魔王軍への降伏はもう終わっておいでで……成程成程。であれば、種明かしと参りましょう」


 困惑するアニエスを他所にドミニクと呼ばれたハゲオヤジは歩き出した。彼に付いてきていたフェリクスにどういうことだと視線を投げかけるも、彼は肩をすくめる仕草で知らんと返事してきた。


 ドミニクが連れてきたのは宮殿の中枢部、所謂王家の居住区らしい。十賢者であろうと無断で入れるわけがないのだが、ドミニクが守衛に止められることはなかった。それどころか明らかに魔物な妾らも素通りどころか気にもとめられなかった。


「これは、一体……?」

「ひょっひょっひょ! 信じられないでしょうが、ティファニー王太女殿下が豹変した時点で全ては終わっていたのです! 全てはあのお方の望むがままに!」


 アニエスが何か言いたげに唇を噛みしめるもこれ以上は現時点では聞き出せないと判断して口をつぐんだ。ドミニクが愉快げに鼻歌を歌いながら廊下を闊歩しても使用人や衛兵等誰も指摘しない。それどころか皆道を開ける始末だった。


 そして案内された先はどうやら魔導王国国王の寝室らしい。今の国王は病で伏せているので実質王太女ティファニーと元老院によって政を回していたんだとか。そんな国王がいるだろう部屋へと足を踏み入れ、その凄惨な光景にアニエスが息を呑んだ。


「お父、様……?」


 ベッドの中央では胸に大きく穴を開けて絶命した初老の男が横たわっていた。上質な布地で出来た寝間着に身を包んだ彼こそが魔導王国を司る国家元首だった者なのだろう。そんな人間が国の中心で暗殺されていたのだ。


 無惨な死体を放置して待機していた使用人一同が恭しく頭を垂れる。傅く相手はドミニク……のわけがなく、彼の後ろにいたアニエスにだった。あまりに異常な事態にアニエスは困惑するしかなかった。


「おめでとうございます。国王陛下が崩御され、王太女殿下が失脚。元老院議長、首相、法院長官を兼任された三権の長であらせられる閣下はまさしく魔導王国の全てを掌握した国家元首になられたのです!」

「「「おめでとうございます、偉大なる我らが王」」」

「何を、言って……」

「ふむ。ではあのお方より言伝を命じられておりますので、お伝えいたします」

「あの方とは誰なのですか……? 答えなさいドミニク、誰がこんな真似を……!」

「無論……」


 ――マリエット王女殿下であらせられます。

 ドミニクは当たり前のようにそう答えてきた。


 何のことはない。最初から魔導王国を魔王軍が掌握するためだったわけだ。

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