黒蟻女王、遠距離戦に手こずる
「ポイゾナブロウ!」
真っ先に妾は毒霧を噴射してみるも、ティファニーは障壁魔法マジックシールドで完全に防いでくる。続けざまにバイオブラストを浴びせかけるもやはりマジックシールドに阻まれてティファニーには届かなかった。
「なら、やっぱ肉弾戦しかないよなぁ!」
妾はティファニーが放つ基本攻撃魔法をくぐり抜けて、拳を握りしめて思いっきり殴りつけた。けれどやはりティファニーが張っていた基本防御魔法に防がれて彼女には届かない。むしろ鋼より硬い妾の拳が痛くなる始末だ。
続けざまに蹴ってみるもやはりティファニーのマジックシールドが邪魔をする。けれど今度のはマジックシールドに若干のゆらぎが見られた。どうやら衝撃を吸収しきれなかった分を分散したようだ。
ティファニーが杖をこちらに向けようとするも、妾に続いたイヴォンヌが拳を叩き付けた。確かアレは人間で言う強打の棍棒技ハードヒットだったか。人間でもアリでも相手を効率よく殴るよう技術を磨くと似たようになるのは面白いよな。
イヴォンヌの攻撃はやはり魔法で張られた壁を打ち砕くには至らなかったが、ティファニーの攻撃は中断された。妾とイヴォンヌが立て続けに攻撃を繰り出すのをティファニーは防御に集中して凌がざるを得ず、攻撃に回れていない。
「やっぱ攻撃と防御は同時にやれないようだなぁ!」
「正確にはやれないんじゃなくて、やると自分で張ったマジックシールドに反射して自爆しちゃうからよ。このまま攻め続ければ問題無いわ」
「どっちでもいい! このまま追い込むには変わらないさ!」
「さあ魔導元帥さんとやら、これで終わりじゃあないでしょう?」
イヴォンヌに挑発されたティファニーは忌々しそうに舌打ちして大きく飛び退いた。距離を置かれてたまるかと妾もイヴォンヌも大地を蹴って大きく踏み込んだが、向こうはどうやら飛翔魔法ソニックウィングだかで加速したようだ。
ある程度の距離が開いたところですかさずティファニーはマジックキャノンやらマジックアローやらの基本攻撃魔法をぶっ放してくる。弾けるものは上腕で弾いて痛そうなのは回避しながら間合いを詰めようとするも、敵は近づけさせる気がないらしく、低空を飛び回りながら攻撃する一方だった。
「め、面倒くせえ!」
「困ったわね。アレが正しい魔導師の戦い方なんでしょうけれど」
「妾、そこまで遠距離戦は得意じゃないんだよなぁ」
「どうするの? 相手に戦いを有利に進ませるつもり?」
ううむ、本来なら女王は戦わずして兵隊アリに任せるのが種族としての在り方なんだけどなぁ。真女王となったからには種族を代表した強者であらねばならんのが辛いところだ。
どうしたもんかと悩んでいたら、脇から光弾がティファニーへと飛んでいって魔法障壁にぶつかっていった。視線を移せばアニエスが手から次々と光弾を発射してティファニーを攻撃していた。
「アニエス! 貴女の魔法はわたくしには届きませんわ!」
「だからとお姉様を見過ごしても良い理由にはなりません!」
「鬱陶しい……! 国家元首にまでしてやった恩を仇で返すなんて!」
「私利私欲を満たすために利用しただけでしょう! 私を、国民を!」
ティファニーは攻撃されたことを受けてアニエスにも反撃しだした。アニエスの戦法もティファニーと同じヒットアンドアウェイ。光弾を射出しながら低空飛行で移動しまくって、回避出来なさそうな攻撃だけ見えない壁で防ぐ。
さっきからアニエスが使っているのはなんだろうか? 射出する光弾にせよマジックアローとかを防ぐ力場にせよ、どうも魔法っぽい匂いがしない。かと言って生命力を純粋な力として解放する闘気ともまた違うようだし。
「ねえねえイヴォンヌ。アニエスって何やってんの?」
「……超能力よ。より細かい分類なら念力ってところね」
「あー、成程。初めて見た。へー、アレがそうなの。でもどうして魔導王国のお姫さんが魔法じゃなく念力を使ってるのさ?」
「いえ、まさか……もしかして……」
念力、サイコキネシスとも言う物理とも魔導とも違った法則による世界への干渉方法、とでも言えばいいか。精神力を現象に変換するとも言い変えられる。要は念じることで物を浮遊させたり飛ばせる技法だろうかね。
後にイヴォンヌに聞いたところ、光弾はフォトンキャノン、防御の力場はフォースシールドと言うんだそうだ。ただ普通のサイキックなら光弾ではなく念力による衝撃波であるサイコウェーブを使う戦術が基本らしい。マジックキャノンみたくフォトンキャノンを使うのは趣味の領域なんだとか。
それにしてもアニエスが戦い始めてからイヴォンヌが彼女を見る目は険しい。何かを疑っているのは間違いなさそうだが妾には見当もつかない。アニエスが妾らを欺くべく演技しているようには見えないので、杞憂だとも思えるんだが……。
「イヴォンヌ。まずはあの恋に狂ったバカ女を片付けよう。懸案はそれからだ」
「……そうね。あのカマトト女の脚本通りに動くのは癪だけれど」
「カマトト女? えっと、魔導王国に囚われてるマリエットのことだったか?」
「それは後でいいって言ったのはドロシーでしょうよ」
それもそうだ、と妾はポイゾナブロウやバイオブラストを噴射して攻撃しだす。イヴォンヌは手に闇を集めてソレを投げ始める。ダークネスショットと言って彼女はなんと魔王軍でも数少ない暗黒魔法の使い手なのだ。肝心な使い勝手はマジックキャノンとあまり変わらないがね。




