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第二王女、敗北を確信する

 ■(第三者視点)■


 十賢者ドミニクの秘密兵器である洗脳マリエットはまず砦の内部に侵入してきたデモンアントとナイトメアターマイトの新しい巣の駆除に成功した。挑発のために仕留めた若き女王の死骸を敵陣向けて射出し、洗脳マリエットを戦場に投入した。


 洗脳マリエットは期待通りに敵軍を大きく損壊させたうえでシロアリの真女王と戦闘を開始。クロアリの真女王は砦攻略に専念する形となった。


 さしもの魔王軍であっても堀の中に沈めた機雷や複数立てられた防御塔、そして城壁上や中からの攻撃によって決して少なくない損害を与えた。そんな犠牲者の屍を乗り越えて巨大アリは侵攻を続けたが、城壁を駆け上るまでこぎつける個体は現れない。


 クロアリの真女王率いる精鋭部隊らしき群衆は正面門の破壊に注力するもののその箇所は砦でも特に重点的に防御を固めており、集中砲火により巨大アリの屍が堀に張られた水の底へと沈んでいくばかりだった。


「それで、イレイザーキャノン発射準備完了の知らせは?」

「そ、それが……未だ報告が届いていない状況です」


 第二王女アニエスは砦内で最も高い塔の最上階に位置する司令官の執務室から戦局を眺めていた。隣では今回の討伐軍総司令官が憮然とした面持ちで腕組し、任命された将軍と砦の司令官が大量に流れる汗を一生懸命に拭いていた。


 今回魔導王国側が取った戦法は単純なもので、警固な砦に侵入されないようにしつつ周囲に群がる巨大アリの群れを戦略兵器で一網打尽にする。厄介な真女王には洗脳した魔王の娘をけしかける。この二つだけだった。


 魔の森に隣接した城塞都市が陥落した大きな要因である地中からの強襲も対処した。懸案を全て解消したならあの絶望の化身である魔王軍が相手だろうと勝てる。そんな自信を抱いて挑んだ勝負であったが……。


「現状を報告するよう発射基地には連絡しているのですか?」

「それが、先程から応答が無いようなのです。今転移門に連絡係を向かわせているところです」

「応答が無い……? そんな筈ありません。この日は連絡を密にして最適な瞬間に発射するよう事前に決めていたでしょう。不測の事態でもあったなら連絡させなさい」

「議長閣下! も、申し上げます!」


 不安がよぎる中、執務室に慌てた様子で兵士が入り込んできた。本来なら将官どころか王族に対して無礼極まりなかったが、アニエスは咎めようとする将軍を制して報告を続けるよう促す。


「先ほどイレイザーキャノン発射基地に巨大アリが侵入、制御機関を次々に破壊されて発射は不可能となったとの報告がありました!」

「な、何だとぉっ!?」


 将軍は机を思いっきり叩いて大声を張り上げた。砦司令官など連絡係に詰め寄って胸ぐらを掴み上げたが、アニエスに落ち着くよう命じられて怒りを抑え込む。アニエスは少ない情報を素早く整理し、頭を抱えた。


「やられましたね。敵はここだけでなくイレイザーキャノン発射基地周辺にも新たな巣を作らせ、同じように地中から強襲をかけたのでしょう」

「馬鹿な! イレイザーキャノン発射基地は王国首都を挟んで反対側。基地を攻め落とせるほどの大軍勢を移動していれば我々が気づかぬわけがないでしょう!」

「違います。もっと単純です。若い女王アリと雄アリのつがいを旅立たせ、基地近辺に巣を作らせたんです。基地を襲った兵隊アリはその女王アリが生んで成長した個体でしょう」

「ありえない……。まだ奴らがこの国に攻め入ってからそう日数など経っていませんよ! 自然界に生息する普通のアリとてもっと長い期間でかけると図鑑で見たことが……!」

「さあ? 私はアリ博士でも何でもないので存じませんが、巣作りと卵から成虫に成長するまでを促進させる要素があるのでしょうね」


 アニエスの予想通りロザリーとイヴォンヌは以前旅立たせた若きつがいに特別な餌のゼリーを与えている。ただし無理をさせるせいで命ぜられた若き女王や急速に成長した子らの寿命は短い。それでも種のために真女王の命令に従ったのだ。


 これにより短期間で頭数を揃えた別働隊は戦略兵器の無力化に成功。これでロザリーの最大の懸案は取り除かれた。ロザリーの知略がアニエスを始めとする魔導王国元老院議員達を凌いだのだった。


「し、しかし我らにはまだ魔王の娘がいる! 奴がアリの真女王めを仕留められればいくらでも挽回が……!」

「いえ、そう都合良くは行かないようですね」


 アニエスが将軍と砦司令官に窓の外を見るよう促す。二人の歴戦の戦士が目にした光景は、ちょうど雷撃勇者フェリクスが参上して魔王の娘に立ちはだかった瞬間だった。そして乱入者は圧倒的強さで魔王の娘を追い詰めるではないか。


「雷撃勇者だとぉ!? なぜこの場に姿を見せたのだ!?」

「いや、それよりどうして勇者が魔王軍に加勢している!?」

「我々人類から勇者一行を切り捨てたくせによくもまあ都合の良いことを言えるものですね。ですが……これで一気に戦局は不利になりましたね」

「い、いえ……まだ砦そのものが陥落したわけではありません。各国の援軍が到着するまで籠城を……」


 僅かな可能性にすがろうとした砦司令官だったが、外の騒がしさが普通ではなくなったと気づいて窓から状況を確認する。すると、なんと正面門から次々と巨大アリが砦内になだれ込んでいるではないか。


 若き女王が生んだ新世代の兵隊アリの強襲で一時的に混乱状態に陥った砦内では報告や連絡もままならず、ロザリーが若き女王の巣穴を通って砦に侵入してきたことも気づかれなかった。発覚した頃には正面門と降ろし格子が内側から強酸で溶かし尽されて、もう手遅れとなっていた。


 無論、若き女王の巣を制圧した魔導王国軍はその巣穴を侵入経路に利用されないよう巣穴は崩落させた上に水没させた。ロザリーがそれらの障害を強行突破したことが想定外だっただけだ。


「……終わりですね」

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