黒蟻女王、まず前衛を仕留める
十賢者とかいう魔導師三人とエルフのアーチャー、それから重装剣士三名か。随分と大所帯で来たもんだがギリギリ許容範囲内だ。折角だからたまには軍団を指揮する総大将として一人で格好つけてみましょうか。
……そもそも、この正体不明を装ってる剣士三名はその太刀筋に見覚えがある。妾の予想が当たっているなら魔導王国の連中はとんでもないことをしでかしてくれたものだ。ま、こっちも使う手なので妾が文句を言う筋合いなど無いんだがな。
「それじゃあまずは小手調べと行こうか。ポイゾナブロウ!」
「マジックシールド!」
妾は左手から猛毒の霧を噴射させた。すかさず魔導師の一人が魔法の防御幕を張って防ぐ。防御幕は一回きりで砕けたものの毒霧は散ってしまった。なるほど、さすがにソルジャーアントを退けただけはあるか。
「んじゃあこれはどうかな? バイオブラスト!」
「それもさせない! マジックシールド!」
今度は右手から有害な細菌を噴射してみる。今度は別の魔導師が新たに魔法の防御幕を張って防いできた。これまた防御幕は一回きりで砕け、散った細菌は最後の魔導師が噴射した炎で焼き払われてしまった。
すかさず三名の剣士が妾との距離を縮めて剣を振ってくる。妾は両手を駆使して剣を殴って直撃を防いでいく。妾の腕は生半可な籠手より硬いからなぁ。全然痛くないのだ。防御に専念すれば三名ぐらい同時に相手したって苦ではない。
「ほれ、腹がお留守だぞ!」
剣士の一人を思い切り蹴飛ばしてやる。鎧に阻まれて腹にダメージは与えられないだろうが、ふっとばした先にいた小賢しく矢を飛ばしてくるエルフにぶつける嫌がらせぐらいは出来る。
「この、ファイヤーボール!」
「援護します、ダイヤモンドダスト!」
魔導師共が火球魔法と凍気魔法を放ってきた。どうやら相手側は即席のパーティらしく、剣士と魔導師の連携がお粗末だなぁ。妾は剣士が盾になるように立ち位置を調整する。二名の剣士は妾の狙い通りそれぞれの魔法を背中に食らってくれた。
その隙に剣士に向けて酸液を吐き出した。ちょうど剣を振り抜いた直後だったので手で庇うことも出来ず、思いっきり顔面に直撃。いかに兜で覆っていようが視界を確保するために目元は開いてるからなぁ。
目元を押さえて悲鳴を上げる剣士を尻目にもう一人の剣士の腕を取って関節とは逆方向に曲げてやった。いかに鍛えてようが所詮人間では魔人形態の妾の方が遥かに力が強いからなぁ。ほれ、もろくももげてしまったぞ。
「ニードルスパイク!」
そして毒針を二人に向けて射出。首周りの鎖帷子を貫通して喉を貫かれた剣士共はもがき苦しみ、身体を痙攣させ、やがては動かなくなった。妾は二人の身体をわざと踏みつけてやったが全く反応しない。絶命したかはさておき戦闘不能なのは確かか。
ちなみに前回の戦で十賢者らしき魔導師を遠距離で仕留めたのはこの攻撃だ。大魔法の発動なんざ許すわけねえだろ。細くて硬度も充分、鋭く貫通力があるので妾は相手との距離を問わずに愛用してる。
「まずは二匹。さあ、まだ戦いは始まったばかりだぞ」
「おのれぇぇ!」
エルフが怒り心頭で矢を連射してきたので妾は動かぬ剣士の腕を取って奴目掛けてぶん投げてやった。これも飛び道具とみなされたのか魔力障壁に阻まれてエルフには届かずじまい。しかしすかさずぶん投げた二体目のはどうかな?
「フレイムブラストぉ!」
パーティのリーダーらしき魔導師が火炎を噴射して迫りくる物言わぬ剣士の身体を焼き払った。ほう、まだ死亡を確認してなかったのにそんな判断が出来るとはね。中々やるじゃあないか。
残った最後の剣士が咆哮しながら突撃してくる。妾は拳と拳で振り下ろされる剣を挟み込み、力任せに捻って奪ってやった。んで技も関係なく力任せに振り下ろしてやった。脳天こそかち割れなかったが肩から大きく引き裂けたので満足だ。
「はっ。親衛隊とはいえ雑兵を洗脳して差し向けたからと軍団長に勝てるとでも思っていたのか?」
「は? 何を言っている?」
「……そうだなぁ。知らないままなのも可愛そうだしネタバラシしてやろう」
妾は仕留めた最後の剣士の兜を剥がし、その面を魔導師共に見せびらかしてやった。うなじと頭しか見えない妾の方からはその面を拝めないが、髪や肌の色からして予想通りだったようだな。
紫の肌をした剣士は人間ではなかった。そしてその正体は魔導師共も察したらしく、目にした途端に戦闘中だとすっかり忘れて愕然とする。嘘だと一人が呟いたが残念、これが現実ですぅ!
「ほれ、そなた等が連れてきた剣士の正体は魔族! 魔王軍に属する者同士で戦わせようとは随分と腹黒いじゃないか!」
剣士共の正体はかつて魔王城で魔王様を守護していた親衛隊騎士だ。大方生け捕りにして洗脳、傀儡としてこき使っていたのだろう。親衛隊騎士ならソルジャーアントで敵わないのも道理か。