第二女王、反撃作戦を立案する
■(第三者視点)■
魔導王国元老院議会。本来魔導王国の行く末を定める中枢の場はもはや葬式のような重苦しい雰囲気に包まれていた。
連日の魔王軍の侵攻に防戦すら出来ずに侵攻される一方。既に魔王軍は魔導王国首都まであと都市二つを攻略すれば到達する位置にまで差し掛かっている。防衛網は万全とは言え果たして巨大アリの大軍勢を退けられるか、誰も断言出来なかった。
しかし元老院議長の第二王女は諦めていなかった。まだ対抗策が打てるだけの余力がある限りは全力で抗い続けなければならない。さもなくば魔導王国の民は全員巨大アリの餌として最後を迎えるしかないのだから。
「整理します。ナイトメアターマイトは自然界に生息するシロアリと生態は類似しているのですね?」
「肯定します。しかしナイトメアターマイトには一つ決定的に異なる点があります。それが真女王と呼ばれる存在です」
「真女王……選りすぐりの魔物は魔人化して知性を得ますが、ナイトメアターマイトも例外ではないのですね」
「全ての巣の女王がこの真女王に従います。巨大アリの大集団が軍として機能するのはひとえに真女王の存在によるものかと」
「では、この真女王を討ち果たせば軍としては打壊する、で合っていますか?」
「魔王亡き今、新たな真女王が現れる可能性は非常に低いでしょう。そうなれば巣ごとに駆除し回ればいずれは根絶させられるかと」
将軍の説明を聞いて第二王女は唸った。
これまでの現地からの映像によりデモンアント、ナイトメアターマイト双方の真女王が最前線に姿を見せていることは分かっている。今後も前線に立って指揮を取るだろうと予測している。
問題はただでさえ一体一体が強力な巨大アリの布陣をどう掻い潜って真女王までたどり着くか、そして真女王二体を討ち果たせる人材がこの魔導王国にいるか、だ。少なくともシロアリの真女王は魔王の寵姫相当だと想定され、苦戦は必至だ。
「まず真女王への活路を切り開くため、空中要塞の使用について議決を取ります」
第二王女の提案に元老院議員一同が騒然とする。
空中要塞、それは空を飛ぶ乗り物である飛空艇の中でも最も大きく、海上の軍艦に相当する。主砲や副砲を多数装備しており対地、対空性能共に秀でている。問題は運用するための人員と消費燃料で、一回動かすだけで国家予算の数パーセントが食いつぶされる金食い虫でもあった。
「空中要塞を!? しかしアレは国家存亡の大災害や厄災の時にのみ運用される決戦兵器でして……」
「今使わずにいつ使うのですか? 今まさに魔導王国は滅亡に危機に立たされているのですよ? 何も王女として命じているわけではありません。必要性について議論し、この元老院で決めればいいでしょう」
アリの生態から考えて敵軍は空中戦は苦手としていると想定され、空中要塞の戦線投入は充分に有効だろうと第二王女は考えた上での発言だった。現に元老院議員も少なくない数がこの案になるほどと相槌を打つほどだった。
「次に真女王の撃破ですが、やはり十賢者複数名を主軸にした精鋭パーティを結成するしかないでしょう。かの勇者一行とまでいかずとも軍団長相当ならば決して勝てぬ相手ではありません」
第二王女の発言には元老院議員誰もが同意したものの、問題はどの十賢者を向かわせるか、だ。既に四名もの十賢者が巨大アリ軍団の犠牲になっており、考え無しに複数名に命じたところでアリの餌を増やすだけだから。
「その任務、この私めにお任せください」
そんな沈黙が漂う中、これまでナイトメアターマイトについて知見を発揮していた将軍が名乗り出る。
「オーギュスト……いいのですか? おそらく生きては帰れませんよ?」
「なに、死地は魔王城でも潜っています。今度も生還してご覧に入れますよ」
十賢者の一人でもある将軍オーギュストは三年前に魔導王国軍の指揮官として魔王軍との戦いに派遣されている。魔王城の決戦にも参加し、ナイトメアターマイトを相手に死闘を繰り広げたこともあった。
他の十賢者も魔王城の決戦でオーギュストに同行した歴戦の大魔導師二名を選定。巨大アリ退治にもようやく希望が見えてきたことで元老院議員も何名か安堵して胸を撫で下ろす。
「ですが三名だけではさすがに心もとないですね。せめてもう二名パーティに欲しいところですが……」
「そのうちの一名でしたらご心配なく。既にかつて共に戦ったエルフの『彼』に声をかけましたので。喜んで同行してくれると言ってくれました」
「さすがですね。ではもう一名は前衛を追加したいところですが……」
「ひょっひょっひょっ。王女殿下、それでしたら吾輩めにお任せください」
議場の隅でこれまで大人しくしていた初老の男が挙手して声を発する。
元老院議員やオーギュスト達は胡散臭い声を聞いて露骨に不愉快だとの顔色を隠さなかった。