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黒蟻女王、次の都市を攻略する

「はーい、じゃあ次の都市を攻めるにあたっての方針を説明しまーす」

「ねえロザリー。時々貴女の妙なテンションに付き合うのは疲れるのだけれど?」


 さて、巣穴を少し遠くの森まで延長しきったところで妾はイヴォンヌに具体的説明をすることにした。イヴォンヌに作戦任せると全部ゴリ押しで乗り切ろうとするので状況に応じた立案を妾がする破目になっている。切実に軍師が欲しいぞ。


 妾は地面に城塞都市からかっぱらってきた魔導王国の地図を広げた。それで指にこれまた取ってきた黒のインクを指に付けて線を書いていく。イヴォンヌにも分かるだろうがこれは巣から伸ばした地下の巣穴を示している。


「まず今日までの作業でここまでは妾らの勢力範囲と言ってもいい。けれど此処から魔導王国の首都に攻め込むにはちょっと距離が遠すぎる。日没から出陣しても陸路だと何日もかかっちゃう」

「そうねぇ。それに気付かれないよう真下に穴を掘るのも一苦労よね」

「だからここ、ここ、ここ、それとここに新しい拠点を構築すればいいんじゃないかって思ってる。そうすれば首都攻めの際に包囲できるし近隣地域からの増援も阻めるでしょ」

「ここも大分規模が大きくなったし、子らに結婚飛行させる頃合いよねぇ」


 結婚飛行、いわゆる羽アリが巣から飛び出て相手を見つける繁殖行為をそう呼ぶ。魔物化してない普通のアリなら近親結婚を避けるために広範囲の数多の巣から一斉にやるものなのだけれど、妾らは単一の巣から暖簾分けの形でやっても問題ないのだ。


 何だったかなぁ。別の軍団長が一度説明してくれたんだよなぁ。確か羽アリが巣立つ前に魔石を食べる習性は身体の遺伝子を弄って環境が激変した際も生き残れる個体が発生しやすくするため、だったか。遺伝子は身体の設計図のことだとか教えられても妾にはさっぱりだ。


「と、いうわけでこっちは新女王の選定は終わってるぞ。そっちは」

「こっちも問題ないわよ。というかナイトメアターマイトは一つの巣に複数の女王がいるもの。数体独立させても全く問題ないわ」

「一応聞いとくけれど、独立させた新女王の巣は妾らに敵意向けないよね?」

「それは私が言い聞かせるから大丈夫よ。そっちと同じで真女王の命令には決して逆らえないわ。それこそ海に飛び込めって言いつければ飛び込むぐらいにね」


 と、言うわけで妾とイヴォンヌは日が沈んですぐにそれぞれ二組の羽アリを巣立たせた。彼女らはもうここには戻ってこれないけれど、新天地でも無事に過ごしてほしいものだ。その願いは真女王となってアリの生態から外れてしまった今でも変わりない。


 それと平行して巣の中にいるソルジャーアントとターマイトソルジャーの半数近くを出陣させる。足りなければ増援を送ればいい。ただし隣接する大森林でエルフ共が何か仕掛けてきた際の対処要因は残しておかないとな。


 ちなみに、デモンアントやナイトメアターマイトの走行速度はそれなりに速い。人間が全速力で走るより数倍速いのは確実だろう。なので巣穴の端から次の目標である地方都市までは数時間ほど。朝日を拝む頃には攻め落とせる見込みだ。


「と、言うわけでもう目的地に到着したわけなんだが……」

「思ってたより厳戒態勢が敷かれていないわね。もしかして住人を根絶やしにしたせいで情報が上層部にしか行き届いていない?」

「魔王様亡き平和な時代に突然魔王軍が攻めてきました、なんて大混乱の元だものなぁ。ま、向こうの事情なんざ妾の知ったこっちゃないけれど~」

「張られている結界も国境線ほど頑丈ではなさそうだし、特に問題は無いわね」


 妾とイヴォンヌはそれぞれ子らに攻撃命令を下す。一斉に黒と白の巨大アリの大軍勢が地方都市へと襲いかかった。きっと人間どもが砂糖菓子に群がる大量のアリを眺めるのと同じ感覚なんだろうなぁ、と何気なく思った。


 こちらの突撃に真っ先に気づいたのは誰でもなく魔導王国の都市外周に標準配備されている自動防衛塔だった。魔王軍を迎撃するために莫大な税金を投資して整備したらしい。良かったねえ、税金泥棒の汚名は返上させてやんよ。あ、でも役立たずだからやっぱ税金泥棒かぁ?


 いくつもの防衛塔から放たれた雷撃魔法チェーンライトニングが一斉にソルジャーアント達に襲いかかる。さすがのソルジャーアントでもそれなりに威力のある攻撃魔法で無傷とはいかないようだ。


「ただ仕留めるには威力が足りないなぁ」

「ま、地方都市に配備された防御塔なんてそこまで高性能ではないでしょう」


 若干怯みはしたものの突撃速度は変わらない。やがて防衛塔が作動したことで間接的に敵軍に気付いた城壁上の警備兵達もまた一斉に杖の先をこちらに向けて一斉に雷撃魔法ライトニングを放ってくる。


 何で人間は雷撃魔法を好むんだ? と一度別の軍団長に聞いたことあったけど、炎や風を飛ばすより遥かに早く敵に当てられるからだそうだ。それでいて光線魔法よりも習得難易度が高くないお手軽さが好評らしい。


「しかしそれじゃあ妾の子らは止められないなぁ」


 ソルジャーアントが桟橋が上がった空堀を超えて城壁を昇っていく。群がるのは地方都市を守護する四方の防衛塔。さすがに引っ付かれると迎撃は無理らしく、雷撃を放つてっぺんの宝玉をむしり取られた。動力音が低くなってやがて機能停止する。


 こうなるともうやりたい放題だ。城壁上の魔導師達を蹴散らして内側へ侵入。さあ皆が待ち望んだ食事の時間の始まりさ。巨大な黒と白のアリが次々と中へとなだれ込んでいき、僅かながら人間達の悲鳴や絶叫が聞こえてくる。


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