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黒蟻女王、雷撃勇者を拾う

新作はじめました。よろしくお願いします。

投稿ペースはしばらく毎日一回を目指します。

 悲報、魔王様が討伐される。

 超悲報、魔王軍が壊滅する。

 超絶悲報、なんかうちが魔王軍残党の最大勢力になってた。


 今の魔王様が即位してから程なく魔王軍は人類圏への侵攻を開始した。各軍団はそれぞれ列強国を攻略するために派遣されて全面戦争に、その他の小国は魔王様の魔力と瘴気で自然発生する魔物が暴れまわるのに任せた。


 で、いいところまで人類側を追い詰めたのはいいんだが、勇者を名乗る一味が次々と各軍団を撃退していったわけ。そんでついには人類連合軍の旗頭になって魔王様のいる魔王城を攻め、魔王様を討伐したんだとさ。


 悪い魔王が討伐されて世界に平和が戻ったのです、めでたしめでたし。

 ……んな絵本みたいに簡単に終わるわけないよなぁ。


 何せ人類側は魔王軍の全勢力を駆逐したわけじゃない。未だに各強国を脅かす方面軍は顕在。ここからは人類側と魔王軍との生存をかけた戦争の開始ってわけだ。とはいえ魔王様がいなくなった魔王軍なんて烏合の衆。かなり劣勢みたいだけどな。


 で、妾ら魔王軍第三軍団は魔導王が統治する魔導王国とエルフ共が住む大森林の攻略を任されて派遣されたわけだけど、正直そこまでの大規模な戦争には発展してなかったんだよね。


「いや、無理じゃね? こんだけでどうやって戦えっていうんだ?」


 第三軍団とか銘打たれてても魔導王国と大森林を攻め落とすには手数が足りなすぎたんだよ! 何だよ戦力は現地調達でってさ! 妾がアリの女王だからって派遣された現地で巣を作って産めよ生やせよしろってかー?


 だから仕方無しに巣を作ってから子を生みまくったってわけ。その際に小競り合いとか局地戦はあったけれど、こっちが慎重だったのもあって全面戦争には発展せずに済んだってわけ。


 で、いよいよそれなりに軍として整ってきたからじゃあ仕事するかーって気合入れたところで魔王様がやられちゃったのさ。いやー、他の軍団長から何やってんだオメーとか言われそうだわ。


 んで、魔王様いなくなったじゃん。魔王軍壊滅したじゃん。

 じゃあもう頑張らなくてもいいよなぁってなるじゃん!


 妾ら魔王軍第三軍団は魔王様の仇討ちするでもなく新たに魔王を名乗って新生魔王軍を決起するでもなく、かと言って現地拠点に巣を作ってだいぶ経つのに今更引っ越し……もとい、退却するなんて面倒くさいったらありゃしない!


 というわけで、近隣の勢力図は魔王様が顕在だった三年前から現在まで変わりなし。魔導王国や大森林もこっちに対してやぶ蛇をつつくような真似はさすがにしてきてないし、逆に妾らも連中の都市を侵略するつもりもない。たまーに小競り合いがあるぐらいか。


 そんなわけで今日も巣の中で食っちゃ寝するわけで。あー平和っていいなー。


 ……なんて思っていた時期が、妾にもありました。


 その日、何かワーカーアントが奇妙な報告をしてきたので妾は超久しぶりに地上に出たのよ。太陽が眩しかったら暑かったりでだるかったのは置いといて、ワーカーアントに連れられて向かった先にソイツはいた。


 男は騎士だか戦士だかといった鍛えられたガタイをしている人間だった。明らかに雑兵には支給されやしない立派な全身鎧を身にまとっている。剣だってもしかしたら魔法が付与された魔法剣だろうか? 顔は人間の美的感覚からすれば整った美形なんだろう。妾の感覚で語るなら極上の餌が目の前に転がっている、だな。


 そんな男が頭から多量の血を流して倒れていた。良く見たら鎧も所々で壊れてる。激しい戦闘の末にここまで逃げ延びてきた、辺りか? でもこれだけ傷を負ってたら周囲にもっと血が散らばっててもいいんだが、その跡は無い。何らかの魔術的要素でここに飛ばされてもしたか?


「うわ、面倒くせー。魔導王国まで連れてって人間共に引き渡すかー? でも魔導王国で厄介事があってここまで逃げてきたのなら厄介だなぁ。いっそ遠慮なく餌扱いしていただいちゃうか?」


 悩めば悩むだけ頭が痛くなりそうだな。

 ええい、仕方がない。コイツがここにいる時点でもう手遅れみたいなものだ。ならコイツを介抱して事情を聞き出そうじゃないか。


 妾は近くに人間共がこの辺り一帯の調査の拠点にするべく設けた小屋があったので、ワーカーアントに命じてそこに連れて行った。それから鎧を脱がせてメディックアントに傷を治療させ、ベッドに寝かせた。


 ふむ、傷の程度から考えて一人の手練れを相手したんじゃなくて大勢に囲まれてリンチされたか。それも人間相手じゃなくて魔物の群れを相手した感じだな。魔王様亡き今、魔王軍傘下以外の魔物は落ち着いてきた筈なんだけど。


 次の日の朝、日の出とともに目を覚ました。ずっと巣穴に引きこもってたせいで窓から差し込んでくる太陽の光が嫌に眩しくてね。思わず手で目を覆っちゃったよ。なれるまで結構な時間がかかったと思う。


「ん……く……。こ……ここは……?」


 ようやく朝に適応してきた妾の耳に男の声が入ってきた。うーむ、普段耳なんて無い生活送ってたから慣れない情報で頭が痛いな。けれど人間と意思疎通するならこの形態じゃないと駄目だし、我慢するしかないか。


 男は頭を押さえながら上半身を起こして周囲を窺った。それで壁にもたれかかった妾を目にして突如身体を強張らせて警戒心を顕にしてきた。そんで剣を抜こうと腰に手を持っていき、武装解除されていることにようやく気づく。


「よ。目が覚めたか。アンタは近くで負傷してる所をうちの子供が見つけたんで、この小屋で休ませたんだ」


 久しぶりに言葉を発したからうまく喋れてるか心配だぞ。喉の具合が違和感だらけだ。あとちゃんと通じるよな? 魔導王国の標準語を使ってるつもりだけれど、言語が違いますなんてまっぴらごめんだね。


「子供に治療させたけど具合はどうだ? ああ、武具だったらそっちの隅にあるぞ」

「……貴女は?」

「名乗ってもいいけどそっちが先。面倒事に巻き込まれるのは御免なんでね」

「……フェリクスだ」


 ふぅん、フェリクスねぇ。


 彼は疲労した身体を無理に起こして武具と服が置かれてる方へと歩いていく。けれどよろけながらの歩行は途中で膝を付いたことで中断された。妾は深い溜め息を漏らして彼を寝具へと引っ張ってやった。


「すまない、ありがとう」

「体力が回復してないんだ。数日間は安静にしとけ」

「それで、貴女は?」

「妾の種族、デモンアントに個別の名前なんて無いよ。あえて呼ぶならロザリーとでもどうぞ」


 本来、妾達は人間共がアリと呼ぶ矮小な生命体と身体の作りや生態系が酷似している。なので聞く喋るなんて身体の機能は無いんだが、魔王軍の一員として関わるのにものすっごく面倒でさ。女王アリを含めたごく一部の者は魔人形態と呼ばれる人の形を模す変態にならなきゃならなくなったわけだ。


 今の妾は正に魔人形態。頭部から胴まで魔人を模して、手先や足先とか触覚はそのまま残してる。触覚が無いとアリ生活はやってられん。あとこの四肢は道具を使う分には便利なんだけど移動に不便なんだよなぁ。魔人共はどうしてこんな身体の造りに進化したのやら。


「アリを統括する司令塔……貴女がデモンアントの女王か?」

「そうだよ。ただしこの一帯に巣を作ってる、って注釈付きだけどね」


 魔王軍云々をコイツに喋る必要は無いね。要らん騒ぎは起こしたくない。


 妾は定期的にメディックアントとナースアントに治療と介護に来るようにさせること、金を含めて一切の礼は要らないこと、ただし動けるようになったら直ちに妾の縄張りから出ることを要求、フェリクスはそれを飲んだ。


「俺の事情は何も聞かないのだな」

「ヤダよ。面倒事に巻き込まれたくない。ただでさえエルフ共とか魔導王国に睨まれてる状況なのに、連中を刺激したくないんだけど」

「……かたじけない。回復したらすぐに出発しよう」

「そうしてくれ。でも黙って立ち去るなよ。ふらつかれたんじゃあたまらない。妾の子供に外まで案内させるからさ」


 フェリクスは何か言いたそうだったけれど妾は気付かないふりして部屋を後にした。小屋から出さないよう外で見張るソルジャーアントに厳命。スカウトアントに周囲の警戒も命じておく。これで彼は小屋から出れなくなったな。


 一仕事終えてやれやれと巣に戻ろうとした妾に縄張り内への侵入があったと報告が入った。しかも野生の魔物でも動物でもなく人間ども複数名らしい。近隣の村から狩りに来たなら見逃してやるんだが、どうも違うようだ。


 キャリアアントに乗って現場に向かうと十数名の集団が森の中を進んでいた。前衛三人が戦士、五名ほど魔導師がいて、後は荷物運びや使用人と殿の戦士二名か。明らかにお散歩とか森林浴って雰囲気じゃあないよなぁ?


「止まれ、人間ども」


 連中に姿を見せない位置から声を投げかけた。すると集団は面白いぐらいに動揺し始めて周囲を見回す。魔導師の一人が透視魔法でも使ったのか、すぐに妾の位置はバレたものの、こちらへ突っ込んでくる気配は無い。


「私有地につき立入禁止、って立て看板してやっただろ? 迷い込んだなら出口まで案内しやるから、出ていけ」

「ほう、人の言葉を理解する虫けらがいたとはな!」


 魔導師のうち豪華な服を着たいかにも偉そうな奴が何か言ってきた。

 こいつ、今の状況分かってんのかなぁ? 森の真っ只中に十数名だけがうろちょろするなんて、襲ってくださいって言ってるようなものなんだがね。


「事を荒立てたくはない。目的は何だ?」

「虫けらに教えてやる謂れは……いや、数日前に男が一人こちらに来た筈だ。大人しく差し出してもらおうか!」


 フェリクスが目的かよ。あーもう、既に手遅れじゃん。助けなきゃよかったって後悔と助けなかったらわだかまりを残してただろうなぁ、って確信が両立して複雑。


 無論、このままフェリクスを突き出した方が厄介事にはならないんだろう。だからといって侮られていいわけがないよなぁ?


「断る。知ってるがお前の態度が気に入らない。で、これ以上人んちの庭を土足で踏み荒らすんならそれなりの対応をさせてもらうぞ」

「虫けらの分際で誇り高き魔導王国の魔導師を蔑むか!」

「忠告はしたぞ」


 まさかコイツ等、妾がただ警告のために話しかけたとか思ってないだろうな? こんなのは単なる時間稼ぎ。その間に連中の周囲にソルジャーアントを展開させてたってわけ。あとは分かるよなぁ?


「んじゃ、ありがたくいただきます」

「な、何だ!? コイツ等いつの間に――!?」

「ぎゃああぁぁ! やめろ、やめろぉぉ!」

「嫌だぁ! こんなの嫌だぁ!」


 突然連中の四方八方からソルジャーアントが襲いかかった。ははは、無駄無駄ぁ! ソルジャーアントの装甲は鋼鉄より硬いぞ。生半可な攻撃じゃあびくともしないよ。戦士の剣も魔導師の火炎魔法もへっちゃらさ。


 ソルジャーアントの大アゴに食われる人間どもは瞬く間にバラバラになっていく。なんたって人間の二倍の大きさだからな。鎧や鎖帷子に覆われてたって噛み千切れるぞ。後で餌にするために鎧と服を剥がす作業の方が大変だわ。


「にしても、フェリクスを追ってきた魔導王国の魔導師、かぁ。頭痛いな」


 餌を獲得した喜びより前途多難な未来に気が滅入る妾であった。

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