第7話「馬車に揺られて」
ガタガタガタ……
ガタガタガタガタ……
踏み慣らされただけの舗装されてない土の道を、車輪がくるくると廻っている。
「ふぅ〜、やはりロックヘック山脈近くの森超えは苦労しますねぇ……腰に来ますよ。ほんと」
ガタガタと揺れる馬車内。
その四方には幾人かの冒険者が要人を護るように竜馬に乗って大地を駆けていて、ゆったりとしたペースではあるが、周囲を警戒しながら報告をし合っていた。
その数、十数人程度だ。
前方向を警戒する者と後方を警護している者、両翼を歩く騎士職の者たちで役割分担していて、彼らは行列を成しながら歩き真面目に仕事に従事している。
だが、少し耳を澄ましてみれば離れているもの達は合間に談笑を楽しんだりもしているようで、これが集団クエストというものかと俺は納得していた。
「はは、それでさ。うちの魔道士のやつが足くじいてなー。
いまは療養中で討伐お休みって訳。大変だぜ」
「あー、なるほどな。それで合間の時間に集団クエストか。暇だもんなぁ。人いないと!」
「そうなんだよ!どんな依頼も一人じゃ危ねぇしなぁ!」
うん、魔力で強化した聴力で聴いているが、やはり後方は前線とは違いとても緩い雰囲気である。
そんな彼らの様子に集団心理の髄が出てて面白いな、などと思いながらも、俺は俺の後ろにいる一人の男性に軽く声を掛けた。
「腰、大丈夫ですか?昨日、晴れていたので助かりましたが、馬車はもろに地面の状態変化を受けますからね。
これほどの土道だと揺れも凄いし、痛くなったら直ぐに言ってくださいね。止めますんで」
「おぉ、そうかい? ありがとねぇ!
でもまだ大丈夫!僕も長いこと馬車旅してるからね!気にしないでいいよ〜」
そう言って馬車の荷台からたははと声をあげるのは、俺たちの護衛対象である『ロイド・サぺツァーリ』さんだ。第一魔族領一の大商会と言われている"サぺツァーリ商会"の大旦那さんで、小綺麗な服装をしたふくよかな体格の男性である。
そんなロイドさん達を乗せた荷馬車を、今現在俺は操縦していた。理由は簡単である。
……今日、御者をする予定だった人が二日酔いで倒れたのだ。
馬車に乗り込もうとした瞬間、『あ、もう無理。マジ無理。オレ今日無理っすわ……!!!』といって地面に突っ伏して吐き始めた時は目を疑ったものだ。
俺が勇者時代に馬車を引く経験もしていたからどうにかなったが、全くこんな日の前に呑まないで欲しいとあの時は心の底から思っていた。飲酒運転、ダメ絶対。
「じゃあ、レントさん目的地まで宜しく頼むよー。
さて……ベンナの方は大丈夫かい?もし馬車の揺れでお尻が痛くなったらすぐに言うんだよぉー?すぐに休憩にして馬車を休ませるからねぇ〜!」
「っもう、お父さまっ?!お尻なんて言わないでくださいよ!レントさんの前で……恥ずかしいですっ!」
「ははははは、ごめんごめん!
そうかべンナも女の子だもんねぇ〜。こんなカッコイイ御者さんが居たら恥ずかしいか!はははっ!」
───まぁでも、その御者のお陰で俺が楽できているのだから、少し複雑だった。
自分の娘に話しかけるロイドさんの、ニコニコとした表情を視界の端に入れながら俺は竜馬の操縦に集中する。
「ぎゃうー!ぎゃううー!」
竜馬は、人族圏でこそ見かけないが、他の地方だと結構飼育されている下位竜と馬の混血種だ。
力が強く乱暴ではあるが、ひとたび調教を終えてしまえば強馬以上に扱いやすくパワーのある引手へと変貌する癖の強い馬種なのである。
「おっとと……!
目的地は其方じゃないぞ。こっちだ。こっち!」
「ぎゃう?ぎゃーーー!」
なので、扱うのに少しだけコツがいる。
手網を張る力の方向とか、振り回されない握り方とか、意識することが沢山で大変だった。
「っ、前方ッ!前方100メトール先にゴブリン視認っ!先遣隊接敵します!」
───だが、それも最初だけだ。
竜馬は、慣れてしまえば力も要らないので子供でも引けてしまうだろう。そうなれば後は此方のものだ。
「あ、俺ちょっと出ますね?
じゃあベンナちゃん、さっき教えた通りによろしくね。竜馬さんと息を合わせて、力の方向を流れるままに、ね?」
「は、はいっ!分かりました!」「うん、頼んだよ───」
ジャッ!っと飛び降り土の地面を踏んで、先遣隊の方へ縮地を使い飛んでいく。
馬車の操縦はロイドさんの娘さんであるベンナちゃんに任せてしまったが、まぁ大丈夫だろう。
道中で実践混じりに教えた所感だが、あの子は恐らくもう引ける。大分覚えがいい方だったし、もしも危なくなっても俺なら走れば間に合うし。
「ギャッギャッ!「ほっと」 ぎ──?」
というわけで、接敵である。
縮地を使ってすれ違いざま、鉄剣を片手でぐっと押し当てながらゴブリンの首を断ち切る。
「まずは一匹。次は、っと───」
そして、何が起きたか分からず、近くでぼけっと俺を見つめていた一匹の頭に横なぎにブレードの中腹あたりをぶち当てて、数メートルほど吹っ飛ばして戦闘不能にする。
この鉄剣、店のバラ売りで適当に買ったやつだから耐久度とか心配だったけど、意外と持ちそうだな。魔力で全身を覆ってやれば、もう少しは無理しても戦えそうだ。
俺はそうアタリをつけて、自分の少ない体内魔力から少しだけ刀身に魔力を流し込んで耐久性を強化する。
「よっと」「ッ、ギッ!???」
……そして、そのまま返す刀で背後で一撃狙っていたゴブリンの石斧にパリィをして弾き壊し、無手になった彼の心臓に思い切り剣を突き刺して《核》を破壊した。
思った通りだ。強化すればゴブリンの胸骨ぐらいは簡単に突き破れそうだった。我ながら良い買い物をした。
「うん、これは買い出しで目利きに付き合ってくれたシャルロッタさんにも感謝だな。後で伝えておこう……と」
「ッレントさーん!応援来ましたよ!
先遣隊の発見したゴブリンは───って、もう終わってるぅ!?」
これまでの道中で仲良くなった俺の同期の冒険者、応援に駆けつけてくれた銅級冒険者のハルキ君が卒倒する。
どうやらそれ程までゴブリンと戦いたかったようだ。その様子を見て、俺は悪いと思いながら謝った。
「ごめん、ハルキくん。そうだよな、仕事奪われたら溜まったもんじゃないもんな。次はちゃんと残しとくよ」
「あ、いえ、そういう事じゃなくてっ!
…いや。やっぱりもうそれでいいです。レントさんが規格外だって事は、この道中でよく分かったのでっ……!」
しかし、そう言ってから『僕ももっと強くならなきゃなぁ』とうわ言のように呟くハルキ君を見て、俺は内心で感心して頷いていた。
そうだよな、ハルキ君の言う通りだ。
俺ももっともっと強くなって、俺自身がフレウを助けられるように成長するのだ。
そうして恩返しが出来るようになれば、きっとあいつの助けにもなれるし、俺自身の成長にも繋がるだろう。
そのためには一先ずの目標として……多分、竜とぐらいは殴りあえるようにならないとフレウ達には追いつけないだろう。
俺はパンと頬を叩いて気合いを入れ直した。
「よし、ハルキ君!同期として一緒に頑張ろうな!
俺もハルキ君に負けないぐらい、もっともっと鍛錬を積んで強くなってくよ!負けないぞ!」
「えぇそこからまだ強くなるんですか、レントさん?
それ以上行くと多分バケモノですよぉ……やめましょうよぉ人間じゃ無くなっちゃいますよぉ……!!!」
ふにゃあと顔を顰めるハルキ君とその隣でふんと息を巻く俺───それを見守るのは、馬車台から顔を出しているロイドさんとその娘さんのベンナちゃんだ。
こんな感じで、俺たちの旅路は進んでいたのだ。
集団クエスト『サぺツァーリ商会の護衛』。
この旅の終着として目指すのは、第二魔族領・首都 《ロンド》……しかし俺の目標はその先も先である。
「あー、龍脈研究所の所長さん、怖い人じゃなきゃ良いなぁ……所長さんって性格悪いかな?ハルキ君、どう思う?」
「いや知りませんよ?そこは自分で会ってみてちゃんと人となりを測ってくださいよ、レントさん?」
「えぇ?そこはほら、勘でも良いからなんか思ったことを伝えてくれると嬉しいというかなんというか───」
都心から少し離れた《ロードント丘陵地帯》の先にある"ノエルゼ"という街にある"龍脈研究所"。
そこに居る『リエルサ=エルロッチェ』という所長さんが、今回の俺の指名依頼の宛先人である。
───そして、今回は他でもない。
あのフレウの友人である銀髪少女の【シャルロッタさんからの指名依頼】で、この第二魔族領の大地を踏み締めることになったのだ。
……というわけで、話は俺が馬車の護衛依頼を受けることになった数日前まで巻き戻る。
そう、あの日、シャルロッタさんが俺の食卓に参入してきた後───その後の出来事だ───。
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「……あら、こっちの『砂糖菓子』も美味しそうね。
レント、あれも買ってきて頂戴。はい、これお金。宜しくね。」
買い物用の紙袋を両手いっぱいに抱えた俺の目の前。
薬草やらお菓子やら、様々な店の商品が沢山入ったその紙袋の上の部分にちょこんと小綺麗な皮袋が摘み置かれる。
重い革袋だ。
中にたくさんの金貨が詰まっているからだろう。
「はいッ、あのっ、すみません……!
このトゥーブランチひとつ下さい!この上に乗っけて貰えると有難いです……!」
「あいよ!この上ねっ!
ははっ、お兄ちゃん大変だねぇ!頑張れよー!」
俺はそんな皮袋から何とか小銭を取り出して、商品である『トゥーブランチ』……
つまり魔国周辺や、魔力濃度の高い森に生息しているウィッチウッドの枝から抽出される、糖を使って形取られた枝の形状をした砂糖菓子の事だ。
「はぁーい、ありがとうございまーす……!」
それを店主さんに紙袋の上へ置いて貰い、俺はシャルロッタさんの元へ帰宅する。
「よし、買ってきたわね。
じゃあ次の店に行きましょうか。次は……」
───しかしその砂糖菓子の重さだけで、最早ぐらぐらと揺れる紙袋の荷物。
俺はそんな神がかり的なバランスで現状を保っている荷物たちを何とか落とさないようにしながら、シャルロッタさんの元に戻ったのだが……戻った瞬間に告げられるのは次の存在だった。
そんなシャルロッタさんの言葉を聞いて、俺は思わず内心で顔面蒼白していた。
「は、はは……、あの、すみませんシャルロッタさん?
俺、もう両手塞がってて持てないんで……出来ればこの辺で切り上げて貰えると……」
「何言ってるの?まだまだ余白があるじゃない。
私の専属メイドのイザベラだったら、あと十店舗分は一人で抱え込むわよ。行きましょう。」
いや、それイザベラさんが凄すぎるだけだろ?
十店舗分ってもう高層ダンジョンじゃん。きっと世界樹とかよりも高いぞ。多分。
「ほら、レント。早くしないと置いていくわよ。
次はブティックまで行って私のドレス用の下服を買うんだから。急ぎなさいな?」
「はぁーい、分かりましたぁー。すぐ行きまぁーす……。
はぁ、買い物って大変すぎる……ていうか……なんでこうなったんだっけ……?」
そんな事を呟きながら……俺はスタスタと歩き出してしまったシャルロッタさんの後を追うようにして、千鳥足で考え事に老けっていたのだ。
そう、事の発端は昨日の朝食後。
何故かシャルロッタさんがフレウ邸の食卓に居座っていた、その後の出来事が原因であったのだ……!
ーー
「......という訳で、じゃ!
子奴が今日からこの家で一緒に住むことになる吸血娘のシャルロッタちゃんじゃ!仲良くしてやってくれよなっ!(^_-☆」
にっこにこの笑顔で、親指を立てながらバチコーンとウィンクをキメる目の前の鬼少女。
そんなフレウの満面の笑みを見て、俺は何となく状況を察しながらも、いつもとは違う朝食後の食卓の風景を眺めていた。
「……(ふきふき……)」
昨日自室にきた銀髪少女。
シャルロッタさんがそこに居る。
俺たちと同じ食事を終えて、昨日と同じような、しかし少しだけ柄の違うハンカチで口元を拭いて目を瞑っている。相変わらず座っているだけで絵になる人だ。
そんな事を思いながらも、俺はいつもより数段テンションの高いフレウに向けて言葉を発する。
「……お前、もしかしなくてもシャルロッタさんのこと、俺に報告するの忘れてたな?フレウ?」
ぎくっと固まるフレウ。
そしてそんな俺の言葉とフレウの様子を見て、
『え?レントさん知らなかったんですか……?』
みたいな顔をしてレミさんが気の毒そうに此方を見つめている。うん。その表情を見るに、これは結構前から決まってた事なのだろう。
という事は完全にフレウの連絡忘れである。
俺は少しだけ問い詰めるように、フレウのその紅の瞳をじっと見つめた。
「い、いやぁ……?
別に、妾……忘れとった訳じゃないよ?
あのサプライズ……的な?そういう感じのやつで言ってなかっただけじゃし……?」
フレウの明らかに泳いでいる瞳。言葉。
それを聞いて、俺は少しだけはぁと溜息を吐きながらも、まぁいいかと思い直した。
だって、フレウだし。
ズボラさ加減で言ったら世界一なタイプの鬼っ子なのだから、俺が此処で何を言っても意味がない。
それはここ一ヶ月ほど一緒に過ごしていて痛いほど良く分かっているのだ。
部屋とか何回言ってもノックしないし。
可燃も不燃もゴミで括って勝手に捨てるし。
それでレミさんに怒られているシーンを何度も見た記憶がある。要は真性のズボラなのだ。可哀想に……。
「まぁ、まぁいいじゃろうてっ!
そんなことはの、些細なことじゃろ!別に、知らなくとも何か変わるわけでもあるまいし───!」
「なるほどね。そういえば昨日、私と会った時、一瞬動揺して驚いてたのはそういう事だったのね。
その後お茶菓子を出してくれたから何とも思わなかったけど、なければ殺してたわ。良かったわね人間。」
「……うん、少しは何か変わったかもしれんけど!
けど後の祭りじゃから!何とかなっとるから結果OKじゃろ!良かった良かった!この話終わり!解散!!!」
そう言って駆けていこうとするフレウの肩をガシッと掴む。
お前、この状況で逃げられる訳ないだろ。
俺殺されてたんだが?ワンチャン死んでたんだが???
「……まぁ、まぁそんなことよりもじゃよ!!!
レントお主、シャルロッタの引越し作業を手伝ってやったらどうじゃ!?シャルロッタも大変じゃろ?なぁ!?」
そしてその言葉に頷くシャルロッタさん。
「まぁ、大変ではあるわね。
今日は軽い荷解きぐらいだけど、明日は色々と買い物にいかなきゃならないから。幾つか、手は欲しいわ。」
「っそう!そうじゃよなぁシャルロッタ!
いやぁ良かった、それならレントが全面的に協力してくれて……!」「じゃあ、フレウとレント。
貴方達二人で手分けして手伝ってね。宜しく頼むわ。」
「……え?マジで?それ妾もやるやつ?わらわ溜め込んどる仕事めちゃくちゃあるんじゃけど恩赦は───?」
……という感じで、手伝うことになったのだ。
しかも、何故か俺は友人であるフレウを差し置いて、シャルロッタさんの小間使いとして買い物場所について行っているという。不思議な状況である。まぁでも、
「いやじゃあぁ!仕事、仕事が終わらん!!!
妾、外に出ることなんぞ出来んのじゃあ!??今日は家に籠って仕事せんと、明日デスマで死ぬことになるんじゃあいやじゃあ!!??」
「はいはい、明日は私が付きっきりで手伝いますから。
今はレントさんへの連絡を忘れてた分、しっかりと買い出し作業を皆で手伝いましょうね?フレウ様ー?」
と言った感じでレミさんに連れて行かれたのできっと大丈夫だろう。あっちは上手くやってくれる。
レミさんが怒っている所なんて早々見ないし、触らぬ神に祟りなし……である。
という訳で俺は荷物を大量に持たされフラフラになりながらも、買い物を遂行した。
「次はあっち」「はい」
「次はそっち」「はい…」
「で、次はここ」「はぁい……」
「その次はあそこ───」
うん、第一魔族領の街中全店行脚の旅だった。
途中で俺の剣とか買ってくれた時は嬉しかったが、もう足パンである。フラフラである。
両手に持った幾つかの紙袋の上に、天高く荷物が積み上がっているのが伺えた。ていうか買った剣が重い。一番重い。
「あ、あのシャルロッタさん……!
もう、そろそろっ……!落としそうっていうかっ……!」
「うーん。まぁ、そうね。
正直、そろそろ限界そうだとは思ってたけど。でも意外と耐えたじゃない。体幹いいわね貴方。」
わーい、褒められた。
もしかしたら俺、荷物持ちの才能あるかもしれないな。これから荷物持ちとして生きて───って!
「いや、限界そうだと思ってたなら辞めてくださいね!??
この量の荷物落としたらシャレにならないですからね?!!弁償しませんからね俺??!!」
我ながら綺麗なノリツッコミだった。
心の中だけではあるが、心の底からの言葉だった。
ーー
「……さて、買い出しも終わった所で。
そろそろ本題に入りましょうか。本物の勇者志望のレント君?」
荷物を抱え屋敷に戻ってきてすぐの事。
シャルロッタさんは自室に置いた荷物を幾つか開封しながら、片手間に俺にそう話を切り出してくる。
「……本題ですか?
えっと、この前みたいな意味深げな話とか……それとも、何かまだ俺に聞きたいことでもありましたかね?」
「えぇ、というかどちらかと言うと頼み事ね。
この前の話を聞いて、貴方にお願いしてみてもいいかなって思ったから。一旦冒険者として個人依頼をしようかなって」
そう言いながら、シャルロッタさんはガサガサと紙袋の中を漁る。そして出てきたドレス服を高そうなクローゼットの中にしまいながら満足そうに頷いた。
この人、今日一日付き添ってみて分かったが、意外と感情表現が豊かなタイプだ。それに話していると案外ふざけるし、楽しかったらクスリと笑う。
まぁだいたい上から目線ではあったが、買い物中は下らない掛け合いや世間話を結構していたように思うし、根の部分は明るい人なのだろう。
「なるほど、個人依頼ですか。
でも俺、登録したばかりで全然冒険者やってないので、いま《石級》ランクですけど……大丈夫ですかね?」
「あぁ、それは大丈夫よ。昨日、私が狩猟組合に掛け合って貴方のランクを《銀級》まで上げておいたから。個人依頼を受けるまでは出来るわよ。良かったわね?」
うわぁ、この人いまナチュラルに凄いこと言ったな?
俺はシャルロッタさんの言葉に内心驚きながら、自分の中で覚えている限りの冒険者ギルドについての概要を思い出してみる。
そもそも、冒険者ギルドというのは世界各国に存在する中でも、地域によってその所属が違うのだ。
まず、人族圏なら宗教団体。
外海の果ての東国だったら、国の公的施設。
南国ならば、フリーランスの免許制だったりと、国によって扱いが異なるのが冒険者ギルドの実態なのだ。
───そして、ここ魔国では『狩猟組合』という国からも宗教からも分離した独自団体が運営しており、完全な仕事斡旋所のような体系を取っているのである。
民間人や国からリクエスト───
短縮して《クエスト》として依頼を受けて、報酬や内容によってランク分けされた依頼書を掲示板に貼り出しギルドに登録している冒険者達に斡旋する。
『狩猟組合』は、その仲介手数料で施設をより良くしたり、ギルド職員に給金を支払ったりして細々と運営を続けて、今現在の体系を確立したらしい。
だからこそ、『狩猟組合』は結構公正だ。
民間人や国からの仕事を斡旋するという中間管理職的な立ち位置の都合上、冒険者ギルド自体は完全に信用商売で成り立っていることになるので、初めてギルドに登録した人や悪いことをしてきた人には早々美味しい依頼書は受けさせないし、ある程度評判が良くならなければランクの昇級試験すら受けさせて貰えない。
その為、石級、銅級、銀級、金級、指揮級、核者級、支配者級の七つからなるランク制度は、高ければ高いほど見せるだけで絶対的な信用指標となる最強の個人証明書なのである。
という訳で、飛び級なんて普通はありえないし、誰かの意見でぽっと出の……それも人族の登録者なんて危ない存在を二階級昇進させるなんて普通有り得るはずが無い、筈なのだが……
「まぁ、私は『狩猟組合』とは昔から懇意にしているから。多少は融通が効くのよ。お得意様って奴ね。」
そう言われ流し目で御され、俺はもう黙るしかなかった。
だってこれ以上つついたら藪から蛇どころか死神とか出てきそうで怖いのだ。
だから先程も言ったが触らぬ神に祟りなしである。
何もせずに依頼クリア数十回分を免除されて幸運だった。
俺はそう思い込むことにして、取り敢えず自らのランクが上がったことを一旦喜んでおいた。
「で?それで個人依頼、受けるの?受けないの?」
「……内容次第です。人殺しとかはもうしないと決めているので、それ以外なら」
「なら大丈夫ね。今回は簡単な依頼だから。
指名する為に銀級まであげたけれど難易度は銅級程度、この手紙を第二魔族領にいる私の友人に届けるだけだからね。宜しく頼んだわよ。レント」
───と、言う話があって───。
「とうちゃーく!ノエルゼの町に着いたぞー!」
……今、俺は目的地である『龍脈研究所』のある"ノエルゼの町"に、ひとり降り立ったのである。
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