第3話「花に指輪」
「よし。完璧に治ってますね!もう動いて大丈夫でしょう」
魔王城に来てから、大体2週間程が経った。
あれから造花をしたり、この国の本を読んだり、造花したり造花したり造花したり……
まぁ大体造花をして過ごしていた。
そのお陰で造花の腕は生きてる花と遜色ないものを作れるくらいになったが、最初の俺と一番変わったことといえばやっぱり魔力量だろう。
来た当初の俺の魔力が10とするなら200ぐらいには多分なってる。200倍だ!あっ間違えた20倍だ……
そんなこんなで、今は三日おきにある傷の定期検診を受けているところだ。
「そうですか!これでもう動いていいんですね!」
「はい。2週間よく頑張りましたね!」
俺の目の前で柔和な笑みを浮かべているこの人は、タスケ・テラサカというお医者さんだ。
線の細い男性で、緑色の長い髪を後ろ手で縛っていて女性でいうおさげ長い版みたいな感じになっている。
目は糸目でいつも柔和な笑みを浮かべている。
俺がここに来てから、よくこれからの相談なんかをさせてもらっていて、穏やかで平和を好む聖人といった感じの性格をしている人だ。
「これもタスケ先生のお陰です。ありがとうございました!」
「いえいえ、私はただ傷を見ただけですので……」
謙遜しているが、嬉しいのは丸わかりである。
何故なら、先生の右手に巻きついている植物からピンク色の花が咲いているからだ。
というのも、先生の種族が草霊族というらしく、その種族の特徴として体の一部分から植物性の蔦のようなものが生えていて、感情が大きくなるとその蔦から魔力が花となって咲くらしい。
花の色は感情によって変わるが、俺が今確認しているのは嬉しいがピンク色ってぐらいだ。
因みに咲いた花は色によって様々な効能があるらしく、割と高値でやり取りされてるらしい。
「先生、また花が咲いてますよ」
花が咲いたことを先生に教えると、先生はゆっくりと自分の右手を見て、花の存在を確認する。
そして、ゆっくりとした動作でぽんと手を叩いた。
「おっと私とした事が……」
そう言って、懐から園芸用の鋏を取り出して花を丁寧に取り始めた。
ちょきんちょきんと花を切り取って、常備してるらしいタッパーに花を詰めていく。
俺はそんなマイペースな先生を見て、あれって痛くないのかなぁ……と思いながらゆっくりとお茶を啜るのだった。
ーー
「おい、こっちだレント!早く行くぞー」
「ちょっと待ってくれよ。すぐ行くから!」
俺が準備し終わるのを待ちきれずに、先に玄関先に向かったフレウが俺を急かしてくる。
まだ準備中だというのに……ほんとに子供みたいな奴だな。
確か俺よりも年上のはずなんだけどなあの鬼さんは。
そんなことを考えながら服を着替える。
ふと窓の外を見ると、今日も外はカリッとしたいい天気だとわかった。
そういえば、フレウと戦った時はめちゃくちゃ曇天だったなぁ……あれがデフォルトかと思ってたけど、普通にあの時が天気悪かっただけなんだな。
「下着よし、防具よし、靴よし、うん完璧だ!」
俺は鏡の前に映る冒険者が着るような革防具を着た男を確認してうんうんと頷いた。
前までの装備は剥ぎ取られたから全身鎧ではないが、正直言うとこっちの方が身軽に動けて俺は好きだ。
それに、10歳の頃冒険者として実践活動してたのを思い出してなんか初心に帰れる気がするし……
おっと、こんなことを考えている場合ではない。
なんてったって今日はフレウ、ルミさんと一緒にこの国を見て回ることになってるからな!
「どんな町なんだろうか……楽しみだな」
俺は少しウキウキしながらフレウのまつ玄関へ向かっていった。
「おい、遅いぞレント!妾を待たせられる男なぞそうそうおらんぞ?」
「すまんすまん。準備に手こずってな」
手を腰に当てて俺を待っていたフレウは、階段上から降りてくる俺を見て少し笑顔になった後、思い出したように怒りだした。
まぁでも、怒っても可愛いとしか思えんな。
それにしても、フレウが黒以外の服を着ているのは割と珍しいな?
フレウは今日、水色のワンピースに和服要素を織り交ぜたような、いわゆる和洋折衷といった服装をしている。
ゆるっとした黒線の魚と波線円の絵が描かれた水色の布地を、白に草花の柄の帯で蝶結びした服装。
うーん……説明が難しいな?取り敢えず水色でゆったりとした浴衣風ワンピースと思えばいいかな。
その隣には普段と変わらないメイド服を着たレミさんもいる。うん、いつも通り綺麗だ。
「随分おしゃれしてるなフレウ?レミさんもいつもどうり似合ってますね!」
「ふふん、そうじゃろうそうじゃろう!もっと褒めてよいぞ」
「ありがとうございます。」
そう言ってくるっと回るフレウはいつもより笑顔で可愛かった。おそらく褒められて嬉しいのだろう。レミさんも無表情ながら少し嬉しそうにお辞儀してくれた。
「褒めるのはいいけどフレウ、今日はなんか用事があるんだろ?急がなくていいのか?」
それを聞いて用事のことを思い出した様で、にこにこではしゃいでいたフレウは少しキリッとした表情になった。
なんだろうか?それ程までに大事な用事なのだろうか?
「そうじゃったそうじゃった。急がねば!」
フレウが俺の背中をぐっと押して急かしてくる。
俺的にはあと少しぐらいここで喋っても良かったが、まぁそろそろ潮時か……
フレウとレミさんが俺を待っている。
「じゃあ行こう!」
「おー!」
その俺の言葉に返ってくる返事に、少しの幸せを感じるのだった。
ーー
城を出て数分歩いた所にある城下町。
フレウの治める魔族領の中心とも言える場所だ。
「おっ、お兄さんこっちこっち!うちの商品見てかないかい?」
用事まではまだ少し時間があるらしく、さてどこに行こうかと皆で歩きながら話していると、ランニングみたいなラフな服装で、麦わら帽子をかぶったお姉さんが話しかけてきた。
気になってそちらを見てみると、建物の影にデカい布を敷いてありその上に商品が並べられている場所があった。
「露店か……冒険者の時以来だな」
俺は懐かしくなりそちらに行きそうになったが、今回は二人も居るので思いとどまる。
何も言わずに行動するのは、勇者の時いつも一人で行動していた弊害だな……思えばあの頃はいつも1人だった。
集団行動向いてないのかもなぁ俺……。
申し訳なくなったり、少し自信を失ったりしながら、行ってもいいか確認する為にフレウに目をやる。
「ふむ、行ってみたらどうじゃ?掘り出し物が見つかるかもしれんぞ!」
目を向けただけで言わんとする事がわかったのか、ひとつ返事でOKをくれた。
それに雰囲気から察するにフレウもワクワクしてるようだ。これはフレウも宝探しとか好きなタイプだな!
「おー!いらっしゃいお客さん、ほんとに来てくれるなんて!さ、見てって見てって!」
俺とフレウ、その後ろにレミさんという並びで露店に近づくと、お姉さんは感極まった様にすごいハイテンションでもてなしてくれる。
なんだろうか、売れてないんだろうか?
「お主、売れてないのかの?」
フレウも同じことを思ったようでお姉さんにそう問いかけた。それを聞くと、お姉さんは少し困った笑みを浮かべた。どうやら図星だったようだ。
「いやー、実は全然お客さんが来てくれなくってねぇ……ラザニアからこっちに来る時に路銀も尽きちゃって……いやー困った困った!」
「大変だな……」
もう笑うしかないといった様子のお姉さんに少し同情してしまう。何か買ってあげられたらいいのだが……
そう思い露店に並べられている商品を見る。
おそらく持ってるものを取り敢えず並べただけなのだろう、種類に統一性はなく一見してどれもいいものには見えなかった。
まぁ、これじゃあ売れないかぁ。
さすがにこれは何も買えないなと思っていたが......しかしそんな中、俺の目はひとつの指輪に目が止まった。
「……!これは付与宝具か?しかも火耐性か……いいものだな」
この指輪は汚れていて分かりにくいが、おそらく火銀という火の魔力が込められた銀鉱石を使って作られている。
鉄や金よりも溶けやすい銀に火の魔力がつくのはすごく珍しいもので、銀の元々の魔力伝導性能もあり非常に重宝される代物だ。
汚れ自体も少し拭く程度で綺麗になりそうな物だし、これは掘り出し物だな!
「あぁこれかい?これはね、旅の途中に戦って勝った男から貰ったんだよ。でも私指輪とかつけないからさー」
思わぬ宝に興奮して見ていると、お姉さんがこれについて説明してくれた。
大切なものとかだったら遠慮したけど、割と要らないものみたいだな。あとは値段か……
「これはどのくらいするんだ?」
俺がそう言うとお姉さんは一瞬呆けた後、にっと笑ってこう言った。
「そうだった。ノリで露天開いたから値段つけるの忘れてたわ!1000Gくらいでいいや!」
うわぁ……この人無計画すぎる……
1000て……冒険者の薬草取り位の値段じゃん。
ちょっといい店に行ったら一食で無くなるよ……
もう呆れを通り越して今までよく生きてたなと感動すら覚えるわ……
「1000は安すぎだぞ?それ妾が7万Gで買ってやろう」
俺が哀れみの目でお姉さんを見ていると、横からフレウが割り込んできた。顔から察するにおそらくフレウもお姉さんが可哀想になったんだろう。
「え?な、ななまん?!それマジでございますか?!」
慌てふためくお姉さん。フレウの顔を10度見ぐらいしている。少しおかしい敬語を使っていることから慌てていることがわかるだろう。
だが、それはまずい。ここで負ける訳にはいかないのだよ!
「じゃ、じゃあ7万Gで……」
「待ってくれ!俺は8万G出そう。俺に売ってくれ」
今にもフレウに払ってしまいそうなお姉さんに待ったをかけた。そして1万Gつり上げる。
因みにこれは別にハッタリとかではない。ちゃんと俺が持っているお金だ。
というのも、1度は身ぐるみを剥がされ文無しになった俺だったが、なんと作った造花が富裕層の間で人気になり割と高値で売れたそうで、今俺はしっかりとしたお金を持っているのだ。
「8万……!8万!8万あれば、えっと……1年生活出来る……!?」
いや、全然1年もたない。食費が一日1000Gとして、1年が10ヶ月、1ヶ月30日なので1日3食食べるとしても3ヶ月ももたない。
まぁそれは置いといて、フレウはこれでやめてくれるだろうか……財力勝負になったら勝ち目は絶対に無いぞ?
俺は財布の中にある20万を見ながらそう考えていた。
「じゃあ妾は9万出そうかな?」
「ふぇッ?!9万……!?」
ぐっ!やっぱり乗ってきたか……!
フレウは財布の中を見て苦しそうにしている俺に向かって、かかってこいとでも言う様にニヤッとした挑発的な目をしてきた。
……くそっ!やってやらァ!負けてられっかぁ!
「なら俺は10万だす!」
先程の9万という申し出で、アッパーを食らったようにフラフラとしているお姉さんにそう宣言した。
「10……10……!?10ってなんだ……?」
お姉さんは10という数字を正しく認識できないようだ。可哀想に……
だが、すまんなお姉さん。負ける訳には行かないんだよ!
身内でこんなことをするのは馬鹿なのかもしれないが、本当にこれだけは負けられないのだ。
俺たちは、その後も値段をつりあげ続けていった。
時に苦しく(主に財布)、時に涙し(主に俺)、お姉さんがぶっ倒れそうになりながらも俺は負けずに戦った。
そしてーー
「に、20万だ!20万だそう!頼む!」
「わぁーい。ほしすらいむがにひゃくたいかえるぅーおにいちゃんありがとぉ」
少し前から幼児退行してしまったお姉さんは見ずに、全財産をベットした俺はもう神に祈ることしか出来ない。
頼む……!頼む……!頼む……!
「……ふぅ。やめじゃやめ!妾の負けじゃ」
そう言ってフラフラと手を振ってみせたフレウ。
それはこの戦いの終わりを告げるものだった。
今なんて言ったんだ……?俺は勝ったのか……?
だが、あいつはまだ金をもってるはず…なのに何故?
「そりゃあお主さっき全財産20万と言っておったじゃないか。そこまでされたら流石に譲るしかないじゃろ…」
俺が困惑しているとフレウがそう説明してくれた。
俺また考えてた事が口に出てたのか……ていうか今フレウから返事がきたってことはさっきも漏れてたみたいだな……
俺は少し恥ずかしくなりながらも、勝ち取れた事に嬉しくなり自然と笑顔が溢れてきた。
「ありがとうフレウ。譲ってくれて助かった」
「……ふん。妾に感謝するのじゃな!」
ぷいっとそっぽを向くフレウ。
少し拗ねてる気がするが仕方ないだろう。最初は同情して買おうとしていると思っていたが、この指輪を巡って争っている時にフレウが本当に欲しいと思ってることが伝わってきたからな。
よし、さっさとお金を渡して買ってこよう!
「じゃあお姉さん。これ、20万」
ようやく正気に戻った満身創痍のお姉さんに20万を渡す。
お姉さんは20万を見てまた少しビクッとしたがしっかりと手で受け取った。
そして、何故かいきなり俺に抱きついて来た!?
え?いきなり抱きつかれた……?!ちょっ、胸当たる!あっヤバい!周囲の視線が痛い!
「ありがとー!ほんとにありがとおおおぉ!これで生きていけるよ!」
お姉さんはそう言って俺を思い切り抱きしめる。
感極まってるのだろう込められた力はどんどんと強くなっていき、ミシミシという異音が俺からしだした。
最初とは別の意味でヤバいと思った俺はお姉さんから逃げ出すことを試みる。
「わ、わかった。わかったから……!は、離してくれ、ちょっ力強……!」
なんだこの力!?元勇者である俺の力でも引き剥がせないとかどうなってんだ!?
あっヤバい。傷開いてきたかも……
「レミ!行け!レントを助けるのじゃ!」
だんだん顔が青くなっていく俺を見て流石にやばいと思ったのだろうフレウが助けを出してくれた。
だが、レミさんでいいのか?!レミさんが俺より力があるとは……
しかし、俺が疑問を持つよりも先にレミさんはいとも容易くお姉さんを引き剥がして見せた。
「ゴッホごっほ……死ぬかと思ったレミさんありがとう……」
床に崩れ落ちながらレミさんにお礼を言う。
情けないが、レミさんがいなかったら俺は女性の胸の中で死ぬという、特定の層に人気がありそうな惨めな死に方をしていただろう。
レミさんが俺より力があるという事実はとりあえず置いといて、今は生きている事を喜ぼう!
こうして俺は女性に抱きつかれ死にかけるという窮地から脱したのだった。
ーー
「ごめん……ほんとにごめん!力の加減を忘れちゃって……」
「いいよいいよ。こうして無事な訳だし!」
謝り倒してくるお姉さんに傷が無いことを見せて安心させる。ちょっと死にかけたが、お姉さんに泣き目になってまで謝られるのはこちらとしても居心地が悪い。
まだ少し痛いが、ここは男として笑顔で許す場面だろう!
「そ、そうか……!それなら良かったよ!私握力とか300ぐらいあるから骨折っちゃったかと思って……」
そう言って安堵の表情を浮かべたお姉さん。
泣き目の顔も割と可愛かったが、やっぱり女性は笑顔が1番であることがわかった。
ていうか、握力300……俺はよく生きていたな。
「そうだ、まだ名乗ってなかったけど私はリトって名前だから!よろしく!」
お姉さんは思い出したようにそう言った。
「リトって言うのか。俺はレントだ。宜しく」
「レント……レントだね!ラザニアに来たら案内してあげるね!」
そう言うとリトは露天から離れるまで俺たちに手を振って見送ってくれた。
俺は露天から少し離れると、フレウの方に向き直った。
何故かフレウは機嫌が悪くなっている。
まぁ多分俺が指輪を奪ってしまったからだろう。だがこれは仕方なかったんだ。
だって……
「フレウちょっといいか?」
「……なんじゃ色欲悪魔。」
「色欲悪魔て……まぁいい、お前に渡したいものがあるんだ」
俺はふくれ顔のフレウの手をとり、その指にさっきの指輪を嵌めた。
ここまでの道中で必死に拭いたから指輪の汚れはなくなっている。赤白い綺麗な光沢のシルバーリングがフレウの綺麗な指に映えていた。
「お主これ……」
「いや、助けて貰ったお礼が呼び捨てっていうのもな?だから今日何か買って渡そうと思ってたんだ」
サプライズが成功して大満足の俺はニコニコでフレウにそう説明した。
フレウが下を向いていて表情は見えないが、自分の指についたそれを大切そうに撫でている様子から嫌じゃないことはわかった。
うんうん。全財産を失ったのはデカい出費だが、喜んでもらえるならまぁいいや。
「さぁ、用事があるんだろ?行こうぜ!」
「……」
俺はフレウの手を引く。
いつもより少し熱くなっていた。
「……ありがとう。レント」
その小さな声は風にのまれて消えていった。




