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ロリ鬼魔王と落ちぶれ勇者 ──第1章︰人族の勇者編──  作者: 一人記


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第2話「造花とメイド」


「う〜ん……あれ?ここは……」


俺は目を覚ました。知らない天井だ。

えっと、何があったんだっけ?


俺は魔王に助けられてそれで……って、そうだ助けられたんだ!あの後……どうなったんだ?

現状の確認をしようと思い、起き上がろうとする。


「ぐッ!痛ッぁ……」


だが、傷口がまだ完全に治っていないようで、痛みで立ち上がることが出来なかった。


仕方なく、今まで寝ていた天蓋付きの豪華そうなベットの上で、上半身を起こして誰かが来るのを待つことにする。

周囲を見渡す。黒を基調にしたシックな家具が置かれた大変綺麗な部屋だ。


しかし、生活感がないという訳ではなく、本棚に入っている本達には付箋が沢山ついていたり、少し背の低い黒檀の机には、山になった資料など部屋の主が勤勉である事を示す様な物があった。


しばらく、考え事をして過ごす。

頭の中で今までの出来事が堂々巡りとなって回っている。


怒り、悲しみ、喪失。

様々な感情がない混ぜになるが、最後に浮かんでくるのは必ず魔王のあの慈愛に満ちた笑顔だった。


それと同時に自分の中から黒い自分が居なくなるのを感じた。何処までも助けてくれるんだな。


……本当に感謝してもしきれない。

そうして、しばらくぼーっとしていると、不意にガチャッとドアが開けられる。


「魔王?」


俺は思わず口にした。だが、どうやら違ったようだ。


「お起きになられたのですねご客人。今すぐ主人を連れてまいります。」


「あっすいません、ありがとうございます……」


現れた人は綺麗な女性であった。

いや、人というより魔族といったほうがいいのだろうか?


頭にはスッとした出で立ちの一本角が生えており、その角で分かれるようにして綺麗な蒼い髪が分けられている。髪の長さは肩下くらいまであり、何を考えてるか分からないしゅっとした蒼い目、綺麗な口元、服装は古風のメイド服。


そして何より目を引くのが大きな胸───何か悪寒を感じたので、俺はそれ以上考えるのをやめた。


まぁ、とにかく、すごい美人であるという事だ。


俺は、間違えて魔王と読んでしまったのでちょっと申し訳ない気持ちになりながら礼を言った。どうやら目的の魔王を連れてきてくれるらしい。

俺のすぐ近くの机にお茶を置くと、彼女は足早に部屋を出ていった。


「綺麗な人だな……」


口から考えてることが漏れた。

これは俺の昔からの癖であり、よくハルトマンに注意された。

それを思い出し、少し悲しくなる。


ハルトマンに言われた言葉。


『情けない姿だな。レント』

それを思い出し、俺は少しだけ憂鬱な気分になった。


生まれた時から俺の側仕えだった彼は、年上ながらも俺に親しく接してくれ、剣術ではライバルとして競い合った仲だった。

まぁ、体格差もあってハルトマンに一度たりとも勝ったことはなかったのだが……


そういえば、10歳になってから勇者として魔物を討伐して回ることになったから、それから戦ったことは無いな。

流石に今は俺の方が強いとは思うが、どうなのだろうか?

まぁ、今となっては何を考えても後の祭りなのだが。


バタンと勢いよく扉が開いた。

考え事の最中で驚いた俺は、そちらに慌てて視線を移した。

そこには、前見たのとは違う動きやすそうな薄手の服装に身を包んだ魔王の姿があった。


「おぉ起きたか人間!いきなり気を失ったから何事かと思ったぞ?」


そう言って俺にとたとたと近寄ってきた。

なんだこのかわいい生き物は。傍からでは本当に十歳ぐらいの少女にしか見えない。

......こんなのが魔王とか、祖国で教わってきたことは本当になんだったのだろう。


ほっこりとする感情と共に、祖国に対して黒い感情が湧き上がってくる。


だが、そんなことよりまずは感謝することが優先だろう。

俺は頭によぎったくだらない事を一旦忘れ、感謝の言葉を言うことにした。


「えっと、魔王。その、助けてくれてありがとう……ございます」


「あー別によいよ。妾が勝手にしたことじゃからな」


その感謝の言葉を一言で許してくれる魔王。

だが、ここで引く訳には行かない。何故ならばその前の罪も簡単に許してもらっているのだから、このままでは贖罪がなくなってしまう。


「だが、こちらとしては、助けて貰ってしかも家にまでお邪魔するのは……」


そうなのだ。

俺が今口にした通り、多分ここは魔王の部屋なのだ。


つまり、そんな所に寝かされているということは魔王は自室でゆっくりできていないだろうし仮に魔王部屋でないとしても、俺が少なくとも一部屋は占領してしまっているという事実がそこにはある。

しかも、女性の部屋に男を寝かせるというのは周りの目が痛いだろうし。これで変な噂がたってしまったら魔王に多大な迷惑が……」


「お主はまじめか!そんなことは別に気にしておらんわ!あと、口に出てるぞ人間!」


しまった、口に出ていた。またもや悪癖が発動した……

だが、引き下がれん!ここは何としても謝罪をして怒られなければ!


「いや、だが……」


「はぁー。お主割とめんどくさいやつじゃな?

ならば、こうしよう。妾に感謝の気持ちがあるならその魔王と呼ぶのはやめるのじゃ」


「え?魔王じゃないのか?」


あっまた口に出てしまった。疑問がポンポンと出ていってしまう。

そんなことを思っている俺を、こいつなんも知らないな可哀想……みたいな雰囲気がありありと浮かぶ顔で見る魔王。いや、魔王じゃないのか……?


「妾にはちゃんとフレウ・ファーレ・ライフォスという名前があるのじゃ。その魔王という呼び名は人族でしか使われてない故、フレウもしくはライフォス、またはフーちゃんとかで呼んでくれると嬉しいぞ?」


そうか、人族でしか使われてないのか……納得だな。

じゃあ改めてなんて呼ぼうか。

ライフォス……様?いや、少し硬いか?フレウさん、これか?これが一番いい気がする。よし!


「フレウさ……」

「ちなみに妾はフーちゃんと呼ばれたい」


「……フーちゃん、わかった。うん、うん……」


できる限り意にそわねば……できる限り……フーちゃん……フーちゃん。

初めてだわ女性のあだ名的なやつ呼ぶの……なんかめっちゃ緊張する……


俺が、ニヤニヤと笑っているフレウに気づくのはこのすぐあとのことだった。


ーー


「いやーすまんすまん!からかいがいがあってついな!」


「やめてくれ!ほんとに噛み砕くのに永遠の時間がかかるところだった!もう!」


俺は酷く憤慨していた。理由は、まぁ俺の経験の無さからくるものだったが、フレウさんに弄ばれた俺の心は恥ずかしさでいっぱいになっていた。


「えーと、一応最後に言うが、ほんとに呼び名を直すだけでいいのか?フレウさん。今なら何でもするぞ?」


俺は目の前で笑い死にそうになっている鬼を見ながら、最初の威厳はどこに行ってしまったのだろうかと思案した。

あの闘いの時に、剣と共に鞘にでも納めたのだろうか?不思議だ……


「うん、お願いは呼び名でいい!

ていうか普通に呼び捨てで"フレウ"で良いぞ!」


そのあっけらかんとした物言いに、思わずぽかんとしてしまう。


この鬼さまは、利というものを求めないのだろうか?

勇者であった自分でさえ恩義に対する多少の報酬は貰っていたのに、この鬼と来たら……呼び名?

何処までお人好しなのか……いや、鬼だからお鬼好しか?

全く分からない人だ……


「えっと、それじゃあ俺は……あとは何を返せば……」


俺は、呼び名を返したことで何をすれば分からなくなってしまった……

そんな俺を見て、ようやく笑い終わった彼女は告げる。


「んー、とりあえず傷を直せ!そのあとは知らん!自由にしろ!」


「えっ?」


びっくりした。まじでフレウさ……フレウ無頓着すぎる。

普通、助けたにしてももっとなんかあるだろう。

そのあとは知らんて……良い人なのはわかるが、知らんてすごいな……


はぁ、これまで20年生きてきたが、こんな人は初めてだ。

純粋と言うか、悪くいえば向う見ずというか……


唖然とする俺を見て、?を浮かべたフレウ。

だが、何かを閃いたように手をぽんと合わせた。

なんだろうか、もしかして俺が言いたい事がわかったのだろうか?

俺は少しほっとした。俺の中のフレウさん……フレウのイメージが純粋単細胞になってしまうところだった。良かった。


「そうか、お前仕事が欲しいのか!

何もする事がないと言うのはつまらないからな!うんうん。かんしん、かんしんじゃ!」


前言撤回、わかってなかった。いや、少し掠ってはいるが惜しい。すごく近くはあるがそれじゃあない!


もっと何か求めてくれ!もっとなんか......あるだろ!

俺は崩れそうになっている元の聖母並のフレウさんイメージを保つ為に、先の発言が間違いであってくれとフレウを見つめる。


「ふふん!そんなに見つめなくても、すぐに仕事を用意させよう!」


「いや、そういう訳では……」


現実は残酷だった。だが、これ以上は行かせない。まだ、純粋フレウで済んでいる。まだかすり傷だ。まだ、まだ……


「大丈夫だ!ちゃんと寝ててもできる内職だ!えっと、造花とか!」


ドカンといった音とともに俺の中のフレウ像が粉々に砕け散った。造花って......いや、造花はないだろ......?

俺は訳知り顔したフレウを黙って見つめる事しかできないのだった。



ーー


素早い手つきで針金を曲げて、花を形作っていく。

薔薇の形になった針金に、一つ一つ丁寧に魔紙という紙をつけて、それを魔力で鮮やかな花の質感へと変えた。

出来上がった薔薇は納得のいくもので、まるで生きてるかのように上に向かって綺麗な花びらを咲かせていた。


「うん、この仕事も板に付いてきたな」


俺は、俺に与えられた部屋のベットの上でウンウンと頷いた。


あの日フレウと話した時から、大体1週間が経った。

案の定あの部屋はフレウの部屋であり、一緒に寝てこようとしたフレウを引き剥がして別室を用意してもらった。

……いや、役得とかそんなことを考える暇はなかった。あの鬼寝相が悪すぎて俺の傷を抉ってくるのだ。


おかげであと5日で治ると言われていた傷が1週間になってしまった。


だからすぐに命の危機を感じて、部屋を貰ったのだ。

その時に、あの綺麗なメイドさん、レミさんにお姫様抱っこで運んでもらった時はまじでドキドキした。思わず惚れてしまいそうな程に大胆なお姫様抱っこだった。

特に胸が……おっと、悪寒が……


俺は邪念を振り払い作業に集中する。

1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個……

「100個……ふぅ、ノルマ達成だなぁ」


このノルマというのは、俺が自分で勝手に作ったものだ。納品するのは、1日30個程でいいと言われている。

だが、これしかすることがないので、自分を高める為目標を設定したのだ。


ちなみにこの作業、1個1個の花びらを生きているように見せるのに恐ろしく魔力を使う。


最初は魔力量が足らず、1日10個ぐらいしか作れなかったが、それは昔の話。今ではざらに100個作るようになっている。

思えばめちゃくちゃ成長したな。単純計算魔力量10倍か……


子供の頃魔力量を上げるために馬鹿みたいに魔法を使ったのが馬鹿みたいだな。馬鹿の二乗だ。

しかも、魔力で花を模倣するのに凄まじい集中力がいるので、自然と魔力操作も異常なほど綺麗になった。

俺は、昔に魔法関係はてんでダメだと言われていたから練習することはあまり無かったが、魔力動かすの割と楽しいし、これからは魔法も学んでみようかな?



「ふー……今日も良い出来だ」


出来上がった美しい薔薇を見ながらふぅと一息つく。

ある程度それを眺めていたが、それも次第に飽きて天井を見つめてぼーっとする。

だが、少しぼーっとしているだけで、途端にかつて勇者であった時の記憶がフラッシュバックして自らの顔が歪むのを感じた。


「……」


祖国で教わってきた、魔王がやったという残虐非道な数々の行為。国を一個滅ぼしただの、捕らえた人族を拷問にかけているだの、バカみたいな話の羅列。


そんな事を祖国の全員が信じていたし、俺も信じていた。

それが常識だったのだ。何も疑わずに、ただ盲目に信じていた。

黒いモノが心に湧き上がってくるのを感じる……


「……よし。」


俺は、気を紛らわすようにまた造花を作り始めた。

集中して作りながら、思う。

本当はわかっているのだ。この造花というのも、俺が狂わないように、祖国の事を少しでも忘れられるように俺に任せてくれたのだ。


俺は仕事をしていると、フレウの役に立っていると自分に言い聞かせながらも、助けられている現状に甘えてしまっているのだ。


……いや、違うな。フレウはそこまで考えていない。全て俺の思い込みだ。

俺はそんな事を考えてしまう自分が嫌で、より一層造花作成に精を出した。


そんなことを数時間程していると、コンコンと扉がノックされる。ちゃんとノックするってことはレミさんだな。

俺は今感じていた暗い気持ちを外に出さないように、ひとつ深く深呼吸して、レミさんを招き入れた。


「どうぞ」


「失礼します。夕食をお持ちしました」


部屋に入ってきたレミさんは手に持っていたご飯を俺の前に置いてくれた。

やっぱりメイドさんってすごいな。

片手でお盆を持ちながらドア開けて入ってくるもんなぁ。バランス感覚どうなってんだ。


「ありがとうございますレミさん。あっ、あと造花出来たので持って行って貰っても大丈夫ですか?」


今日の食事はカーリィーか……

横にあるこの薄べったいパンのようなやつは確か、ナンだったな。

ここに来てから聞いた話だが、数年前に幻の異国ニホンから来たという料理人が広めたとか何とか……


うん、いつもながらいいものを使っている。このカーリィーに入っている肉なんか、レジェンドカウの肉だな。

こんなの王宮でも食ったことないわ。


「了解しました。……いつ見ても素晴らしい御手前ですね。感服します」


俺が毎日の楽しみである食事に手をつけていると、レミさんが表情のない顔でそんなことを言った。


この人美人なんだが、表情を顔に出すのが極端に苦手らしい。いつも食事を持って来る時に見てたら何となくわかった。

だが、それではせっかくの美人が楽しめないと思い、俺はこの1週間猛特訓をしたのだ!


……結果!今ではなんとなくだが、本当になんとなくだが感情が読み取れるようになってきた!

これは大きな成果だ。褒められるべきだろう!

俺は、特訓の成果によりレミさんが本当に感嘆しているという事実を確認すると、なんだか嬉しくなりもっとレミさんと話すことにした。

話すと感情を読み取る練習になるからな!


「そうですか?そう言っていただけるとありがたいです。なんたって一生懸命作りましたからね!」


俺はふんすといった具合で力こぶを作った。

ふむ、筋力が衰えてるかと思っていたが、思ったほどじゃなかったな。割とちゃんと力こぶあったわ。


「あぁ……そうですか。それはご苦労様です。」


おぉ……!楽しそうだ。今日はなんかいいことでもあったのかな?いつもより言葉が多いな!

滅多にない機会だ。よし、もっと話すかー!


それからレミさんが造花を確認している間、俺は他愛もないことを色々と話した。

本当に他愛もない話だった。天気が良いとか、今日のご飯はすごく美味しかっただとか……

だが、そうして話していると、なんと、驚くべきことが起こったのだ!


「ふふっ……」


俺はそれを見て、手に持っていたフォークを皿に取り落とした。カランカランという音が鳴る。


「……?。どうされました?」


なん……だと?

笑っている……?あのレミさんが……笑っている?

俺はさっきの笑顔を思い出すようにまじまじとレミさんを眺めていた。


「えっと……では、確認終わったので失礼します!」


その空気にいたたまれなくなったのか、足早にかけて行ってしまった。


あぁ……何も言えんかった……

それにしてもあの笑顔、綺麗だった……

こうして俺は、その後もレミさんによく話しかけるようになったのだった。


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