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ロリ鬼魔王と落ちぶれ勇者 ──第1章︰人族の勇者編──  作者: 一人記


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第12話「歴史」





「……」





宙がみえる。




綺麗な、満点の夜空だ。





それが、俺の身体を包み込むように流れていて、ぷかぷかとゆりかごのように揺れている。





「(あぁ、きれいだ。

俺は、いつからこんな綺麗な星を眺めていたんだっけ)」





四肢を投げ出した身体は、動かない。




動かそうとしても空を眺めるばかりで……

あぁ、きっと、この美しい星々に魅了されてしまったのだろう。



───だから俺は、そのまま静かに目を瞑って、今感じていた満足感にも似た感傷に浸る事にした。




『───!───るぞ!完りょ───だ!』




……遠くで、設置班の所員たちが叫んでいた。



どうやら設置が完了したらしい。



良かった。



対岸だ。



あれなら襲われない。







───なら、俺はこのままでも大丈夫だな。






「……」





目を瞑る中で音が聞こえる。



横薙ぎから、うねる様な波の波動を感じた。




だから、その感覚的にくる水面の揺れに、

俺は自分の死期を悟りながらも、それを静かに受け入れるようにして身体に力を入れる事もせず笑った。




だって。

こんな星空を見たのは久しぶりだったから。

アレグバドルの西海岸で見た、母との思いでの旅が最期だろうか。懐かしかったのだ。




このまま死んでもいいか、と、思えるぐらいには。


俺がやってきた、全ての業に焼かれるにしては、幸せな死に方だな……と。









すぐ隣まで迫っていた水龍の大口を、開いた瞳と凪いだ心でただ眺めて───







「ッッッ、ぷはぁっつぁぁぁあッ!?

おおおぉいッ、オマエぇええッ、レントさんから離れろおおおぉぉぉッッッッッッ!!???!!!」


───そして。

その有り得ない光景を見て、直ぐさま意識が覚醒した。


……ハルキくん?


なんで?

どうして君がここに……ッて、はッ?!


おいおいおいおいおい!?!??

ほんとに、え?!!なんでッ!!!!??


「っ、おおおおぉおおあっ!!!

ぼくが相手だぞ龍っ?!!!!こっち見ろぉおお!!!」


「は、き……くん……ッ!!

おま、え……!!なんで、なんできたッ?!??」


水面下から現れた半裸のハルキくんが愛用の盾で水龍をぶん殴っている。この湖は広いから外周を辿ると間に合わなかったのだろう。


恐らくは俺が流されていた対岸まで一直線で泳いできたのか、履いていたズボンがずぶ濡れで……ってそんな事を気にしている場合じゃない!


『───ᧁꪗꪖꪖꪖꪖꫝ! ꪗꪮꪊ ꠸ᦔ꠸ꪮꪻ??!!!』


怒ったように叫ぶ水龍の攻撃を、何とか俺の光魔法『閃光フラッシュ』で目潰しして逸らしながら岸に掴まる。

そして、そんな俺を見て慌てた様子で肩を貸しながらハルキ君も共に湖の外へと抜け出した。


しかし、龍はそんな隙を見逃してくれる相手ではない。


俺たちが岸から離れようとしているのを見て、

龍は水面から首をもたげて俺たちに『水の光線』を放とうと画策していて……!!!?


「……う、撃ち方ようい!!!撃て、ですッ!!!!」


『ッッッッッ!!!?

……ᧁꪗꪖꪖꪖꪖꫝᦓᦓᦓᦓᦓᦓᦓᦓ!?!??』


───だが。

そんな水龍の顔面の真横から、対大型魔物用の大魔法の様な威力をした鉄弾が飛来しぶち当たった。


……凄まじく痛そうである。

『え?は?そっちから飛んでくることある!?』みたいな目で此方と撃たれた方を見回しては、驚愕したような顔で水龍は固まっていた。


「レ、レントさぁーーーーん、助けに来たですよッ!

にゃーたちが来たからには、もう大丈夫ですっ!あなたを死なせませんっ!!!」


にゃーちゃんだった。

水龍が驚愕の表情で見た先……。

そこには、研究所の『機構部』所員たちを後ろに従えて魔力の砲台を構えさせた、にゃーちゃん達の姿があったのだ……!


「はるきく、ん……なんで、戻ってきた……!

俺は、にゃー、ちゃんと、にげろっ、て……!!!」


俺に肩を貸して歩くハルキくん。

その真剣な横顔を睨みつけながら、俺は何故自分に従わなかったのか、と苦言を呈した。


だって、そりゃあそうだ。


こんな、戦場のど真ん中に子どもを連れて戻ってくるなんて……どうかしている。


それに、龍相手の勝ち目のない撤退戦で、犠牲を買って出た殿を助けるために戻ってくるのは───どちらにとっても、利にならない行為だ。


「俺は、逃げろって、いっただろう……!?

ランク上の、冒険者の決定に……したがって……!逃げるのが、君の───」


「……ッ、だってッ!!!

僕は、もう、失いたくなかったからッッ!!!!」


耳がキーンとする。

肩を持たれて、強引に歩いているせいか、体制的にハルキくんの声がよく響いて頭が真っ白になった。


「僕は幼い頃、両親をワイバーンの群れに襲われて無くしてるんですッ……!村はワイバーンの炎によって焼かれ、家はその巨体で押し潰されましたッ!村から逃げ仰せられたのは、僕と妹だけでしたッ!!!」


突然の出来事で頭の回転が早くなっているのだろう。

矢継ぎ早に出てくる言葉に、俺は合間を挟む間もなく、静かに聞くしかなかった。


「両親は、倒壊した家の下敷きになって、動けませんでしたッ!僕は、逃げろ、と言われましたッ!妹を連れて、逃げろと!!!」


───景色が、フラッシュバックする。


俺が戦地で何度も見てきた光景だ。

進行する自軍の兵士に怯える魔族領に住む村人たち。


互いの軍が攻勢する中で、瓦礫に挟まれて泣いている子供たち。全部、全部みたことがあった。





「……でも、逃げたことを、後から後悔したッ!!!

僕は、村から逃げ出した街道の真ん中で、妹に泣きすがられて後悔したんですッ……!!!!」





「『おにいちゃん、お父さんとお母さんを、助けて』って───!!!!僕は、両親の言いなりになって自分と妹の大切なものを、見捨てたんだってッ!!!後悔したッ!!!」



……目から涙を、額から汗を流すハルキくんの表情。

それを見て俺はハルキ君の原点を理解して、何も言い返せなくなった。


あぁ、そうか。


『大切な人を護りたい、失いたくない』


それが、ハルキ君の騎士職としての使命なんだ。



そんな自己犠牲の究極とも言える精神が、俺は騎士職にとって最も大切な感情であると知っていた。



「そうか……でも、それと俺は……違うだろ。

俺は、君の大切な人じゃ、ない……。俺なんて、こうして恨まれて、殺されるような、人間で……」



「ッ、そんな事、言わないで下さいよ……!

レントさん、貴方は───ッ危ないッ?!!!」



ドパンッ───!!!


しかしそんな時だった。

龍の一撃が俺の傍を一直線に崩壊させる。


『水の光線』よりも威力の高められた一撃だった。


……その攻撃を、ハルキくんが盾で逸らすように受け止めた。


そして……


「ごふっ……!?」



その脇腹から、恐らく動けないであろう程の、血が溢れ出して俺の身体を濡らしたのだ。


「ッ、ハルキさん!?」「はるき、くッ……!?」


ばたりと、俺の体が地面に倒れる。

ハルキくんが蹲ったせいだ。致命傷の攻撃を受けて、動けなくなってしまったのだろう。


「所、所長ッ、お願い、お願いしますッ……!

レントさんを、ハルキさんを助けてあげて下さいッ!!!あんなの、ダメです、ダメですよッ!?」


「……」


「くっ……レントさん、逃げて……ッ!」


にゃーちゃんと所員さん達が騒いでいる。


その声も聞こえないのだろう。集中しているのだ。


ハルキくんは、血を垂れ流しながらも、何とか立ち上がろうとして真剣な瞳で龍と俺だけを見ていた。


片膝をつきながらも。

脇腹が貫かれて痛いだろうに、よろよろと立ち上がろうとするハルキ君……。







「ぐっ、あっ、龍……!僕が……!」








その姿を見て、俺は───。







「僕が、相手……だ……!こっちに……!」

















……俺は。



とても、とても、自分が情けなくなった。












「……お、ぃッ───!龍ぅあああああぅぁうッ!!!!」





「こっち、だああぁあ、っッ!!!

あああぁああああああぁ!!俺と、戦えぇッ…!!!!」




限界突破リミットブースト》を再使用する。


これは、俺の生命力を削る行為だ。


問題ない。


元々、死ぬ命だったのだ。


元々、死ぬ運命だったのだ。





だから───






「俺はぁッぁぁあ、まだぁッ!!!

ッ、んで、ないぞッ!!!?龍ぅう゛うぁあうッ───!!!?!!!」





俺が生きれる限界まで───

いや、限界のその先まで、ハルキくんの姿を見て、言葉を聞いて……足掻いてみようと思ったのだ。


「っ、レントさんッ、それは……!?」


だから、残った魔力と気力の全てを込めて───!


「うぉああああああああああああああッ!!!!

ああ゛あ゛あ゛あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"あああああ゛ぁぁぅああああぁぁあッッッッ!!!!!」


『ꫀꪻꪗꪮꪀꪖꪀ꠸ᦓꪮ、᥅ꫀᦓꪖᦓꪊᧁꪖꪀ꠸ᦓ꠸ꪀꪊッ!!!!yaッ───!???』


いや、その、俺の魂の根源にある、何かまで込めてッ!!!


死にかけても、必死に掴んで離していなかった剣に、必死に練り上げた力を纏わせてッ───!!!










『パンッッッッッ───!!!!』


「へ?」『───!』











……そして。


俺がその決死の一撃を放とうとする直前。



「……はい、そこまでだよ。

レント君も龍ちゃんも、戦いは終了。お疲れ様。

互いに死力を尽くした良いバトルだったよ……見せてくれてありがとう」



───大きな音を鳴らす空砲を、何故か空へ撃ち鳴らしたリエルサさんの言葉によって。



場はしんと静まり返ったのだ。



「……は?えっと……終了……?

リエルサさん、いったい何を……?」


『んーーーーー、っぶなぁぁぁあ!!!?

もういいんじゃな?!我、もういいんじゃよな!!?戦わんでいいんじゃよな、もうッ!???』


…… しかし、次の瞬間。

そんな俺の真っ当な困惑を切り裂くように、はぁぁぁああ!と息を吐く音が聞こえる。


……俺の背後からだ。

リエルサさんに問いかける為に後ろを振り向いていたので、必然的にそこに居るのは彼だけである。


その事実に俺は凄まじく嫌な予感を背筋から感じながら、恐る恐る後ろを振り向く。


だって確か、そこに居たのは……!!!


『おいしょっ───と!

はー、何とか死なんですんだ……まさかこんなに生き足掻かれるとは……もう勇者なんぞとは一生戦いたくないわッ!

……なんか後ろからは砲台で殴られるし!!!散々じゃ、ホント!!!」


そこに居たのは龍ではなく『人』だった。

いや、というかスラっとした体型の、眉目秀麗な美しい女性に目の前の龍が変身したのだ。


……いやいや嘘だろ?

何が起こっている……龍が人に変身した?

いや、元々人だったのか……?


先程の水龍の特徴である、歪な『魔力発動体ツノ』を頭部に携えた、長髪を編み込んで横に流している女性。


「というか、貴様も貴様じゃッ!

あんな、誰も彼も死ぬような致命の一撃を最後の最後に放とうとして来おって!!!

怖いわッ!流石に怖いわ龍でもあの一撃はのッ?!!!」


そんな女性が俺の肩を叩いてくるのを唖然と眺めて、俺は思わず困惑して───って、あ死ぬ。内臓吐くもう死ぬもう死ぬっ?!

もう身体支えられな───!


「……っと危ない危ない。そういえば回復忘れてたね。

はい、これ《上級回復薬ハイヒールポーション》。即効性はそんなに無いけど飲めば多分大丈夫だから。死なないように全部飲んでおいてね。レント君」


「あ、え……ごふっごふっ……(ごくごく)」


手に持たされて喉に流し込まれる液体。

光魔法の最上位である『上位治癒ハイヒール』の魔法が込められた魔力水の苦味を味わい、咳き込む。


「ほら、ハルキ君も。色々と巻き込んでごめんね。

君用にも用意しておいたから、半分ぐらい脇腹にかけて後は飲んで使ってね。それで死なないから」


「えっと……ありがとうございます?

……けど、これは一体、どういう……?」


その『どういう』というハルキ君の言葉には、この場にいる全ての人の意見を代表するような様々な事柄を含んだ意図が詰まっていたのだろう。当然だ。


正直、俺も気になっていたし、背後から駆け寄ってきていたにゃーちゃんと機構部の皆様方もリエルサさんの顔を伺っているようだった。


するとそんな視線を受けて、リエルサさんは少し申し訳なさそうな笑みを浮かべて此方に答えとなる言葉を吐き出したのだ。


「……どういう、かい。

それはつまり、この現状についてって事だよね。

簡単な話さ。実は、この龍討伐の依頼自体が『レント君の人となりを見る試験』だったって話だよ」


「試験……ですか?」


「そう。レントくん、君がこの国において害をなす存在なのか、それともこの国を支えてくれる存在なのか。

それをテストする為の……ね。分かるだろう?元勇者としてこの国と関わってきた、他でもない君ならば」


なるほど……。

それを聞いて俺は納得した。


敵対している他国の主戦力が、そのままはいそうですか、と移民を認められる訳もないのだ。


つまり最初から最後まで仕組まれていて、シャルロッタさんが領主であるフレウの家にやってきて俺に依頼を持ちかけてきた時点で、俺に害意があるかの監視兼視察が始まっていた。そういう話しだったのだ。


「という事は……ほんとはレントさんを殺す気はなかったんですか!?村の話とか、全部嘘っ……!?」


「いや、それについては本当だよ。

故郷の話も本当だし、気に食わないようなら殺してくれて構わない、とは言われてたからね。

……復讐ってほどじゃないけど、やっぱり勇者であるレント君に思う所は多少あったよ。私でも」


「えっと……それは、本当にすみません。

全て、俺の責任です。国の命令を疑いもせず……」


しかし、そんな俺の謝罪を遮るようにリエルサさんはピっと指を立てて見せつけてきた。


「いやいや、もう終わった事だし、私も納得してるし……今更そんなこと言うものじゃないよ。

全てが全て一人の責任である事柄なんて存在しないんだから。色々な人が、色々な思惑を持って行動した結果、こうなったってだけだよ。

少なくとも、私はそう思うし。それに……」


そして、そう呟いてから。

リエルサさんは少しだけ眉を下げて、困ったような控えめな笑顔で笑って俺を見つめて……。


「私の大切なにゃーにも、怒られてしまったからね。

『復讐で人を殺す所長リエルサさんなんて嫌だ』って……ここまで言われてしまったら、もう、君を恨めないよ。私は」


そう呟いて『ごめんね』と、にゃーちゃんの頭を撫でるリエルサさんの表情は優しさに溢れたものだった。

彼女の手を握って涙目になっている少女の、実母ではないだろうが……母代わりなのだろう。


「だから、試験は合格だ。

君の人を護ろうとする覚悟と歩んできた歴史───その両方を見せて貰ったからね。文句なしで認めるよ。

勇者として、君は、魔族を殺して、全てを壊してきたんだろう。

けれどそればかりではないと、私には今日はっきりと分かったから。君の自らを犠牲とする事を厭わない、自己犠牲の精神のお陰でね……」


───それにね、レント君。


そうして、ぽんと肩を叩かれた俺の隣りには、同じく満身創痍で戦ったハルキ君の姿があった。


そして、そんな鎧も壊れた盾も身体も血塗れのハルキくんが、そんなリエルサさんの目線と言葉を聞いてぐっと口を噤んで……。




「あの……」





「その……レントさんッ……!」





───そして、何か勇気を振り絞るような様子で。







「僕、ぼくは、あなたにっ……貴方に憧れて……ッ!」







───その、噤んでいた言葉を、口を。









「ッ……あの時、僕と妹を助けてくれたッ、あなたに憧れて───!!!」






……目の前の、元勇者であった、俺に対して。






「貴方のような、人を護れるような人になりたいと思ったから───、だからっ───!!!!」














「───ありがとう、ございました……!

勇者として、僕の大切な人であってくれて……!!!ありがとう……ッ……ござ……ッ……!」




泣きながら、語ってくれていたのだ。




ーー



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