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ロリ鬼魔王と落ちぶれ勇者 ──第1章︰人族の勇者編──  作者: 一人記


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第11話「罪と踊る」


───龍の口が光り輝く。


そして、次の瞬間、水中を揺らすようなびりびりとした衝撃が湖中一面に走ったかと思うと、その衝撃の中から一本の光線が撃ち放たれ周囲を一薙ぎにしてしまう。


魔法はイメージが大切だ。

きっと、あの水龍の中での水魔法のイメージは、『全てを切断する、光り輝く水の放出』なのだろう。

湖岸の岩が切断されるそんな光景を頭の片隅で捉えながら、俺は咄嗟に回避行動をとっていた。


『᥅꠸ꪀꪀꪀꪀᧁꪊ───!』


───完全に怒り狂ってるな。

幾ら牽制であろうと、その自らの龍としての一撃を俺に回避されて、強者としての矜恃が傷ついているんだろう。


龍はそれだけ高い知能と気高い気質をもった生き物だからな。

だからこそ、厄介であり、狡猾であり、一筋縄ではいかないと昔から危険視されている魔物なのだ。


『ッ───!』


俺はそんな水龍に向けて、剣を差し向けその先端に光魔法を収束させて光線を撃ち放つ。

これは、かの水底にいる水龍の様な、『歪なイメージの水魔法による擬似の光線』などではない。

本物の光魔法によって周囲にある散らばった光を収束させて作る、本物の『聖光線ホーリーレイ』である。

唯一光魔法の中で俺が得意と言える、遠距離攻撃の選択肢の中の一つだ。魔力消費はデカいが、使えなくはない。


『ᧁꪗꪖ-ᦓ ᥅ꪊꪊꪊꪊꪊꪊ───!!!!』


そして。

命中した『聖光線ホーリーレイ』を見て、俺は思わず顔を顰めた。


……削れていない。

普通の魔物であれば体組織を貫き、骨をえぐるほどの威力がある魔法であるにも関わらず、水龍の身体には痣が残るばかりで決定打になるような致命傷は与えられて居なかったのだ。


『(……これは危険度の見通しが甘かったかもしれない。

Bランクでも上位の魔物、いや、もしかしたらAに片足を突っ込んでいるぐらいあるか。恐ろしいな……)』


自らの対峙している魔物の底知れなさに、背筋が凍るような感覚を覚える。


水底で首を掲げうなりを上げているかの龍は、恐らくひとたびダンジョンの外に出現すればトップ冒険者に討伐依頼が来てしまうほどの相手だろう。

これは、確かにハルキくんの言うように、一人で戦うような相手ではない。


『ᧁꪊ᥅ꫀꫀꫀꫀꫀꫀꫀ……!』


暗い水底に、輝く二つの黄色い瞳。

その強い圧迫感のある殺意の籠った瞳が、逃がさないぞとでもいうかのように俺を見つめている。


そんな瞳に見つめられて、思う。


あぁ、なんでこんな事になったんだろう。

勝てる見込みがない。死にたくない。

ここから、今すぐにでも逃げ出してしまいたい。



頭の中でそんな感情が巡り巡っては消え、体温を奪うのと同様に俺の冷静さを奪い去っていく。



『(しかし……だからこそ、逃げれられないな。

だって、ここで逃げたら、あいつと合わせる顔がない。

あぁ、本当に恨むぞ、俺。出来ることならば、最後にもう一度……)』






















あの、フレウの屈託のない笑顔に、微笑まれて。


暖かい心で臨みたかったと思う。












『《肉体活性リジェネ・レート》《聖属性付与ホーリー・エンチャント》《気力纏きりょくまとい》《脳率強化ブレインレート》《鎧通よろいどおし》《闘気抜剣レイズブレイド》《金剛堅牢フルビルドアップ》《俊敏闊歩アクセルステップ》《精神統制マインドネス》《雷撃迅刃スライドスラッシュ》《癒光祝福グレイスブレイス》《聖域鱗盾ホーリーシールド》《闘志昂揚ブレイブハート》《限界突破リミットブースト》《火耐性フレイムベイト》《地耐性アースロック》《雷耐性ライデンフェード》《聖光耐性ルミナスヴェール》《闇耐性シャドウバランス》《毒耐性ヴェノムメイク》《呪耐性カースガード》《精神耐性マインドウォール》───』



これまでの人生で覚えてきたこと。

勇者時代に培って、何度も反復してきた身体強化系の魔法、闘気法を全て詠唱する。


……ちらりと、水面を見やる。


設置班が慌ただしく動き回っている。

どうやら、装置の設置はまもなく完了しそうだ。

動力源である魔力稼働部に複数人で魔力を注ぎ込み、後は魔力操作の計算段階まで来ている所だった。


『なら、稼ぐ時間は後数分でいいな……!?

じゃああとはもう、俺はこのまま……今まで犯してしまった罪と、共に眠るだけだッ───!!!』


罪は消えない。過去は消えない。

誰かに救われて、改心して、姿を改めようとした所でそれまでやってきた過去が全て消えるわけではない。


───寧ろ、それは今までよりも重くのしかかって、自らの心を潰そうと自分を追いかけてくるのだろう。


……ならばこそ、今。

これから、俺のやるべきことは何か?


『今ここで、少しでも誰かの命を救って、俺の手によって消えてしまった彼らの命を無駄にしないような生き方をすることだけだッッ……!!!!』


これから、復讐の炎が、俺の身を焼くのだろう。


リエルサさんの家族を殺したように、俺の歴史が、俺の身体をぐちゃぐちゃにして、俺のことを殺すのだろう。


『それがなんだ、自らのやったことが、そのまま自らの身に帰って来るだけだッ!』



俺は、救われたんだ!

俺は、助けられたんだ!


フレウに、レミさんに、タスケ先生に、ダンバルに、シャルロッタさんにッ!



ならば、この助けられた命を!


俺は、誰かを助けるために有効に使って、死ぬんだ!!!




『それが、遅いか早いかの……違いだッ───!!!』




───俺はそう叫んでから。


───龍に思い切り剣を突きつけて。




『ᧁꪗꪖꪮꪮꪮꪮꪮꪮꪮꪮꪮꪮꪮꪮ───!!!!』



……その巨大な身体へと、何も考えず、肉薄したのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「はあっ、はぁっ……!」



手を引いて走っていた。


鼠獣人である小さな少女、にゃーちゃんの手を引いて、訳も分からずにただ洞窟の出口へと走っていた。



「は、ハルキさっ、ハルキさんっ……!

にゃーたち、私たちは、これからどうなるんですかっ……!?レントさん達は、お姉ちゃんは、一体っ……?」


「っ……わ、分からない。

僕にも、分からないんだっ……!」



やってきた青く光る昆虫。

それを、何とか盾で押し潰し、壁に叩きつけながらにゃーちゃんの言葉に返事をする。


そう、分からない。


分からないのだ。


「レントさんに言われて、無我夢中で、なにも分からずに走り出してっ……!もしかすれば、あの場に、僕がいればレントさんは助かったかも知れないのに、僕は怖くて、言われたままに動くしか、できなくて……!!!」


涙目になりながら、やってくる昆虫を押し潰す。


いま、僕は何をしているのだろう。

手を引いている少女に、自らの罪を懺悔するように泣き喚いて、震える声で魔物と戦って出口を目指している。


……ここに来るまで、幾度となく助けられた、冒険者の先輩を置いて?


あぁ、僕は、いったい、なんで走っているんだ……!?あぁ、あぁっ!?!?


ブンと盾を振り回す。

頭に湧き上がってくる罪悪感ととてつもない後悔を振り払うように、必死になって飛び掛ってくる魔物を潰して、殴って、壁に打ち付けて、殺す。殺す、殺す。


「はぁ……!はぁっ……!」


そうして気がつけば、僕の体は、昆虫の魔物の血と肉で塗れていて、とても近寄りがたく、汚れていて。

何度も、乱暴に使用した愛用の盾は、昆虫のその緑色の液体を垂らして不快そうにてらついているのだった。


「は、ハルキさん……。にゃー、私……」


後ろに庇っているにゃーちゃんの手が震えている。

迫り来る魔物に覚えているのだろうか。それとも、僕に怯えているのだろうか。

もう、それすらも分からない。


───しかし、あぁ、そういえば、そうだ。


思えば、あの時も、

こんな風に走って逃げ出していたんだった。


『お母さん!お父さんッ!にげよう、逃げようよッ!』


……思い出すのは、故郷の村が魔物の群れに襲われた幼少の頃の記憶だ。


『いいや、もう私たちはだめだ。

ハルキ……良いかい? 妹を連れて、街の方へ逃げなさい。そうすれば、きっと、お前たちは助かる。』


『でも、でもッ……!』


『でもじゃないんだ!ハルキッ!

お前は、妹を助けるために、ここで逃げなきゃ行けないんだ!早く行きなさい!早くッ───!』


ワイバーンの群れの襲撃だった。

どうしようもなかった。

両親は、瓦礫の山に身体を覆われて、抜け出すことができなかった。


『う、あ。わ、わあぁ、ああぁああああッ!!!!』


僕は両親を見捨てて走った。

言われるがまま、妹の手を引いて。


……仕方がなかった。


あぁしなければ、皆、死んでいたから。



「あの、ハルキさんっ……私、わたしっ……!」


───手を引く少女の姿が、妹と重なる。


小さな手だ。震えている。


この歳では戦闘もしたことがないだろうに、こんな場所に駆り出されて……怖いだろうに、ちゃんと僕の後ろに着いてきてくれている。


利口な子だ。

妹と同じ、黄色い瞳だ。


「大丈夫、大丈夫……大丈夫だから……!

僕が、絶対、連れて帰るからっ……!僕が、僕がっ……!」


「違うんですッ!ハルキさんッ!

私、助けたいんですッ!所長を、レントさんをッ!!」







『お兄ちゃん、わたし……ッ!

お母さんと、お父さんをッ───!』








手を引く妹が、強引に僕を振り払った。


そして、その背に見える、一匹のワイバーンの姿。





『ッ、レイナッ、逃げッ───!?』






その記憶を思い出してはっとした。





僕は───








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