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ロリ鬼魔王と落ちぶれ勇者 ──第1章︰人族の勇者編──  作者: 一人記


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プロローグ「決戦と喪失」

字下げあった方が良いか意見募集中。気軽にどうぞ



「よく来たな人間よ!妾は嬉しいぞ?」


魔王城の最上階。

雷雲轟くこの場所で、魔族の王ライフォスと人族の勇者と呼ばれる男レントは相対していた。


最上階は吹きさらしになっておりライフォスの治める広大な土地が一望できるようになっている。

落下防止と侵入者防止のためか禍々しい槍状をした紫色の柵が周囲を覆っている。


「はん!嬉しいだって?

なにを言ってやがる、俺はお前を倒しに来たんだ!

舐めるなよ、魔王!」


無造作だが綺麗なブラウン色の髪に爽やかな顔、だがそれに似合わないほどの眼光で、男は目の前の未だ幼い少女に見える彼女にそう吐き捨てる。


「残念じゃなぁ……お主とはじっくり話したいと思っておったのだが、どうやらお主、妾と話す気は無いようじゃな?」


少女は腰まで来る黒髪に目の上ほどで切り揃えられた前髪、ぱっちりとしたつり目には赤い瞳が妖しく据わっている。


服装は黒地に朱色と紫の桜が散る様子が描かれた、なんとも美しい振り袖の着物を着ていた。

だが、1番の外見的特徴としては、その頭部に生えている二本の綺麗な角だろう。


少女はその美しい顔を残念そうに歪め、仕方がないとばかりに腰に差している刀に手を掛けた。


「ようやく戦う気になったか!この長きに渡る戦争、決着をつけさせてもらうぞ!『ホーリーウェポン』ッ!」


そう叫び少女に向かって走り出すレント。

その手には、今までその影すら無かったはずの白く光り輝く剣が携えてあった。

その刀身は、白金を百年間もの間、神域(サンクチュアリ)の魔力に馴染ませなければ出来ないと言われている白剛鉱石(ライトタイト)という鉱石で作られており、世界に三つと無い代物であることが伺える。


だが、迫ってくるレントに対して、その場を動かない少女。


瞬く間にその距離は縮まっていき、ついに剣の間合いへと入った。


「喰らえッ!『ライトニングスラッシュ』ッ!」


レントの剣から雷鳴が迸る。その速度は音を置き去りにするほど速く、そして強烈だった。


(捉えたッ!この一撃で仕留める!)


レントの思う通り、確実にその剣は少女の首を捉えていた。


……だが、次の瞬間。


「グッ!がハッ……!」


凄まじい衝撃と共に吹っ飛んでいくレントの姿があった。

その衝撃は恐ろしく、レントが身につけている鎧、伝説の名匠タクミ・コノエが創った白金の鎧を易々と打ち砕き、その下の身体にまで深く傷をつけていた。


その原因は言わずもがな少女であり、いつの間にか抜いた薄紫色の美しい刀は、もう既に納刀し終わる所であった。


「もう終わりか?若いなぁ人間よ」


少女はかかっと笑うと、下駄をカツンとカツンと鳴らしながらレントに近寄っていく。

そして、満身創痍のレントを、小さな体からは想像もできないほど軽々と担ぎあげた。


「妾に勝つにはちょいと早かったようじゃの?

……じゃが、安心せい。殺しはせんよ。

なんたって妾はいつでもうぇるかむじゃからの?いつでも来てくれていいぞ!って聞こえておらんか……」


そう言うと、少女はレントを担いだまま呪文を唱え始める。

その文言は転移魔術と呼ばれるものであり、対象を別の場所へ瞬間的に移動させるという効果がある。


だが、この魔術はおよそ1人で行使するものではなく、本来ならば熟練の魔術師が百人がかりで行うものである。


その転移魔術を、さも当然のようにひとり鼻歌を歌うかの如く行使するその姿……


それを見るだけでも、少女の圧倒的な魔力量や圧倒的な魔力操作の腕が伺いしれた。


少女は転移の魔術が完成すると、担いだレントと共に魔王城を後にする。


そして、魔王城には一時の静寂のみが残るのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



聖王国アレグバドル。人族が信仰している神治教の総本山で、教皇アルミラド・シャルグ・アレグバドルが治める国である。

その王宮、王座のある部屋に突然少女は現れた。


「おい、人族の王。お前の大事な人柱を返しにきてやったぞ?有り難く思え」


レントと相対している時とは違い、恐ろしく冷酷な表情でそう告げる少女。

いきなり少女が現れた事により、場は騒然となる。


だが、その少女の圧倒的な風格で動ける者は限られていた。


「!!!これはこれは魔王よ。

いきなりおいでとは礼儀がなってないな?」


そんな中、教皇アルミラド・シャルグ・アレグバドルは立ち上がる。

その顔は笑みを浮かべてはいるが引きつったものであり、余裕がないことは丸分かりであった。


しかし、その教皇の言葉で何とか気を取り直したのか周りに控えていた近衛兵達が動き出し、少女を取り囲んだ。


「ふん。なんだお主ら。悪いが妾はお主らと戦う気など毛頭ないのでな。そのおもてなし、すまんが断らせてもらうぞ」


そう言ってレントをゆっくりと地面に下ろすと、周囲を取り囲む近衛兵達が武器を構えるのをものともせずに転移の呪文を唱え始めた。


「逃がすな!殺せ!」


教皇がそう叫ぶ。それを合図として襲いかかる近衛兵達だったが、少女は呪文を唱えながら踊る様にその攻撃を全て避けてみせた。


「くそっ!役立たずめが!」


呪文が完成し消えゆく少女に、教皇は杖を構え魔法を放つ。それは無詠唱ながらも凄まじい威力を伴った光魔法だった。


光の槍が少女に触れる。


凄まじい光が発せられ、目をつぶる近衛兵達。

そして、近衛兵達が次に目を開けた時、その場には少女の姿は無かった。


それを見て、魔王を倒したと沸き立つ近衛兵達だったが……


そんな中、教皇はぷるぷると震え口を開く。


「あの糞ガキがッ!」


体面を気にせずに、怒りを露わにする教皇。

その口からは、次々と少女に対する罵声が溢れ出ていく。


近衛兵達は今まで見た事もないような教皇の姿に困惑するが……しかし、教皇が荒ぶってしまうのも仕方ないと言えるだろう。


何故ならば教皇が最後に見たものは、笑顔で中指をたてる少女の姿であったのだから。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




少女が去った後、聖王国アレグバドルでは、勇者レントが魔王に負けたという話題で持ち切りになっていた。


「レントよ。何か言うことがあるか?」


「何も……ございません」


王座に座る教皇を前にこうべを垂れるレントの声は、絶望一色といった様子であった。


しかし、それもその筈である。今回のこの闘いは、人族と魔族の30年続く戦争に終止符を打つものだったからだ。

レントは、魔王と戦う為に生まれたと言っても過言では無い。

今年で20となるレントは生まれた時から勇者として育てられてきたのだ。


だが、それも今日までのこと。


何故ならば、勇者として魔王と戦ったにもかかわらず負けて、よもや情けをかけられ殺されず、王宮への侵入を許したとあっては、勇者としての信用はもうないも同然であるからだ。


実の父である教皇は、息子だったものを冷酷な目で睨む。


そして告げる。


「もう用済みだな。……ハルトマン。これの身ぐるみを剥いで禁域に捨てこい」


「はっ!分かりました」


それを聞き怯え、ただ俯く事しかできずにいるレントから、ホーリーウェポン、白金の鎧、その他の神器や勇者の資金等を剥ぎ取っていく。


そして、ハルトマンと言われた男は肌着のみになったレントを縛り上げ肩に担いだ。

その担ぎ方はずさんなものであり、一応は塞がっていた傷が再び開いてしまい、傷口から血がだらだらとたれ始める。


(あぁ、あの魔王は割と気を使ってくれてたんだなぁ……)


親友であったハルトマンの自分に対する扱いを直視したくないのか、そんなことを考えて現実逃避するレント。


そんな、ぐったりとしたレントを連れて、ハルトマンは禁域へと歩を進めるのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あぁ、これからどうなってしまうんだろう。

俺はハルトマンに担がれながらそんなことを考えていた。


……いや、どうなるかはわかっているのだ。

だが、その事実を受け入れたくないばかりにそんなくだらない事ばかり考えてしまう。


そんなふうに現実逃避していると、不意に地面に叩きつけられる。


「ゔっ……」


乱雑に置かれた事により傷口が痛み、思わず口から声が漏れた。


どうやら着いてしまったらしい。


人族の誰もが近寄らない場所、禁域。


ここは聖王国アレグバドルと魔族領の間にある森であり、その危険な生態系と単純に戦争状態の魔族領との間という場所である事から、禁域と呼ばれ恐れられている所だ。


俺が魔王城へ行った時も、ここは通らず迂回して山を越えて行ったのを覚えている。

勇者である俺が勝てない程強い魔物が出てくるからまぁ当然だろう。あぁ、そういえばもう勇者じゃなかった……。


痛みを紛らわす為にくだらないことを考える。


「ぐっ……」


……はぁ、こんな状況になってもまだ助かるかもしれないと思ってしまっていた。


俺は、なんて馬鹿なやつなんだろうか……


冷酷な目で俺を見るかつての親友を見て、そう思った。


「情けない姿だな、レント」


俺を見下しながらハルトマンはそう呟く。


「ハル……俺…」


「喋るな。耳が腐る」


ははっ、酷い言われようだ。

長年生きてきてこんなこと言われたのは初めてだよ。


ハルトマンは倒れている俺を横目に、懐からごそごそと何かを取り出す。


そして、懐から取り出したそれを、俺の近くに投げてよこした。


「お前は元勇者だろう?ならば、潔くそれで逝ね」


そう言うと、きびつを返して去っていった。


「……」


俺の手元には今、ハルトマンが置いていった一本のナイフがある。

もしかしたら、ハルトマンなりの最後の情けなのだろうか?


傷は開いてしまったし、もう動く気力もない。

血の匂いのせいで、もうじき魔物が来るだろう。


ならば、このまま魔物の餌になるより、自分で死んだ方が……


「……」


俺は、ナイフを見る。


それは鋭く、俺の首なんてスっと切ってしまえるだろう。

すぐに死んでしまえるだろう。


震える手で、首にナイフを持っていく。


刃はカタカタと震え、触れた首筋からツーと一筋の血が垂れた。


「……うわぁぁぁぁあッ!」


思い切り首を掻っ切ろうとして、ナイフを投げ捨てる。


くそっクソっ!


畜生、ちくしょう!ちくしょう!


なんで、なんでこんな……死にたくない死にたくない死にたくない!


目の前が涙で霞む。


「助けてくれ……あぁ……嫌だぁ!死にたくない!誰かぁ!」


森の中に声がこだまする。


声は帰ってこない。


生まれてきて、勇者として育てられて、こんな仕打ちって……


今まで見てきたものが、信じてきた国が、俺の中の全てが崩れていく。


「ガァァァァァァァァァア!」


近くで咆哮が聞こえた。


あぁ、死ぬ。死ぬんだ。

頭の中で今までの記憶が湧いては消えていく。


「グキャァァア!」


目の前に現れた黒い猪の様なそれは、その大きな牙で俺を喰らおうとする。

牙は着実に俺に近づき、俺は怖くなり目をつぶった。


そんな中で、何故か俺は1人の少女を思い出していた。

俺の標的。俺は彼女を殺すために育てられてきた。


そんな彼女を一番最後に思い出してしまうのはなんという皮肉なのだろうか?


『よく来たな人間よ。妾は嬉しいぞ?』


記憶の中にある、彼女が俺に笑いかける。

あぁ、ごめんなさい。殺そうとして、助けてもらったのに、ここまでみたいだ。


『妾はいつでもうぇるかむじゃからの?いつでも来てくれていいぞ!』


すまない。もう行けそうにないんだ……ごめん。


何かが俺の目の前まで来ているのがわかった。おそらく魔物の口だろう。


それは、ゆっくりと俺の顔の側まで近づき、そして……


そして……俺をぎゅっと抱き上げた。


「お主、せっかく助けてやったのに……もう死にかけてるのか?」


聞いたことのある声がした。


それはさっきまで記憶の中で聞いていた声だった。


でも、なんで……俺は……


「……おーい?聞いておるのか?人間?」


涙で目が霞む。


だが、それはさっきまでとは違う涙だった。


暖かな感触。全てを失った筈の俺を、助けてくれる小さな、だが、大きく暖かい手。


「なんで……?なんで、殺そうとした俺を……」


今も、俺をなぜかぎゅっとしていてくれる魔王に対して、そんな疑問が口から零れた。


「ん?いや、助けてって言っておったろう?

それに、お主は悪い奴ではないし……」


突然の質問に戸惑ったのか、どぎまぎとした様子でそう答える魔王。


その魔王なんて思えないかわいらしい様子に、自分は何をしていたのだろうという気になる。


「それに、妾は言ったであろう?いつでも来ていいって……

死んでしまってはもう来れないではないか!そんなのは許さんぞ!」


これが……魔王……?


……あぁ、ほんとに。俺は何のために……


「おい?聞いておるの……泣いてるのか?お前?」


「うっ……うぅ……」


「えっと、ごめんな?怒って悪かった!

怒ってない、許すから!だから、何も泣かんでも!

ほら、落ち着け〜!」


その小さな手で、子供をあやすかのように背中をポンポンと叩かれた。


「違うんだ……君のせいじゃない。俺が、俺が悪いんだ。

ごめん、ごめんなさい……」


俺が……俺の存在は、意味がない……勇者はじんぞくだけのものだ。意味は……俺の生きる意味はなかったんだ。


こんな優しい少女が、父に教えられた様なことをする筈がない。


俺は、無実の少女を殺そうとした……犯罪者だ。



……だが、そんな俺を、彼女は助けてくれた。



何の躊躇いもなしに、助けてと言っただけで。



俺は、彼女に贖罪しなければならない。

なのに、なのに……


「だから、もういいって。許したと言っておろう!」


なんでそんなに簡単に……


こんなんじゃ折れてしまうではないか。


こんなんじゃ、返せないじゃないか。


「全く、近頃の若者は思い込みが激しくていかん。もっと気楽に生きろー?」


そう言って、彼女は俺に笑いかけた。


それは記憶の中にある、出会った時の妖艶なものよりも美しくはないが……何処までも優しく、慈愛に満ち溢れていて。


そんな彼女の笑顔を見ていると、いつの間にか安心して眠ってしまったのだった。




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