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善意の輪

 むかし、むかし、あるところに稼ぎの少ない若い大工が住んでいました。

 ある日のこと、町での大工仕事の帰り道、肩に道具箱を担ぎ、人影のない道をとぼとぼ歩いていました。 日が暮れかけ、雪も降り始め、男は足を早めました。

 すると、行く手に人力車が溝にはまっているのがふと目に入り、夕闇の中でも困っている様子が一目でわかりました。

 そして人力車を引き上げようとしている若者そばに、老婦人が一人、ぼう然と立っていました。

 男は駆け寄り、人力車の引き上げに手を貸し、二人がかりでやっと引き上げることができました。

「助かりました。ありがとうございます。」若者が言い、再び人力車を引こうとしましたが、思うように引けず、片方の車輪が車体から外れかけているようでした。

 大工は道具箱からかなずちとくぎを取り出すと、車の下にもぐり込み、どうにか、人力車は直りました。

 修理を終え、かなずちを道具箱に片付けていると、人力車に乗っていた老婦人が声をかけました。

「今日は母の命日で、お墓参りに村に行ってきました。ご覧の通り、帰り道に人力車が溝にはまってしまいました。いかほど差し上げればよろしいでしょうか。」

 男はお金をもらうつもりなどさらさらなく、困っている人をただ助けたかっただけです。

「もしそのようなお気持ちがおありなら、時々私のことを思い出してください。そして、今度困っている人に出会ったら、親切にしてあげてください。善意の輪をつなげて下さい。」と男は言い、二人を見送りました。

 それからすこし離れた茶屋の前で、老婦人はなにか暖かいものを食べようと思い車を止めさせました。

 老婦人が座ると、粗末な着物を身に着けた若い女の人がやって来て、乾いた手ぬぐいを差し出しました。女の人は老婦人に微笑みました。

「どうぞこの手ぬぐいで髪を拭いて下さい。外はとても寒かったでしょう。火の近くで体を温めて下さい。」 「何とやさしい子なんだろう。」老婦人は思い、そして女の人が出産間近で、さほど裕福ではないと思い、ふと大工が言った言葉を思いだしました。

 老婦人は、軽い食事を済ませ、女の人にお金を渡すと、お釣りを取りに行っている間にこっそり抜け出しました。

 女の人がお釣りを持って戻ってくると、お客はもうどこにもいません。どこに行ったのかな、と思いましたが、すぐ食台の紙切れとお金に気づきました。紙切れにはこう書いてありました。

 ここへ来る途中、ある人に助けられ、お礼をしようとしたところ、

「もしそのようなお気持ちがおありなら、時々私のことを思い出してください。そして、今度困っている人に出会ったら、親切にしてあげてください。善意の輪をつなげて下さい。」と言われました。このお金はあなたのものです。使ってください。おつりもあなたにあげます。

 女の人は、老婦人の気持ちに感謝し、これから出会う人に親切にしようと決め、こうして善意の輪は広がり続けたのでした。

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