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鎌池(かまいけ)

 むかし、むかし、ある山に、ひとりのたいへん美しいお姫さまが、すんでおったそうな。

 いつもは、山のふもとの大きな岩の上にこしをおろして、炭焼き小屋から聞こえてくる笛の音を、じっと聞いては楽しそうにしておられたが、空が晴れて月のかがやくばんになると、なぜか、月をながめてはためいきをつき、さびしそうな顔をされるんだと。

 炭焼き小屋には、たいへん気のやさしい若者がひとりいて、近くの木をきっては炭を焼いておったそうな。

 若者は、村一番といわれる笛上手で、いそがしい仕事のあい間に、月をながめては笛をふき、岩のところへ行っては、さびしいお姫さまの心をなぐさめておったと。

 ある月のきれいな夜のこと、お姫さまは、いつもよりもっとさびしそうにして、岩にこしをおろしておられたそうな。

 顔色は青ざめて、ときどき大きなためいきをつかれる。若者は、いつものように笛をふいてなぐさめるけど、姫はこの夜にかぎって、少しも喜ばれなんだと。

「姫さま、どうしたのですか。今にも泣き出しそうな顔をして。わたしにわけを話してください。わたしにできることなら、なんでもしますから。」

 若者がどう言っても、どうにもならないことだといって、お姫さまは、たださめざめと泣くばかりだったと。だんだん夜もふけてきたので、若者はしかたなく、

「姫さま、今夜はだいぶおそくなったので、これでおいとまさせていただきます。またあしたあいましょうね。」

 と、帰ろうとしたら、お姫さまは、立とうともせずに、

「待って。悲しいけれど、たぶん今夜かぎりでお別れです。」

 そういって、またまた泣かれたと。

「なんとまた、どうして急にそんなことをおっしゃるのです。姫さま、いつまでもここにいて、わたしの笛を聞いてください。」

 そしたら、お姫さまは、泣きながらこんなうちあけ話をされたそうな。

「ほんとうのことを話しましょう。実はわたし、この山にむかしからすんでいる大蛇なのです。今年はちょうど天へ帰らなければならない年に当たっていて、あすの夜がいよいよ帰る時なのです。それで、帰るころになるとこの山一帯に嵐が起こり、あたり一面どろの海になるはずです。あなたがこの炭焼き小屋にいると死んでしまいます。わたしはお友だちになったあなたを、見殺しにすることはできません。どうか、夜明けを待って、山をおりてください。やがてまた、美しい笛の音の聞ける日がくるのを待っています。けれども、この話はけっしてだれにも言わないでください。もし話すと、あなたの命はなくなります。」

 それだけ言うと、お姫さまのすがたは、だんだん山の中へ消えていったんだと。

 さて、若者は、この話を聞いてあまりのおそろしさに、こしもぬけんばかりにうろたえて村へにげ帰った。

 そして、思いなやんだあげく、村じゅうの人にこの話をしてしもうたんだと。村人たちもびっくりして、何かよい考えはなかろうかと、みんなで相談をしたそうな。

「むかしから、大蛇は鎌が大きらいだと聞いておる。今すぐ村じゅうの鎌を集めて、山へ登ろう。」

 と長老がいったので、村じゅうの鎌を残らず集めて山に登り、お姫さまがいたという山をめがけて、ソレ、ソレ、ソレ、ソレ、と、力いっぱい投げつけた。

 すると、今まで晴れていた空が黒雲につつまれ、ものすごい地ひびきをたてて山がくずれ、大雨になったと。

 どろ水は大きなうずをまき、あたりの大木は、バリバリッとうずの中にたおれこんでいったそうな。きもをつぶした村人はあわてふためき、命からがら村へにげ帰ったと。

 次の朝、夕べのものすごかったことを思い出し、ゆめでなかったかと、村じゅう総出で山へ登ってみた。

 するとまあどうだろう。きのう、鎌を投げたあたりが、満々と水をたたえた一面の大きな池になっておったと。

 恩人の若者のすがたはどこをさがしても見当たらなかったそうな。

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