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大きな木と娘

 むかし、むかし、ある所に、貧しい娘さんとおばあさんが住んでいました。

 娘さんは幼いときに両親を亡くし、朝早くから、夜遅くまで長者さんの家で働いていて、夕飯を毎晩そこでいただき、残りを少しおばあさんに持って帰りました。

 ある雨の日、娘さんは家に帰る途中、大きな木の下で雨宿りをすると、その木が娘さんにささやきました。

「娘さん、とても働き者ですね。よく聞きなさい。私は三日後に、領主のめいで木こりにきられて、三ヵ月後大きな船になり海に運ばれます。」

「まあ、かわいそう。」

「しかし、海に入れてるとき、私は決して動きません。たくさんの人が困るでしょうから、あなたが出ていって、『船よ、動け。いっち、にい、さん。』と言いなさい。私は、ゆっくりと海に出て行きます。領主から褒美が沢山もらえるでしょう。」と木が言いました。

 大きな木は、三日後本当にきられ、三ヵ月後大きな船になりました。

 船を海に入れる日になり、大勢の人が船を海に出そうとしましたが、どんなに一生懸命、何人がかりで押しても、船はびくともしなかったので、領主からお触れが出されました。

『船を海に押し出したものに、褒美を取らせる。』と。

 娘さんが申し出ると、みんなが笑って、こう言いました。

「船を動かせるって。大勢の男でも動かないのに。」

「船が動くなら誰でもよい。」と領主が言いました。

 大勢の人が見ている中、娘さんは船のへさきに立つと、大声で「船よ、動け。いっち、にい、さん。」と言いました。

 何と、船が少しずつ動き出し、海の上に浮かんだではありませんか。

「何と不思議な娘だ。」みんなが、領主も含めて、声を上げました。

「私は、決して不思議ではありません。ただ木が言ったんです・・・」娘は静かに言いました。

「約束どおり、褒美を取らせよう。何が望みだ。遠慮なく言いなさい。」

「私には、六十歳のおばあさんが家におります。貧しくて、米や着物を買うお金がありません。」

「そうか。」と領主。

 次の日、領主は、たくさんの米と着物を、娘さんの家に送り、それから娘さんは、おばあさんと幸せに暮らしたとさ。

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