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おにのめん

 むかし、むかしそれはそれはまずしい一家がおりました。

 そのあたり一帯はほかの土地よりもずっとずっと貧しかったのですが、なおいっそう貧しい一家でありました。

 それでそこの一番上の娘は、小さいうちに、遠い町のある家に働きに出されましたが、働き先のお上さんという人は、へそ曲がりの意地悪で、何かというとこの娘にあたったり、冷たくするような人でしたので、娘は何かあるごとに随分と泣いて暮らしておりました。

 なんどもなんども家を恋しく思い、まだ来てまもないというのに、早く時間がすぎないかと、娘はいつも心待ちにしてすごしておりました。

 そんなある日、娘は町に使いに出された折に、沢山のお面を並べて売っている面売りのそばを通りかかりました。

 娘はかわいいのやらおかしいのやら強そうなのやらの色々なお面を見て、つかの間楽しんでいましたが、ふととても懐かしい見覚えのあるお面のあることに気がついて、思わず持っていたお金で、そのお面を買い求めたのです。

 それはいつも自分達をやさしく気遣ってくれていたおっかさんの顔によく似たお面だったのです。

 それからは娘は寝場所の押入れの奥に、そのお面を風呂敷に包んで、大事にかくしてもっておき、お上さんにしかられたり、訳もわからず怒鳴られたり、またちょっとでもうれしいことや面白いことを見たり聞いたりした時には、必ず寝場所の押入れをあけてお面を出し、おっかさんに向かって話をするように、お面に向かって話をするようになりました。

 しばらくして、お上さんは娘が、何かあるごとに自分の寝場所に駆け込んでいるのに気がつき、娘の押入れをあけてアレコレもの探しをしてみました。

 すると、角のほうから、こ汚い風呂敷に包んだ小さな中年の女のお面が出てきました。

「ははぁ。。この面をおっかさんだと思って、怒られた時は愚痴を言いにきていたんだ。」と、すぐに娘をいじめることを思いつき、急いで恐ろしい形相の鬼の面を買い、それを娘の風呂敷に包んで、押入れに突っ込んで置きました。

 案の定娘は散々に怒られた後、いつものように押入れを開け、お面を取り出し、おっかさんに慰めてもらおうとしたのに、風呂敷を開いたら恐ろしい顔でこちらをにらんでいる鬼のお面が出てきたので、腰をぬかさんばかりにびっくりしました。

 そして、これはきっとおっかさんの身に何か良からぬことが起こったに違いないと思い、お上さんのところに駆け込んで、自分はどうにも家に戻らないわけにはいかない事情ができたので、どうかほんのしばらくの間だけでも家に戻してもらいたい、その代わり盆も暮れも戻らずに働くから、と泣いて家に戻してくれるように頼みました。

 お上さんは最初はこの忙しいのに何をバカなことをいっている、と取り合わなかったのですが、いまさら自分がお面をすり替えたとはいいづらくなって、それではできる限り早く戻ってくることを約束させて、一旦家に戻すことに承知いたしました。

 それでも乗り物もないような山道を、懸命に走っていって、行くに三日、戻るに三日かかるところです。娘の足ではもっとかかってしまいます。

 それで娘は危険を承知で、もっとも近い道ではあるけれど、とても険しくてさびしい山道を行くことを選びました。

 でもやっぱりなかなか思うようには進むことができず、右も左も分からないくらいに夜がふける頃でもまださびしい山の中にいるようになってしまいました。

 娘は山の中で明かりのあるのを見つけ、そうだ今夜はあそこで夜明かしをさせてもらおうと、急いで走っていきました。

 灯のあるところは、沢山の大人の男達がいて、みんなで博打をうっていました。

 娘はその近くへ寄って、ことの事情を話し、一晩の宿をお願いすると、男の一人が、ちょうどよかった、明かりが消えそうになるたびに、博打を休んで火をおこさなければならなかったので、灯を消さないように、一晩火を炊いていてくれ、と言いました。

 娘は喜んでせっせと火をおこし、周りを赤々と照らすことに一生懸命になりました。もともと生真面目な娘でしたので、灯は今までよりももっと明るくひるまのようになり、男達は喜んでますます博打に熱中しはじめました。

 ところが、火のそばにいた娘は、火が強くなればなるほど、顔はひりひり、髪もちりちりして、たまったものではなかったので、ふと思いついて、鬼のお面をかぶり、熱さを避けて火おこしを続けていました。

 ふと男の一人が娘のほうを向いて、あっと大声をあげ、急に真っ暗な山道に飛び出していきました。それを見て、ほかの男達も娘のほうを見ますと、火の向こうに、恐ろしい形相の鬼が、まるで自分達を焼き殺そうとするかのようにせっせと火をくべ続けているではありませんか。

 みないっせいに恐ろしさのあまり、なにもかもうちすてて、我先にと山を駆け下りていってしまいました。

 やがて夜が明け始める頃、娘はそろそろ出かけたいと言いに行こうとして、皆のところへ行ってみたのですが、博打場には誰一人おらず、その中にはかけていた沢山のお金も置いたままになっていました。

「あれっ?まぁ!これはどうしたことだろう。だ~れもいないうえに・・この沢山のお金は・・!?」

 娘は散らばっていた御金を集めてもっていた風呂敷に包みましたが、まだまだ包みきれず、そばにあった沢山の着物をひろげ、その中にも御金を入れて、自分でもてるだけのにもつをつくりました。

 そして一生懸命家路を急ぎ、やっと家にたどり着きました。

 幸いおっかさんには何事もなく、ずっと先だと思っていた娘が、思いがけずに沢山のお金や着物を持って、突然戻ってきたものですから、一家はたいそう喜んで、家も新しくし、着るものにも困らず、それからは皆でなかよく幸せに暮らしたということです。

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