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ヴァンパイアキング、コンビニでバイトする  作者: 山口三


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宏樹さん? 


 キングが言っていたコーラの記憶の事を考えながら俺はバイト先のコンビニへ向かった。


 ゲームの中のキングがAIだとしたらどうだ? ゲーム機はネットに常時接続されてるから、そこから色々と学習してたとか。なんかそんな映画あったよな・・。それで自分の世界=ゲームの世界だと気づいてそこから出てきてしまったとか。随分SFな話になってきたな・・。でもどうやって実体化したんだ?


 考え事をしながらいつの間にか事務所の前まで来ていた俺は中から話声がするのに気付いて我に返った。


(あれ、今入っちゃまずい?)――まぁでもこれからバイトなんだから仕方ないよな。


「おはようございます~」


 ドアを開けるとオーナーはいつもの場所、PCが置いてあるデスクの前に座っていたが、その他に50代位の男性と女性、大学生のバイトのA君が椅子に座っていた。


 制服に着替えてタイムカードを押し、すぐ売り場に出て行った。今日はA君とコンビのはずだったがAは売り場に出てこない。


 まさか俺一人じゃないよね・・そう思っているとオーナーが出てきた。


「五十嵐君さ、ちょっとだけ一人で頑張っててくれるかな? 混んで来たら呼び出し押して」


 コンビニのポスレジには事務所にいる人を呼び出すボタンが付いている。店頭のレジと連動している事務所のPCは呼び出しボタンが押されるとけたたましい音を立てるのだ。


 少しすると事務所に居た3人が売り場を通って帰って行った。帰り際、Aは俺の方を見て気まずそうな表情をしていた。一緒に居た二人はご両親なのだろうか?


 まもなくオーナーが売り場に出てきた。


「いやぁ参ったよ」

「どうしたんですか?」


「五十嵐君はAと一緒に働いてたから言うけど、ここだけの話にしてくれよ」

「はい」

「Aは辞めて貰う事にしたよ」


「何かあったんですか?」

「あいつさぁ、五十嵐君じゃない大学生と組んでる時、事務所でマンガ雑誌読んだり居眠りしたりしてたんだよ。アイスコーヒー用の氷に持って来た飲み物入れて飲みながらマンガ読んだりとか、やりたい放題でさ」


「はぁ・・」確かにAは俺と組んでる時も「だりぃ」が口癖で仕事も真面目にやってなかったもんな。


「しかもさ、タバコを持ち出して友達の学生に安く売りさばいてたんだよ。今回の棚卸でタバコが何十個も合わなくて問い詰めたら白状したよ」


「どうしてAだって分かったんです?」


「レジ金も合わない事が多くてね。この間は7万も合わなくて防犯カメラの映像を見たらAがレジからお金を抜く所がはっきり映ってたよ。で、タバコの件も問いただしたんだよねぇ」


「うわぁ、7万ですか!?」

「ご両親からは全額返済させるから警察沙汰にはしないで欲しいと頼まれてさぁ。ったくロクでもないやつだよな」


「A君と組んでたC君は・・?」

「あいつはお金取ったりとかはしてないみたいだから、とりあえずはアイスコーヒーの氷代を払わせたよ」

「Aが抜けた所をまたバイト募集しないとだな」


 オーナーはうんざりした様子でゴミの片付けを始めた。





_____




 バイトから帰宅すると居間は暗く人気が無かった。まあ2時だもんな、キングもう寝てるよな。


 俺もあくびを噛み殺しながら2階に上がるとキングの部屋から人の声が聞こえてきた。ん? まだ起きてたのか・・。


 そう思いながらキングの部屋に近づくと・・・・。


 声は二人分だった。キングと会話してるのは明らかに女性だった。そして会話というよりは声。

 女性の喘ぎ声だった。


 うわぁぁぁぁあいつ、女を連れ込んでんのか?! 居候の身で俺が働いてる間に女とよろしくやってるなんて・・なんて・・羨ましい! くそう!


 俺の部屋はキングの隣だ。バイトで疲れて眠いが、隣の部屋からはベッドがギシギシいう音や女の声がはっきり聞こえてくる。


「くっそう~~~寝られん」俺は仕方なく毛布を抱えて階下に降り、ソファに横になった。





 クスクス笑いの声で俺は目を覚ました。目を開けるとキングが上から見下ろしている。


「なぜこんな所で寝ている?」

「なぜって・・」


 俺はムラムラと怒りが込み上げてくるのを感じた。なぜってそりゃお前が・・。


 だが口を開きかけた時キングの後ろにXYZマートのお姉さんが立っているのが目に入って来た。


「宏樹さん、私達のせいかもよ。ごめんね、弟さん」お姉さんはちょっと照れ笑いをしながら俺に謝った。


 はぁ? 弟さんだって。いつから俺はキングの弟になったんだ。てか宏樹さんて誰だよ?


「じゃ、私帰るわね」お姉さんは上目遣いでキングに言った。

「もう帰るのか? 2階で昨日の続きを・・」

「やだぁ、宏樹さんたら弟さんの前で。私、今日は仕事だから帰って着替えないと」


 キングはお姉さんの腰に腕を回して抱き寄せている。くぁぁぁ朝っぱらから俺の目の前で、何いちゃついてんだよ!


「俺は自分の部屋で寝直してくる」俺は毛布を丸めて抱え2階へ退散した。




 ひと眠りしてから階下に降りて行くとキングは上機嫌でコーヒーを飲みながら庭を眺めていた。


「なんと美しい日だ。小さい庭には花が咲き乱れ‥我は満たされている。ついでに腹も満たしておくか」


「小さい庭で悪うございました」

「起きたな、おはよう」


「起きたな、じゃねーよ。昨日はうるさくてちっとも眠れなかったんだぞ」

「それは我のせいなのか?」


「そうに決まってるだろうが。俺が仕事してる間に女なんか連れ込みやがって」

「女が悪いのか?」キングは悪びれもせずキョトンとしている。


「もういいよ。ところで『宏樹さん』って誰だよ?」

「我だ」


「どっからその名前持って来たわけ?」

「・・さぁな。思いついた名前がこれだっただけだ。名前を聞かれてキングだとは言えんだろう」


 ま、どうせまたテレビ見て持って来た名前なんだろうしな。


「俺にもコーヒーくれよ」

「ああ、朝食も出来てる。機嫌を直せ」


 二人で朝食を食べながら俺は昨日のバイト先での事を思い出していた。


「キングさ、うちのコンビニでバイトしろよ」

「なんと、我に働けと?」


「いや、真面目な話さ、母さん達にも一緒に暮らしてるって話してないし、二人分の生活費を俺のバイト代だけで賄うのは無理なんだよ。ちょうど深夜のバイトに空きがあるし」


「生活費か。ミートボールが食えなくなるのはまずいな」


 そこかよ・・。


「だが夜だと我はヴァンパイアに戻ってしまうぞ。昨日夜になってから術を試したら使えたのだ」

「あっ! そうだった。お前、お姉さんに人間じゃないってバレちゃったんじゃ・・」


「いや、カラコンを入れてると言って誤魔化した」

「それだよ! 夜はカラコン入れときゃいいじゃん」

「なるほど」


「どうせなら夜だけじゃなく昼も働いたらいいんだよ。まずはコンビニバイトで慣らして・・」


 そこへ家の固定電話が鳴り響いた。




         

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