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ヴァンパイアキング


 それは余りにも平凡な、白木で出来た両開きの扉だった。


 この先に最終ボスがいるはずなのに拍子抜けしてしまうほど簡素な扉。まるで雑居ビルの奥にひっそりと営業を続けるラーメン屋の扉のようだ。


 この地下100階に辿り着くまで様々な強敵やトラップをかい潜って来た。しかしどの階層のボス部屋もここよりずっと重厚で凝った造りの扉だった。


 だが彼は勇者だ。こんな事で油断したりはしない。仲間二人と共に慎重に扉を押し開く・・。


 3人が足を踏み入れると後ろで扉が閉まり、カウントダウンが始まった。3分が経過しないと扉は開かず逃げられない。6分以内に最終ボスを倒さなければ90階に戻されてしまう。


 勇者と仲間二人が選択したのは単純な力任せのごり押し作戦だ。タンクが先導を切って部屋の真ん中を走り抜ける。雑魚を無視して最奥にいるボスに直行するつもりだ。


 だが数歩進むと前方が見えなくなるほどのコウモリの群れが彼らを襲った。手のひらほどの大きさだが数が凶悪だ。タンクは大きな盾と雷撃効果のあるハンマーで道を切り開く。多くは盾で弾き飛ばされ、ハンマーから放たれる雷でバタバタとコウモリは撃ち落されていく。


「もうすぐだ! これを抜けたら眷属が出てるぞ気を付けろ!」勇者が声を張り上げる。その掛け声が終わらないうちに幾つもの影が勇者たちの前を横切った。タンクのHPがみるみる削れていく。


「ヒーラー、タンクにエクストラヒールと物理バリア展開」


 ヒーラーの反応は早かった。バリアで敵の攻撃をブロックしている間にタンクのHPは8割まで回復した。

 タンクを円形に包む物理バリアは柔らかいたまご色に輝きながら回転している。タンクに襲い来る眷属は猫のような目をして両手にシミターを持ち素早い動きでこちらを翻弄してくる。


 タンクは盾で特攻をかけるがコウモリの様に弾き飛ばすことは出来ない。雷撃によって眷属の足は止まるが感電からの回復が思ったより早い。


 勇者も大剣で大きく振りかぶるがなかなか物理攻撃のクリティカルが出ない。


「くっそ、相手の回避率が高すぎる」


 まだボス部屋の中央にも来ていないのに既に2分が経過してしまった。


「ダメだ後退だ。90階に戻されるよりは一旦逃げるぞ」


 タンクが眷属をけん制しながら後退するがコウモリの大群が復活し始めていた。勇者は大剣を振り回しコウモリをなぎ倒して行く。ヒーラーの目に外へ出る扉が見えてきたその時。


 タンクの物理バリアが切れHPが一気に半分以下まで削られた。ボスに見つかってしまったのだ。


 ボスの攻撃が放たれる。勇者の背丈ほどもある鋭い氷の刃がタンクに降り注いだ。ヒーラーがバリアを掛けたが今度は間に合わなかった。タンクが倒れると眷属たちの猛攻が勇者とヒーラーに襲い掛かる。


 後方からは眷属の猛攻と無数の氷塊が降り注ぎ、扉の前には復活したコウモリが黒い壁を作っていた・・。




  _______GAME OVER__________




「未熟者め!」


 最終ボスの声が響き、仲間二人は死亡状態でスロットに戻され勇者は90階にワープしてしまっていた。



「だぁぁぁあああ~くっそぉ」


 VRのゴーグルを勢いよく外してその男は悔しがった。「まぁっった90階からやり直しかよぉ」


 男は傍のテーブルにあるレッドブルをがぶがぶと飲み干しながら呟いた。「確か攻略サイトにラスボスの動画上げてるヤツいたよな。それ見てからやるか。あーあ、自力で倒したかったんだけどなぁ。さすが100階はムズカシーわ」


 今度はPCデスクに向かった男はコンシューマーゲーム『The Prisoner』の攻略サイトでラスボス攻略動画を見始めた。


 


 この勇者は4人パーティーだった。

 時間制限があるこの部屋ではやはりボスに直行するのが上策のようだ。タンクが数で襲い来るコウモリを蹴散らしどんどん前進していく。


 違ったのはここからだった。ボス部屋半分ほどの辺りで両手にシミターを持ったネコ科の眷属が現れたが、この勇者はもう一人の仲間・アークメイジと共にすべて倒しながら進み始めたのだ。ここで音声が入った。「ネコの眷属の生存数に比例してボスの防御と攻撃が上がるのでなるべく倒した方がボスが楽です」


「なんだよ、最初にそれ言ってくれよぉ」


 タンクの雷撃で眷属の足を止め、アークメイジの強力な単体火炎攻撃と勇者の斬撃で確実に1体1体仕留めて行く。


「あのアークメイジを育成するの面倒なんだよなぁ。初期成長は遅いし必要EXPが半端じゃないし。でもコイツがいないとやっぱ100階は無理かぁ」


 まだ4分以上を残してこのパーティーはボスの前まで辿り着いた。


 最終ボスはヴァンパイアキング。


 肩まである漆黒の髪に真っ白な肌。口角がキュッと上がった赤い唇からは尖った牙が覗いている。体のラインが分かるぴったりとした赤い衣装に身を包んだヴァンパイアキングはただのイケメンモデルの様にも見えるが、その金色に縁どられた紫の瞳からは敵意がほとばしっていた。


「血を捧げろ! その体はここで朽ちて我の贄となるのだ!」


 

 

 

 


 



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