第十八話
夜。今日はカロリーヌさんも恒例となっているオフェリーさんとのお茶会に加わった。2人に聞きたいことがあったから誘ったのだ。しばらく雑談した後、タイミングを見計らっていた私にオフェリーさんが切り出してくれた。
「何か悩み事ですか?私達でよければお話しください」
「はい、遠慮なく言ってください」
2人は快く了承してくれた。この人達なら信用できるだろうと思い私はずっと気になっていたことを尋ねた。
「実は……ずっと番ってなんだろうって考えていたんです。図書館で調べてもあまり詳しく書かれておらずよく分からなくて……」
「ふむ……、確かに難しい質問ですね」
「ええ、どう説明すれば良いのでしょう?」
「私がアメリー様くらいの頃は親兄弟を見て育ってそれとなく番というのはこういうものなんだと察しましたけどね」
「あっ……そうなんですね」
それじゃあ私は無理だ。だって親は人族だしそもそもこの世界で生まれ育っていないからそういう感覚がよく分からない。両親の仲も両親との仲もそれほどよくなかったし。
「カロリーヌ!」
「あっ……失礼しました。お許しください……」
「いえ、大丈夫です。気にしないでください」
どうやら顔を少し曇らせた私に親がいないと勘違いをしているようで2人とも少し青ざめている。失言をしたと思っているのだろう。別にそんなこと全く思わなくてもいいのに。一応生きているだろうしただ会えないってだけでそこまで気にしていない。
もちろん最初の頃は帰りたかったし、会いたいと思ってたけどここまで来るともうさほど執着はない。空間魔法を調べていたのも誰が私をここに連れてきたのかが気になっただけの話で今更帰れるなんてそんな希望すら持っていなかった。冷たいやつだと思うかもしれないが、もう諦めて吹っ切れてしまったんだと思う。
「それでもう一度お聞きしますが……番とはなんですか?お2人とも番がいらっしゃいますよね?」
私がそう言うとオフェリーさんとカロリーヌさんはお互い顔を見合わせたあと、言葉を選ぶように代わる代わる口にする。
「番とはそうですね……本能が求める人ですかね」
「この人が好き。この人がほしい。一緒にいたい。そばにいてほしい。愛したい。守ってほしい。守りたい。この人と家族になりたい。ずっと離れたくない……。そのような相手のことですよ」
「一生変わることのない特別な存在のことです」
「ええ、どんなに時が経っても変わらない愛する人、それが番です」
「一目見てこの人だって確信しました」
「そうね、目が合った瞬間ビビッときたのです。アメリー様はそういうのを殿下に感じなかったのですか?」
確かにあの時間違いなく私の番だって思った。この人を傷つけてはいけない、殺しちゃいけない。そう強く思った。
でもなんで?初めて会った人なのにそんな風に思うのはおかしいと思わないのだろうか。いや、この人たちはそれが当たり前だと思っているからこそそう言ったのか。そういう環境で育ったからなんの疑問も持たないのだ。でも私は違う。私は地球で18年間、人として育った。運命なんて非科学的なものは信じていなかったし、逆に信じている人がいるのか聞きたいくらいだ。
「アメリー様?どうかいたしましたか?」
黙り込んでしまった私を心配そうに見つめる2人に首を振る。
「いや、なんでもないです。付き合ってくださりありがとうございました」
「いえ、お役に立てず申し訳ありません」
「何かあればまたいつでも相談してくださいね」
2人はそう言って部屋を出て行った。私はまだしばらくその場から動けなかった。
(愛……か……)
そんなもの知らない。今まで触れる機会がなかったから分からない。それに本能が求めるって何?一生気持ちが変わらないってどういうこと?それは呪いとなにが違うのだろう。はたとそう思った。
初めて見た人を好きだと思う、運命だと番だと信じて疑わない。そこに自分の意志はあるのだろうか。そもそもそれがあるのならその番は本当に番と呼べるのだろうか。ただの勘違いではないの?
(ああ、訳わかんなくなってきた……)
でもこれだけは確かだ。私があの人を縛りつけている。かつて私が隷属の刻印で縛られていたように……。
拗れに拗れてきたアメリーちゃんですね。そんなアメリーちゃんをルシアンはどう懐柔していくのか……、それはこれからのお楽しみです。
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