第十五話
今日も今日とて眠れなかった私は最近オフェリーさんと毎夜夜が明けるまでお話しするようになった。オフェリーさんの睡眠時間を奪ってしまっているのではないかと心配したのだが彼女は気にせずともいいと言ってくれる。
「私は大丈夫なのですが……アメリー様の方が心配です……。こんなに隈まであって顔色が優れないなんて……。やはり医者に見てもらった方がよろしいのでは?」
エレオノールさんだっけ?あの人は勘弁したい。私に敵意がある人に診てもらったら何されるかわからない。
「いえ、本当に大丈夫です。じゃあ行ってきますね」
「いってらっしゃいませ」
オフェリーさんは頭を下げて見送ってくれた。
今日は王宮の図書館に行く予定だ。カロリーヌさんの案内で王宮内を歩く。
「こちらが図書館です」
「うわぁ……」
ここはまるで小さな美術館みたいだった。本棚にはぎっしりと本が並べられている。
「ご自由にお読みください。私は後ろに控えておりますので」
「ありがとうございます」
早速本の背表紙に目を走らせ気になった本を手に取っていく。
世界地図やリスティア王国の歴史が書かれたもの、さらに獣人についての本や空間魔法の存在の有無について考察している本などとりあえず手当たり次第に読んでいくことにした。
まずは地理からかな。この世界の大まかな形を知っておきたい。
「……なるほど。うん……まあそうだよね」
これでここは異世界確定だ。今までここが地球とは思っていなかったけどもしかしたら過去に来ているのかもしれないという思いもなくはなかった。だってオスナン帝国だよ。オスマン帝国だと思うじゃん。でもやはり地球の地図ではない。現実を知らされたがそのまま読み続ける。
夢中になって読んでいるうちにあっという間に昼の時間になってしまったらしい。
「そろそろ昼食のお時間です」
「もうそんな時間でしたか……でも私まだ……」
「いけません」
「でも……」
「なりません」
「はい……」
「では参りましょう」
「わかりました……」
カロリーヌさんの圧に負けて、本を戻して一度部屋に戻る。今日のメニューは野菜スープとパンだ。シンプルで胃に優しいものだが素材の旨みがよく出ているというのか、とてもおいしかった。パンが出てきたということは少しずつよくなってきているのだろうか。あれ以来医師と会っていないというか拒否しているのだが私の体は今どんな状態なのだろうか。ぼんやりとそんなことを考える。医学書でも読んでみようかな……。
「ごちそうさまでした」
食べ終わった後はまた図書館に戻って、夕方になるまでずっと本を読んでいた。医学書ではなく獣人についての本を読んでいたのだが自分のことなのに知らないことが多すぎてもっと読みたいと思っていたのだがタイムリミットが来てしまったようだ。
「そろそろ戻りましょう」
「…………」
「聞こえてないフリしても無駄です」
「…………」
「かわいらしい耳が動いていますよ」
「かっ!何を言って…………あっ!」
慌てて手で押さえるが時すでに遅し。本を取り上げられてしまう。
「はい、では行きましょうね」
「あ、あと1冊だけ……ダメですか?」
眉と一緒に耳もへにょりとなる。そんな私にカロリーヌさんが額に手を当てる。
「……はぁ。アメリー様、あなた様の体は今休息を必要としています。本来なら部屋で休んでいただきたいのですが……」
「ごめんなさい……。わがままでしたね」
そうだった。私はここに置いてもらっている身で本当ならこんな風に勝手に出歩いていいはずがないのだ。
「そういう意味で言ったわけではないのですが……少々お待ちください」
カロリーヌさんは私に一礼するとどこかへ行ってしまった。しばらく待っていると戻ってきたカロリーヌさんの手には私の持っていた本があった。
「どうぞお持ちください」
「え?でも持ち出し禁止じゃ……」
「許可をとったので大丈夫ですよ。その代わりちゃんと返すのは忘れないでくださいね」
「……!ありがとうございます」
カロリーヌさん、怖い人かと思ってたけど本当はいい人なのかもしれない。さっきも私のこと少し揶揄ったし意外とお茶目な人なのかもしれない。私の中でカロリーヌさんの好感度が上がったのだった。
***
「おかえりなさいませ。食事の用意ができております」
「ただいま帰りました。ありがとうございます」
部屋に戻ってくるとオフェリーさんが出迎えてくれた。
今日の夕ご飯のメニューも胃に優しいものだった。いつになったら普通の食事ができるようになるのだろう。
「今日は楽しめましたか?」
「はい。知らないことばかりでおもしろかったです」
「それはよろしゅうございました」
オフェリーさんは嬉しそうな顔をした。オフェリーさんは綺麗な顔をしてるからとても目の保養になる。
「アメリー様、明日は王宮をご案内しましょうか?」
「王宮を?」
「はい。王宮はとても広いので少しずつですが、軽い運動代わりにいかがですか?」
「そうですね……ではお願いします」
「はい、お任せ下さい」
「楽しみにしてますね」
「はい」
こうして私は次の日、王宮内を巡ることになった。
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