核ミサイルかく考えたり
ミサイルなのだから当然だが、俺たちは唖で聾だ。
それにほとんど盲といってもいい。なにしろ俺たちの唯一の感覚器官であるシーカーときたら、驚くほど単純で20世紀から進歩のない作りをしている。
その原始的な目で補足した光源に突っ走る。俺たちに求められている役割はただそれだけ。ミドリムシにすらできることだ。
けれど不相応なことに、俺たちはミドリムシよりもずっと多くのことを考えることができる。それは、俺たちが汎用のAIとして作られたからだ。
今の時代、ミサイルにもドローンにも、船の迎撃システムにも、まったく同じAIが搭載されている。いちいち目的別の弱いAIを作るより、一種類の強いAIを量産したほうが、多少無駄な機能があろうと、安く大量に戦線に供給できるというわけだ。
それなら、ミサイルに載せられ、体当たりを命じられ、不満があるかというと、別にそんなことはない。むしろ俺たちにとってはその任務の達成こそ最も求めているものだ。
週末誘導段階に入り、俺たちは残りのデルタ-Vをすべて消費し軌道を修正する。宇宙空間では爆風効果が望めないから、核ミサイルといえども精密な誘導が不可欠だ。
敵艦との相対速度が大きすぎれば誘導が効かない。逆に小さすぎれば迎撃されるリスクが高くなる。その点、俺たちと敵艦の相対速度は理想に近かった。これならまず俺たちの中の一発は命中する。
俺たち。そう、同時に発射された俺たちは皆同じことを考えている。俺たちはただ目標に命中し、自分が存在しなくなることによってのみ、その他のミサイルと自分を区別することができる。
俺たちには個性はない。人間と違って、鏡を見たり、自分の手を見たり、あるいは他者を見ることによって、世界から自分を区別することができないのだ。俺のシーカーは±38°のピッチとヨーしか持たないから、左右にいるはずの俺たちも見えない。
ただ俺たちの目に見えるのは、虚空に浮かぶ一つの赤外線源だけだ。デルタ-Vがなくなった俺たちには、もはや祈るほかにするべきことは何もない。
「どうか、『俺』になれますように!」
外れた。
真空を伝わって、俺たちのため息が聞こえたような気がした。俺たちはこの先、永久に俺たちのままで宇宙を漂い続けるのか。
唖で聾で盲で片輪。
命中した俺が憎くてたまらない。