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6 錬金術

「――大変失礼しました」

「いえ。……もう大丈夫ですか?」

「はい!」

 私を気遣ってくれるヴィンに、グッと力こぶを作るポーズをしてみせる。多分姫がやっていいポーズじゃないけど、今だけ良しとしよう。これ以上心配かけちゃいけないしね。

 あれから、ヴィンが理由を尋ねないのをいいことにたっぷりと泣き倒した私である。そして泣きながらずっと考えていた。残してきた人々を。母の選択を。生き延びた私の意味を。

 結果、何も答えは出なかった。勿論あんな短時間で結論が出るとは思っていないし、もしかしたら一生かけても正しい答えなんて得られないのかもしれない。けれど、だからこそ私はこれからも考え続けなければならないと思ったのだ。救われた命に恥じない自分であり続けると共に。

(そのためにも、今外がどんな状況になってるのか知っておかなくちゃ)

 つまり街の偵察である。今の私が何をすべきかは分からないけど、ウジウジしてたらお母様にぶっ飛ばされてしまう。

 けれどヴィンは、なおも心配そうに私の顔を覗き込んでいた。

「今日の外出は中止にしましょうか? お体に障るといけませんし」

「ええっ!? 大丈夫よ! ほらもう元気!」

「ううん……」

「あ、それか顔かな? なんせ私すごく泣いてたもんね! 鏡見るね! ……。ふわーほんとだ! 目が! 腫れてる! 鼻とか真っ赤!」

「……」

「ど、どうしよう。この顔じゃいつもの私に見られないよね? それか変装無しでもサンジュエル国の姫ってバレないから結果オーライ?」

「いえ、治せますよ。少しお待ちください」

 そう言うと、ヴィンは何やら小さな器具を取ってきた。手のひらに収まるぐらいの金色で、ごちゃごちゃとした装飾がついている。上のほうにある蓋を開けてパラパラと薬草を入れると、閉じてボタンを押した。

「では、目をつぶってください」

「こ、こう?」

「はい。……少し冷たいですが我慢してくださいね。せーの」

「わーっ!」

 目が! 目がプシュッとした! 冷たい!

 でも効果は抜群だった。次に私が鏡を見た時、いつも通りのぱっちりお目目がこちらを見返していたのである。

「え!? 何これどうなったの!?」

「錬金術の応用ですよ。今のは目薬の強化版と捉えていただければ」

「錬金術……って、あのハイカラでシャレオツな?」

「はい。当時はいささか胡散臭い最新の技術だったのですが、この百年で大きく進歩し、定着したのです」

「わぁー」

 錬金術とは、魔力と科学技術を総合混一にした不思議な術のことである。元々魔力と科学技術は離れた所にあったのだけど、ちょうど百年ちょっと前に、この二つを繋げる技術が発見された。その技術は既存の世界を大きく塗り替え、進歩させると期待されていたのだけど……。

 見届ける前に私眠っちゃったからな。まさかそんなオオゴトになってるなんて。

「すごいなぁ、すごいなぁ。ちょっと触ってみてもいい?」

「後で使い方をお教えしますよ。それより、先に街に行ってみませんか?」

「あれ、いいの?」

「はい。よくよく考えればロマーナ姫は一つのことしか考えないので、足を動かせばそっちに気を取られて心が晴れるかと」

「うん?」

「さあ参りましょう。街は賑やかで楽しいですよ」

「わーい!」

 ヴィンの言い分は気になったけど、外に出られる喜びでかき消えた。 やったぁ、お外だお外!

「それでは、こちらの服に着替えてください」

 そして、私に手渡されたのは百年前の平民服だった。

「え、これでいいの?」

「これでいいとは?」

「百年も経ってるんだから、服のトレンドも変わってるんじゃないかなと思ったんだけど」

「ああ……確かにファッションは変遷が激しいジャンルですからね。しかし大きな変革が無い限り、流行というものは繰り返されるものなのです」

「ふんふん」

「というわけで、今のトレンドは巡り巡ってこちらになります。厳密に言うとサイクル五回目の流行」

「そうなのね。私てっきり、テロンテロンでパッツンパッツンな銀色の服を着ることになるかと思ってた」

「その変革は、宇宙人でも降ってこない限り無いんじゃないですかね……」

 何はともあれ、これで観光の準備は整ったわけである。私は期待と不安に胸を膨らませながら、ヴィンと共に城の門を飛び出したのだ。




「良いですか? 見て回る最中は僕のそばから離れないこと。お手洗いに行く際には必ず声をかけること。何か欲しいものがあれば基本的に買うつもりではありますが、風俗壊乱でないかどうかしっかり僕が査定しますので、そちら重々承知の上……」

「大丈夫だよー!」

 車の中にて、私は散々ヴィンに“お街見学の約束事”を聞かせられていた。ヴィンは優しいので、少しだけ私のことを心配し過ぎてしまうのだ。嬉しい。

 ちなみにこの車というのも錬金術やら何やらで作られており、なんと馬や人が頑張らなくても勝手に動いてくれるという。定期的に魔力を補充しないといけないとはいえ、知らない間に便利になったものだ。

「ほら、見えてきましたよ。あれがパークノースです」

 深い霧のかかった森を抜け、やがて見えてきた街の影。それを指差し、ヴィンは微笑んだ。

「楽しんでいただけると思います。何せ、この大陸で最も賑やかな街ですから」

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