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2023 小野寺ルミ編  作者: 仮面ライター
6/21

4月6日(木)

 香織さんと郁美さんという、私には珍しい組み合わせでハッピーアワーな時間帯からグラスを傾けている。お店の中をパッと見回しても、マトモな社会人と言われそうな人はほぼいないように思える。

 学生さんの新歓コンパっぽい賑わいを表向きは温かい目で見守りながら、時間制限なんて気にしないで飲みたいものを飲み、食べたいものを食べ、精神の安定を図っている。

 郁美さんも学生の団体さんが気になるようで、時折あがる大きな声に視線をやりながら、お替りのビールを頼んでいた。

「先週は大変だったんだね......」

 香織さんの優しい声に、つい涙がこぼれそうになる。

「これがその透って奴?」

 郁美さんは私のスマホを触り、透が写っている写真を表示した。先週ばったり会って、半ば押し切られる形で家までついてきたときに無理矢理撮らされたツーショット。すぐに消そうと思ったけど、何かあった時の証拠として残してある。

「幼なじみでこの顔なら、色々あるよねぇ」

「確かに、モテそうな顔してる」

 香織さんもスマホを覗き込み、郁美さんの意見に賛同する。確かに器量は悪くないし、スポーツもそこそこできたけどーー

「性格は難あり、と」

 郁美さんの呟きに、首を大きく縦に振る。香織さんは目を細めて、私の顔を見る。

「でも、だから気になるよねぇ」

 香織さんの指摘に、郁美さんは「そっか、そうかも」と頷いた。「で、本気になって手を出すと、こうなっちゃう」と、彼女は自分を指した。

「二つバツをつけて〜も、ちっとも大人になんてならない」

 香織さんはちょっぴり節をつけて言うと、肩を竦めた。

「うわっ、懐かしい。明日も仕事がなかったら、このままカラオケだったのに」

 郁美さんが「ねぇ?」と同意を求めるように私の顔を見た。一人でキョトンとしていると、香織さんが「ルミちゃんは世代じゃないから、分かんないって」と郁美さんに言った。

「そっか、そっか。『るろ剣』も、佐藤健だもんね」

 『るろ剣』は佐藤健でしょ? 普段からそんなに接点がなさそうなお姉さま方が、二人だけで仲良さそうに話しているのを見ていると、だんだん酔いが覚めてきた。透の件を愚痴ってやった高揚感が、次第に遠のいていく。

 お皿にちょっとずつ残っていた料理を二つ、三つ口に運び、レモンサワーをグイッと飲み干した。空いたお皿を下げに来た店員さんに、ハッピーアワーが終わる前にもう一杯同じものを頼んでおく。

 少しでもストレス発散になればと、たまたま一緒だった二人を食事に誘ってみたけど、失敗だったかな? このところ、妙に上手くいっていない気がする。モヤモヤをぶつけられるような趣味、あったかな......。

 もう香織さんも郁美さんも興味がなさそうな私のスマホを回収し、二人の会話を気にかけながら、LINEを開いた。退勤後の仕事の連絡は特にないけど、彩夏からの新着が届いている。


ーーまた今度、ダンスしない?


 高校のダンス部を卒業して以来の、彩夏からのダンスのお誘い。マトモに身体を動かさなくなって久しい今日この頃、インドア趣味が充実してしまってオバさん化に拍車がかかりつつあるけど、ちょっとずつ慣らしていくのは悪くないかも。

 新しく運ばれてきたキンキンのレモンサワーを、景気付けにグビッと飲んだ。

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